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north and southさんのAIR Standard Editionの長文感想

ユーザー
north and south
ゲーム
AIR Standard Edition
ブランド
Key
得点
88
参照数
1014

一言コメント

あまり事前情報を知らずにやったせいか、後半の展開には驚かされた。ここでは、あのラストについてだけ、感想を述べておきたい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

以下、激しくネタバレあります。










最初、長々と物語を追っていった末に、あの結末に辿りついたときには、恐ろしく納得いかない気持ちに襲われた。いたずらに思わせぶりな結末としか受け取れず、何週間も後味の悪さが消えなかった。

だが、この前再プレイした時、このゲームの結末が冒頭のシーンへとループしているのに気づいたとき、それまで抱いていた疑問が氷解してゆくのを感じた。

これから述べるのは、私の独断的推測である。

結末にあらわれる、あの二人の子供の正体は、一体なんなのか。
決め手となる手がかりは、作中では示されていない。だから、想像をまじえて推測するしかない。

私は、あの二人の子供は、それまで「AIR」の物語をずっと辿ってきて、その最後まで行き着くことで、物語の外へと出ることに成功した、ゲームのプレイヤー自身を指しているのだと思う。あの二人が走ってゆく、海岸線の先にあるものとは、恐らくそれまで「AIR」の世界に浸っていたプレイヤーが、ゲームを終えて戻ってゆく現実の世界を指しているのだと思う。

そう仮定すると、いろいろなことが見えてくる。

観鈴は、何の罪もないのに、理不尽としか言いようのない運命を背負わされている。これを、泣ける物語を作るためのあざとい設定と見る人も多い。たしかに、そういう側面もあるかもしれない。

だが、よく考えてみれば、これに類したことは、現実にいくらでもある。

人は、自分の生まれる時代も、国も、人種も選べない。容姿や知力、才能も、ほぼ本人の意思とは関係なく、生まれる前にある程度は定まってしまう。家も選べない。親を選べなくて、虐待死させられる子供も大勢いる。

これらは本人の責任とは何の関係もなしに、背負わされる運命のようなものだ。

その重さは人によって程度の差があるだろう。だが、多くの人が、一度はこうした自分の運命に不満を感じ、もっと良い家に生まれたかったとか、他の時代に生まれたかったとか、思ったことがあると思う。

生まれる前からの定めによって、時に理不尽とも思える運命を背負わされているという点においては、程度の差こそあれ、観鈴も、現実の人間も、実はたいして変わらないのだ。

だが、そうした運命を嘆き、自分の不幸を全て周りの環境のせいにしても、不毛なだけだろう。結局、人は生まれる前からの定めによる運命を受け入れて、いくらかでもましな人生を送れるよう、試行錯誤しながら生きて行くことしかできないのだ。
千年前に戻って、運命を変えることができない以上は。

ここでもう一度、あの結末に戻って考えてみたい。

おそらく、あの二人の子供(ゲームのプレイヤー)が、駆けてゆく、海岸線の先で待っているもの(現実)は、何の苦労もない世界ではないだろう。観鈴ほどではない(かもしれない)が、時に理不尽と言いたくなるような縛りが待ち構えている世界だろう。

だが、「AIR」の世界の中で、観鈴、国崎、晴子が、理不尽な千年前の呪いにうちひしがられながらもへこたれず、幸せな思い出を生み出そうと三者三様で模索しながら耐え続ける姿に、感情移入しながら参加していたプレイヤーは、彼らのくじけない姿から、幾分かでも、そうした運命に負けずに立ち向かうための、勇気と励ましとを受け取っているはずだ。

「彼らには過酷な日々を。そして僕らには始まりを」
この言葉には、過酷な日々に負けずに、精一杯生き続けた観鈴たちのように、ゲームのプレイヤーも、戻った現実で、のしかかる理不尽な運命にくじけず、新たに人生を始め直してほしい、そして幸せをつかみ取ってほしい、という製作者たちのメッセージが込められているように思われる。

おそらく、結末で堤防に腰かけて眠っている国崎は、また新たなプレイヤーが「AIR」をプレイし始めるとともに、目を覚ます。そして、そのプレイヤーは国崎へと感情移入しながら、「AIR」の物語をひととおり巡ることで、運命と闘う勇気をもらったあと、あの子供へと転生して、現実へと回帰して行く。
プレイヤーが現実に戻るのを見送った観鈴と国崎は、そのまま二人、夕暮れの堤防に腰かけて、また、誰かが「AIR」をプレイするのを待ち続けるのだろう。

ちなみに、ゲームの終末部で、観鈴が死んでしばらく経ったある日、晴子はたまたま出会ったそら(ゲームのプレイヤー)に向かって笑顔で檄を飛ばす。「あんたは、今もこんなところ(ゲーム内世界に)いてるんか。もうあの子は、いてないんやで」
その言葉を受けるようにして、そらは、空の彼方へと飛び立って行く。

もとより「AIR」は、推理に必要な手がかりが、全部は示されていない推理小説のようなもので、その世界の解釈のされ方は、十人十色となるだろうし、また、たぶん正しい解釈は、一つではないのだろう。

以上は、あの結末に悩まされまくった私が導き出した、不完全な一つの解釈にすぎない。