『Re:Call』という作品と非常に密接に関わる最高の曲を添えて、放たれる詩乃ルートは最早「圧巻」の一言。 時間遡行という題材を一際違う要素も交えながら、深く考えさせられる物と繋ぎ合わせてくれました。 まさに「やり直す」でもなく、「巻き戻す」でもなく「くり返す」という表現に相応しく、 「できない私が、くり返す」というタイトルを上手く踏襲して素晴らしいものとなっていました。
あかべぇそふとするぃ制作のPCゲーム「できない私が、くり返す」の感想です。
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注意:多分に個人的な解釈が入っており、見る人によっては「うわ、くっさ」となるような
感想になっているので、お目汚しになる可能性が殆どである、そこを念頭に置いて見てください。
幾つかの項目に分けて書いていこう。
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(1)本作の時間遡行要素と各ルートの関連性
『記憶を保持したまま、過去に戻ることが出来る。
ただし、未来は変わらないし、変えることが出来ない。』
文中の言葉を借りるなら「運命」というものに定められた事象は全て確定している。
それは時に世界的な強制力を持ち、残酷な結果を残すことにも成り得る。
しかし、解釈次第でどうにもなる匙加減はライターの意趣通りなのか、
それとも設定の穴を認めた上で触れず、ある意味欠陥工事を推し進めたのか、
いずれも真意を図りしれたものではないが、前三人のルートに触れていこう。
まず、藍里ルート。
ここでは「手首に怪我をする」という未来は確定的な物であり、
それを変えることは不可能だから、新たな未来を提示しよう、ということだった。
ある種、詩乃ルートの答えを前向きに捉える節があり、
詩乃ルートでは自然界の絶対的ルールである「死には逆らえない」からこそ、
より良い未来を提示出来なかったが、藍里ルートでは少し悪い言い方をすれば、
まだ取り返しの付く「手首の怪我」だったので未来を提示できた。
これは本作の時間遡行について「未来は変えられないけど、その先はまだ何とでもなる」という一つの言説となる。
次にゆめルート。
時間遡行を使って変えたかった未来を一言で表すなら「ゆめを救う」というものだった。
その複数回あった中の時間遡行で一つ抜粋したいのが「ゆめ自身が刃物で切りつけられる」という部分だ。
この一部の未来は変わらないが、本編では主人公の登場により、傷を減らすという良くも悪くも
屁理屈のような結果が残り、より良い未来へと進んだ。これも一種の新しい未来への踏破だろう。
そして、未喜ルート。
「香澄さんがフられる」という未来は変わらないが、これも後の未来ならどうとでもなってしまう、そんな印象を受けました。
このルートに関して言えば、和平的解決一番楽であり、丸く治める方法など可能性が未知数のような気持ちが有りましたが、それも一つのその先の未来への足掛けである。
この3つに共通して言えることだが、『未来は変わらないし、変わらないが、その先の未来は変えられる』という
少し矛盾的な事柄が成立してしまう。
これを成立させてしまうと堂々巡りになり、果ては多岐に渡って未来が分岐するような可能性も無くなる。
運命に対する抵抗すらも奪われてしまう結果になります。
確かに『未来は変わらないし、変えられない』という法則を皮肉にも成り立たせているのが憎いです。
今までの意味を踏まえていくと、これは『やり直す』でもなく『巻き戻す』のでもなく
『くり返す』物語なのだ。
タイムリープ物では、例えば「変えることの出来ない未来に何度も立ち向かい、主人公が悲願の目的を果たす」だったり、「ヒロインの立場から、主人公に自分を選んでもらう為に何度も時間をやり直す」というような
一目見て劇的に分かりやすく、それでいて物語の終着点にはしっかりと納得の解を残していく物が浮かぶだろう。
しかし、本作の趣向は少し違った。まさに『できない私が、くり返す』というタイトルの一貫性を感じる物があった。
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(2)詩乃ルートとRe:Call
おそらくこの物語の本懐である詩乃ルートと、その終局であるRe:Callについて語っていこう。
まず、感情的に感じたのが詩乃と主人公が全て建前で、それぞれが心に面影を見て恋人として過ごしていたのが、最後に判明し、とても辛かった。
だからこそのRe:Callがかなり映えたのだが、前記した通り『未来は変わらないし、変えられない』から、
『詩乃が死ぬ』という絶対的な未来も変えられないし、変わらない。
主人公は今までの行動こそ、その未来の先を改変してきましたが、今回はその「未来の先」ですら無い絶対の道である。
それを分かった上で、未練であり後悔である漣さんと重ねてしまうのが、描写を通して伝わるのが尚の事もどかしくなりました。
同情というものは本人の無自覚に刃のような鋭利さを持ち、無意識に人を傷付ける。
それが最後の願いである「生きたい」という切り返しであり、互いを思うが故の暗然とした気持ちになりました。
終わりがBADENDに近いからこそ、その未来を変えるべく気概に駆られた主人公、それがRe:Callで五年前という歳月を通じて語られる。
ここで、Re:Callである五年前に遡り、主人公は漣さんや少女と出会い、生に対して直向きさを感じます。
もちろん、それは未練から来るものではなく、今を生きるからこそ発生するもので、
「今を生きる、未来に後悔にないように」という一つの明かりを灯してくれた。
それは絶望に進むのではなく、希望を歩んでいく道だった。
何故漣さんは、このことを主人公に伝えたのか。
それは「できない私」の「私」は漣さんのことでもあるからだ。
漣さんもまた、少女を救う為に何度も「変わらない未来」を「くり返し」たのだ。
それは途方もない数を超え、心を摩耗させ精神的に耐えられるものではない。
辿り着いた答えは諦めともつくような穏やかなものだった。
その決別を表すために主人公との別れを、また「くり返し」たのだろう。
これも「別れる未来」は変わらなかったが、また別のものになる未来は先にあるということを示してくれた。
心に「未来は変わらない、しかし変わらない未来まで、どう生きるかは自分次第だ」と勇気付けるような希望。
ゲーム内の言葉を借りるならば「点の位置は変わらないけど、結ぶ線は自由に描ける」と言ったところでしょうか。
そして、また五年を「くり返し」詩乃との出会いから始めていく。
その経緯は詩乃の個別と変わらず、暖かいものだったが、主人公は精神的に大きく変わった。
そこに同情というものはなく、唯一詩乃への愛情だけがあった。
それを互いに確認し、愛情へと昇華した後の「XX:Calling」を背景に詩乃から語られる七つ目の願い、ここは涙なしでは語れません。
盛り上がりは最高潮へと至り、「最後まで隣にいる」という願いを果たす為に「確定した未来」である詩乃の死を迎える。
贖罪であることを感じさせない二人の世界がそこには在り、改めて二人の物語の極点を感じた。
そして、ED、エピローグ、これは次の項目で語ろう。
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(3)ED「Re:Call」の演出とエピローグ
EDを迎えて、心地良い虚脱感と終わらせてしまった気持ちから来る未練を感じた。
しかし、その纏わり付く物を吹き飛ばすような最高の演出が、このEDにはありました。
まず「Re:Call」の歌詞が二番ということだ。
お気づきの方が殆どだろうが、一番は一回目の詩乃ルートを表しており、二番はRe:Callを表している。
Re:Callという終局を迎えるにあたり、これ以上ない程相応しいED、そしてそれを裏打ちするかのように
二番を持ってくるのも、これまた憎い演出だ。非常にゲームの内容と歌詞がリンクしており、
Re:Callの為に作られたと言っても過言ではない二番、是非その中身にも触れてもらいたい。
更に、EDが二番という演出以外にも、途中で巻き戻っていた背景の針が、また進み始める部分もゲームとして分かっていますね。
では、歌詞に触れていきます。
鳴り響くさざ波の音 この胸を刺す罪の悔い
手に触れるあなたの体温 過去の傷はまだ癒せない
>五年前の後悔や贖罪を込めた時間遡行を行い、まだ未練のような物捨てきれない主人公と漣さんとの海辺 での再会を表しています。
欠けた月が円を再び描くように
重ね続けた過ち 探していた時、消える
>主人公に対して漣さんから道を示す前触れ、夜の海辺で感じ取った物を示し、
過ちを認め、ついに往くべき道が見えて、後悔の念が消えていく様を感じとれます。
「もう一度くり返すの?」
問いかけは別の道を今指し示した
いつかの日々 あなたの声
夢の中で会いに側で まだ消えないから
>最高のサビ。漣さんの問いかけが、そのまま答えとなり、指針を指し示してくれます。
漣さんと過ごした日々、まだ死んでない漣さんへの未練。全てが泡の様に消えていく、淡い思い出の過去と なっていきます。
そして、詩乃のことや時計の時間遡行について一途に考え始めます。
永久の別れを告げるために
あなたへと送るでしょう二度目の「さよなら」を
>漣さんとの別れ、決意を新たに5年前、そしてこの時間遡行。
自分や今までの全てに一区切りを付けるための漣さんから送られる「二度目のさよなら」
さざ波は遠く消え 淡い波の詩が胸に響く
>さざ波(漣)は遠く消え、淡い波の詩(詩乃)が胸に響く。
決別と覚悟の一節。
これからは今へ、そして今は未来へと生きる主人公の決意を表しています。
この一節が本当に素晴らしい。
もう二度と くり返せない
今過去に背中向けてまた君に出会う
望む未来がもう叶わないなら
僕は君の側にずっと寄り添い続けたい
>まさに、不変の理である「未来は変わらないし、変えられない」を示し、それを受け止めて尚、
詩乃のことを想う最後の「くり返し」に身を投じる。
漣さんの最期の道標である「未来を変えられないなら、最後まで悔いのないように生きる」を実現する場所で あり、詩乃の七つ目の願い、「最期まで隣にいる」を叶える場所だ
まるで終わりを数えるような
弱く響く進む針をもう戻せないのなら
どうか振り向くこと無く 明日へと続く道 歩いて
>詩乃の今までの人生、そして死を時計の針で表現し、更に詩乃自身が主人公に対して後押しする姿が描か れています。最後に詩乃からも託された想いを胸にエピローグを迎え、また未来へと歩き出していきます。
そして、迎えるエピローグ。
主人公は詩乃が亡くなった後、詩乃の墓前に赴く。
そこで詩乃に表明する「俺、旅を続けるよ」と。
しかし、また後悔するかもしれない。そんな意識の最中、詩乃は主人公をいつまでも見守ってくれている。
その気持ちを胸に抱きながら「もう後悔しない」生き様を選んだ主人公は詩乃に時計を預かってもらう。
最後に墓前での二人の描写があるエピローグは物悲しさと終局を迎えた読了感に包まれながら終えることが出来た。
最終的にRe:Callは漣さんも物語であり、主人公と詩乃の物語でもある。
まさに「できない私が、くり返す」というタイトルに相応しい理想的な終わり方だったのではないでしょうか。
あの読後感は、この表題だからこそ出来たことであり、更にRe:CallやEDの演出を含めてあったものだと感じる。
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(4)後語り
まず、かなり私見を含んだ感想となっています。
なので、ツッコミどころや言葉足らずで意味不明なことになったりと、かなり危うい感想です。
しかし、強く思ったことは各項目でまとめています。
つまり、詩乃ルート最高、終わり方も含めEDの演出は素晴らしいの一言、Re:Callという歌も
このゲームを意識してしっかりと最強のものにしてる、神、ということです。
個人としましてはタイムリープものは大好物なジャンルの為、また新たな側面を見ることが出来た意味も含めてかなり良かったです。
取り分け、前3人のルートは相変わらず賛否両論あり、この感想ではあまり触れられていませんが、
触ったとしてもヒロインに触れたり、サラッとした物になること請け合いなので、触れません。
少し触れるのならば、最初から「詩乃ちゃんがどうせメインやろ、知ってる知ってる→ハァ!?詩乃ちゃん死んだ!?おい、どういうことだ、早く攻略させろ!!」と新作特有の前座感が半端ない人たちを見てる分、
僕は一人一人ヒロインとして見ることができたので、中々楽しめました、それ込みでこの点数です(軽く見積もって80~85くらい)
点数で言うなら詩乃ちゃん+Re:Callで95くらいなんですけどね、如何せんゲームとしての体裁を考えるとってやつです。
最期に、こんな長文池沼激臭自慰を読んでくださってありがとうございます。
おおよそ伝えたいことは書ききったつもりです、それ程までにぶっ刺さった作品ということも伝われば幸いです。
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