ErogameScape -エロゲー批評空間-

ntrmk_stoneさんのキラ☆キラの長文感想

ユーザー
ntrmk_stone
ゲーム
キラ☆キラ
ブランド
OVERDRIVE
得点
90
参照数
778

一言コメント

素晴らしい作品でした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 ずっとやりたいと思っていましたが、ようやくプレイしました。10年も経ってしまった。
文化祭のために作ったバンド「第二文芸部」が、全国(つっても東京以南しか行かないけど)ツアーで青春するぜ!って夏休みかけて各地を回るまでが共通です。

 共通ルートは青春を絵に描いたような話でとても気持ち良かったです。ツアーといっても行き当たりばったりで、次に演奏するライブハウスを探すのにも苦労するし、きらりが緊張してステージ上で声出せなくなったり、恩田とかいうホモに主人公が求婚されたりするんだけど、そういったトラブルもみんなで協力して乗り越えていき、素晴らしいツアーを作っていきます。ただ恩田だけは必要ないキャラだったと思ってるけどな。なんやあのホモ。

 このツアーでの一番の見どころは、ステージに上がる時の高揚感が良く表現されていることだと感じました。平凡だった世界が、ステージライトが照らされた瞬間にものすごくキラキラと輝いて、彼らは最高のパフォーマンスを見せます。「ステージに上がっている今、この瞬間は無敵だ」って表現が出てくるんですが、本当に鹿之助くんやヒロインたちの歌声や演奏は無敵に見えたし、もちろん本人たちもそう思っていたことだろうと思います。これが青春ってやつだ。

 そんな風にキラキラした青春が描かれるんだけど、ツアーが終わり新しい学期が始まるところから個別ルートに入ります。個別ルートでは共通とはうってかわって重いテーマとなっていました。紗理奈ルートは、もともと病弱な紗理奈が、療養として祖父により田舎に連れていかれてしまうのを助けに行く話。紗理奈は両親を亡くしているんだけど、その経緯もここで語られます。千絵姉ルートは、一年前に離婚した父親をめぐって家族の関係について揺れ動く話です。

 この辺が、まぁ重い。キラキラってこれタイトル詐欺やろってくらい重かった。ツアーのはっちゃけ具合や楽しさに比べるともうあり得ない落差。でも、大げさに言うと、やっぱこれが生きるってことなんだなぁって思いました。彼女たちはパンクロックの精神とは違って、非常に現実的な選択をします。楽しい時間や自由な時間は過ぎ去ってしまうんです。この2つのルートでは、彼女たちはいろんな音楽関係者からバンドとしての将来を嘱望されますが、夏休みを最後にバンド活動をきっぱり辞めます。きっとそれは正しいことなんだと思います。過去を思い出にしてしっかり未来へ進む彼女たちはすごくたくましく見えたし、応援したくなりました。


 そしてきらりルート、このルートは一番力入れて作ったんだと思いますが、すごく感動しました。
 きらりは、父親が鬱病によって生活態度が荒れてしまっていて貧乏生活を余儀なくされているんですが、1つ目のエンドでは父親が無理心中しようとして家に放った火に巻き込まれて死んでしまいます。この死がね、本当にあっけなく書かれるんです。たった1文で。共通ルートでね、ほんとにきらりに感情移入してたんですけどね、このきらりの死のシーンは暫く呆然としてた。ここから5年間、鹿之助くんはバンドを続けながらもきらりの死を受け入れられなくて停滞してしまうんですが、その気持ちわかるわ。俺もそうなるわ。
 でも鹿之助くんはあるとききらりの幻影を夢で見て「僕は大丈夫になってしまったんだ」とつぶやきます。そうしてきらりの形見のマイクをもってステージに立ちます。過去を思い出とすることを受け入れた、このシーンの鹿之助くんはなんというか、一歩前に進んだなぁと感じました。やっとこの閉塞感を抜け出したんだなぁと思うと安心しました。

 END2では、きらりは歌手の道を進むことを決断します。きらりは、「鹿クン、世の中には、悲しくて寂しいことがいっぱいあるね。私ね、なんだか歌わなきゃいけないことがあるような気がしてきたんだ」と話します。きらりは家庭環境も悪いし貧乏だしで本当につらい境遇のヒロインでした。でもいつも笑顔を絶やさなかった。そんな彼女が、歌で、世界に幸せをもたらすんです。もう健気すぎます。強すぎます。俺は元気で明るいヒロインが好きなんですが、こういう境遇や経験をもってしてなお明るく、幸せを振りまく姿にもう、完全にやられました。きらり大好きです。

 この物語は「青春とその後」を描いています。青春を描く作品は多いですが、その後の話を描いたものはあまりないかと思います。この作品のように重いテーマになるとなおさらです。そういった、決して綺麗なだけじゃない物語を描いたのがこの作品が名作と呼ばれる一つの所以かなと思います。キラキラした日々はとても楽しく、でもいつかそれを思い出にして前に進んでいく、その姿にとても感動しました。本当に素晴らしかったです。