主人公が主人公じゃない
本作はコンセプトとして、青春譚、奮闘記、成長物語が挙げられています。
エロゲなのに恋愛が挙げられていないのはどういうことか(笑)
青春譚の表現の場として架空スポーツであるテレプシコーラの部活動があり、部活動の中での青春をしてくれるのですが、
そこに恋愛要素はほとんど存在せず、それは個別ルートで遊んでくださいね。とはっきりと分けられています。
ヒロインたちやサブキャラの憧れも、美しさも、努力も、苦しみも、不協和音もよく描写してくれています。
心情描写の丁寧さはこのライターの大変好みのところです。過去作と同様よく表現されています。…一部を除いて。
奮闘記、成長物語とヒロイン勢、サブキャラにおいてもよく伝わってくるのですが、主人公がよくない。
人間関係、物語の立ち位置としては主人公ですが、主人公本人にコンセプトである奮闘記、成長物語がまったくと言っていいほどない。
この点が主人公が主人公じゃないと感じる点です。
ヒロイン勢、心の弱さを試合ごとになんとか克服していく玻璃ちゃん、今まで劣等感を抱き続けてきた幼馴染をなんとか抑え込み、最後には勝利したほたる先輩のどちらかが主人公ではないかと感じました。
架空スポーツであるテレプシコーラについては、少々クオリアと一般人の差がはっきりしないところがありますが、
ほとんど文章だけの表現としてはよく描かれていると感じました。
オープニングの歌詞に、風を切る痛みを勝利の熱に変える、とありますが、私は十分に熱を感じることができました。
ただ、架空スポーツの表現は文章だけではやはり難しいなあと思います。
サブキャラ達の魅力も本作品の強みです。
最強境部長のツンツンぶり、夜月先輩の女王様ぶり、赤坂部長の絶望と後輩への想い。
個別ルートは短めで、前述のとおり恋愛、というかHシーン用のルートです。これがないと本作品はエロゲとして成立していないでしょう。キャラの可愛さはそれぞれよく出ていました。シナリオ的なものは…まあ雰囲気は壊していないので問題なし。
玻璃ちゃんが言う、妹のお仕事、役目、義務、必修科目とか最高すぎ。ほたる先輩の猫っぷりもよい。
しかし、里亜だけはやけにあっさり短い。なんで?
メインのルートではダンスマカブルの様子が描かれます。最終戦後どうなるのかなあとワクワクしておりましたが、
即エンディング。しかも主人公が選ぶとは思っていなかったドイツでの療養。えっ。ちょっと待って。
ハル氏が言うとおり心内をまったく明かしてくれず、打ち切りエンドにすら感じる展開でした。
ここもっとどうにかできたやろ…残念、無念です。
そもそも主人公の心情描写は本作においてはよろしくありません。
急造チームの監督の立場として本番までに時間が足りない中、チーム内連携を深めるのに関節的に関与しかしません。
関与自体は適格でヒロインたちに解決させていくため、ヒロインたちのコミュニケーションはなされ問題は解決していくけども、
チーム内の問題対しての主人公の内面描写があまりされないため、主人公が何を考えて指導(指導描写も少ない)しているかが分かりません。
選手じゃなくて監督という立場なため、主人公をメインに据えられても困るところではありますが。
それにしても試合中においても間接的関与(ヒロインに直接言わず別のヒロイン経由で伝えるなど)しかせず、
戦術面でのアドバイスはほとんど目立ちません。ダンスマカブル準決勝からは監督らしく関わりますが。
中盤?で放置主義であることが分かりますが…それじゃあ主人公っていうより単なるイチ監督になっています。
監督としては正しいかもしれません。2年間の放浪生活の経験を出しているのでしょう。
チーム内の問題に直接的に関わらないため、主人公の成長物語や奮闘がない伝わらないのです。
ただ、上記によりもどかしさは十分すぎるほどに表現できております。
その他、左手絵が出ているのに文章は右手だとか(逆だったかな)、夜月先輩がしゃべっているときに一瞬だけ制服に着替えるけど戻るとか、セーブ画面からEXITすると確定でエラーとか、最新1.3パッチをあててもいろいろ残っているのはこのメーカーの短所の一つですね。
主人公はなんとか個性としてもエンディングはどうにかして欲しかったですね。
作中の雰囲気もよく、ヒロインたちの奮闘、成長記としてはとても楽しめた作品です。
もっと違う方向の方が魅力を出せるとは感じたものの、このライターはこんな風にも書けるのだなと思いました。