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ntrmk_stoneさんのPP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞の長文感想

ユーザー
ntrmk_stone
ゲーム
PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞
ブランド
Innocent Grey
得点
90
参照数
606

一言コメント

--ハッ、くだらねえ(めっちゃ面白かった)

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

昭和初期の時代設定やジャズミュージック、奏介さんのピアノサウンドのおかげか、次々と殺人事件が起こる殺伐としたストーリーながらもどこか哀愁漂う幻想的な雰囲気が作られていて、没入しながらプレイすることができた。ミステリー作品っていう触れ込みだったようだけど、犯罪のトリックがあるわけでもないし事件の黒幕に意外性もないのでミステリーとしては弱いと思う。むしろ奏介さん含めた登場人物の魅力をじっくり味わうゲームだと思う。

特に久遠ルート、物語全体の中でも重要な部分だし面白かった。久遠は聡明ながらも、両親ですら(間接的な)人殺しを厭わない異常さがある。幼い容姿で淡々とした口調、なんとも言えない魅力を感じた。実は人を狂わせて殺人衝動を起こさせる凶器「リフ=ラフ」の製作者で、最後にはその責任を感じで投身自殺する(しようとして結局助かっちゃう)んだけど、その時さえ感情のブレが全くない。彼女は自身を含めた世界を神視点で俯瞰しているように思えた。そういったところも不思議な魅力の一つなんだろうと思う。

そんな彼女が、三章の終わりでメインヒロインの綾音とバーで会話するシーンがあるんだけど、このシーンが本当に好き。綾音は裏表のない、屈託ない真っすぐなキャラクターで、久遠とは全く対照的なキャラである。ここで久遠は「(友達がいるって)いいですね」「喧嘩できる友人が側に居るのはとても貴重な事です」って話すんだけど、唯一彼女の人間的な部分が垣間見えるシーンに思えた。

その綾音はどのルートでも殺されてしまうんだけど、久遠がすべてを償って飛び降りた(けど助かっちゃった)後、最終ルートとして彼女が殺されなかった幸せなifの世界が描かれる。彼女にとって唯一の救いだし、夢の中で生きているよ、って奏介に語り掛ける終わり方、これは卑怯。心地よい余韻を残してコンプすることができた。

つうかこれ奏介さんがくだらねえとか言ってるだけのネタゲーって印象しかなかったんだけどめっちゃ面白かった。名作でした。イノグレさんすみませんでした。