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ntrmk_stoneさんのSummer Pocketsの長文感想

ユーザー
ntrmk_stone
ゲーム
Summer Pockets
ブランド
Key
得点
87
参照数
1608

一言コメント

keyは健在だったか?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず、この作品は面白くて感動してしまったし、客観的に見ても完成度が非常に高かったです。その上で感じたことを書いていこうと思います。

まず個別ルート、これはとても楽しめました。美麗なグラフィックや音楽が綺麗な夏の一幕を彩り、七影蝶や神隠しなどのファンタジー要素のおかげで、どのルートも幻想的で、不思議な一夏の体験を見事に演出していました。特に好きなのは鴎ルートですね。宝探し、洞窟探検なんてまさに子供のころの夏のワクワク感が詰まってるじゃないですか。それで一緒に冒険してた鴎は実は病気で本当はここにいないなんて・・・。鴎も本当はこういうワクワクした時間を過ごしたかったんですよね、ひと夏という儚い時間でも、それが幻想とわかっていても夢を叶える、そういうストーリーに弱くてとても感動してしまいました。

ALKA、Pocketsについて。ここではしろは、うみ、羽依里の話がメインになって、時間遡行や転生といったファンタジー要素もありつつ(これは個別とも同じですね)家族愛や親子愛を描いています。やはり綺麗な話・・・なんですが、個別の青春っぽいテーマから一転、家族にスポットが当てられたのでちょっと戸惑いました。あとこれまでに仲良くなった島の人がヒロイン含めてほとんど出てこないのは悲しかったですね。これがtrueなの?って感覚はありました。ただストーリーとしては非常に面白くて、3人それぞれが(Pocketsでは主にしろはとうみが)やりきれない運命の中で家族を大事に思ってる姿が綺麗に描かれていて、その点は純粋に感動しました。


ここからは作品感想というよりkeyやエロゲ界全体の話になりますが、keyというブランドがこの作品を発売したことについて。
ぼくは、個別まではkeyだけど、ALKA以降はkeyじゃないなって印象を受けました。非常に感覚的な話になりますが、個別は、例えば鴎でいうと夢を叶えたいが為に島に現れて、それが夢だと気づいた瞬間に消えてしまうなんてkeyっぽいじゃないですか、あとそれがあくまで超常的現象で、説明一切ない所とか特に(うまく言えないけど)。でもALKA以降はkeyとしては小さいスケールで描かれてるなあと思いました。あと個別とテーマも変わってる印象を抱きましたが、個別と一貫したストーリーとして青春を軸にした話の方がkeyっぽいかなぁと思いました。作品の完成度は申し分ないと思いますが、keyっていうビックネームに対してどうかという視点では未完成かな、という感覚です。

最後に「keyは健在でしたか?」という問いの答えについて。
Summer Pocketsが発売された際、麻枝准が「keyは健在でしたか?」と問いかけていました。僕はこの作品をプレイして、エロゲ(ノベルゲー)界の中で「keyは終わった」と感じました。
keyがエロゲ界の趨勢の中で最上位に君臨していたCLANNAD前後の時代は、keyという作風はkeyにしか出せなかったと思うんですよね。ヒロインの死やファンタジー要素をうまくストーリーに落とし込むのって。だからこそ特別な人気があるんだと思っています。
それから10年以上たってエロゲーもたくさん作品が出てくる中で、keyっていう特別にでかいブランドがあったおかげで、それがある意味多くの作品の潜在的な親になってる側面があって、keyっぽい作風が比較的特別じゃなくなってきたと思うんです。いろんな作品で人が死ぬし超常現象が起こるし、極端な話するとグランドエンドがある作品も増えてきたと思うし。
そこでこのSummer Pocketsという作品のグランドエンドを見て、これはkeyが潜在的な親になって生み出された数多の作品とそんなに変わんねえんじゃないかな、って思いました。非常に厳しいのかもしれませんが、この視点で見た時に、エロゲ(ノベルゲー)界の中で「keyは終わった」と思っています。ただkeyを貶してるわけじゃなくて、一時代を築いてたくさんの人や作品に影響を与えた点では本当に大きな存在だし、役割が変わっただけでブランドはずっと続いてほしいなぁ、とは強く感じています。

いろいろ厳しい感想も書きましたが、作品の完成度は最高峰なのは間違いないです。特に往年のエロゲーマーの方々、keyというブランドがこの作品を出したことに何かしら思うことはあるはずです。是非多くの人にプレイしてほしいと思います。