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no-attさんのあやかしびとの長文感想

ユーザー
no-att
ゲーム
あやかしびと
ブランド
propeller
得点
93
参照数
365

一言コメント

日常+燃え系。全体的にとても良くできている作品でした。それだけに最後の方が惜しい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

作品への好感度   S(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 S(S・A〜E)※ボリュームに対して低価格なためおすすめしやすい。主人公とメインヒロインが若干人を選ぶ

各ルート・エンディングの感想、総評の順になっています。

やった順:トーニャ→薫→刀子→すず
評価:刀子>刀子bad>>すず(使わない)>トーニャ>薫>> すず(使う/いい)>[超えられない壁]> すず(使う/だめ)


トーニャ√
ロシアから来たスパイ系同級生ヒロイン。基本的に共通からの流れそのままでやっていたので、主に好きなキャラクターである愁厳/刀子ばかりに着目していました。

主人公の敵であるドミニオンもあまり出張ってこず、トーニャの祖国であるロシアがいきなりメインの敵に。敵として他ルートで考察できる余地もなく、魅力のある敵というよりは打ち倒さねばならない小悪党止まりだったのは残念です。
そう特筆して悪い点はありませんでしたが、バトル・シリアス方面はいまいち盛り上がりにかけたという印象です。ただ刑二郎、ウラジミール、狩人、一応ラスボスの九鬼あたりは良かったと思います。

また、日常シーンは全体的にとても好みのものでした。安易にヒロインと主人公にイチャイチャさせるシナリオではなく、すずとトーニャ、トーニャと双七が打ち解けていく流れは共通ルートの流れから違和感なく進んでいって良かったです。あと、如月兄妹と仲良くなろうと照れながら歩み寄ってくる愁厳がものすごくかわいい。


薫√
過去のしがらみ系姉ヒロイン、まさかの主人公との年齢差がだいたい10歳差。先生・社会人系統のヒロインでも、普通の美少女ゲーヒロインとしては大体5歳差くらいが限度かなと思っていたのでびっくりしました。

薫とすずとの過去の決着の付け方は良かったと思います。ただ、あんまり薫本人にヒロインとしての魅力を感じなかったのが残念です。同じ…というか似たような声優さんの演技は何度か聞いたことがあったのですが、今との演技力の差に愕然としました。喘ぎ声棒読みすぎませんか…?

また、このルートは日常描写は削り気味で、どちらかといえば生徒会以外の色々なサブキャラを掘り下げる面が大きかったと思います。その分戦闘シーンは全体的に磨きがかかっており、特に薫VS輝義、虎太郎VS九鬼は面白かったと思います。
でも薫は敵対系ヒロインなのかと思いきや、このルートでは冒頭部分で追われる側の立場になってしまったのは拍子抜けしました。主人公もほとんど活躍しなかったし…


刀子√
兄と同じ身体を持つ、めんどくさい(自称)系先輩ヒロイン。もうこの設定だけで満点。というか兄と身体を共有してるとか、何年先を行ってるんだと思いました。

話自体は前半は女ストーカーにヒロインが付け回される話、後半は敵である逢難退治という、体感ではかなり長く感じるルートでした。特に前半部分は長く感じましたが、ストーカーの主張自体は面白かったのでいいかな…くらいのテンションでした。後半は双七が立場上は悪役となり、ドミニオンやら八咫鴉に追っかけ回される話。九鬼と刀子の共闘という全く想像していなかった展開が見れて面白かったです。

一つ不満を言うなら、せっかくの刀子ルートなのに愁厳の出番があまりなかったことだけはなんとも悲しかったです。

計3エンド。悲恋?系エンディングであるバッドエンドの終わり方は個人的には好きです。でも、好きなヒロインのルートはどんな話でも面白いですね。


すず√
人外系人嫌いヒロイン。
基本この手の人外系はどんな傍若無人でも許せてしまうので、今までのルートでもあまりヘイトを買うことはありませんでした。しかし反対に「すずは家族で性欲を抱くような間柄じゃない」というのが他のルートで語られ続けて、恋愛展開に乗り切れないことは結構問題でした。

終えてみると、このルートで新しく出た情報自体はそんなになかったかなーという印象でした。それでも、九鬼が一奈を殺し損ねたあたりまではとても面白い話だったんですが…

計3エンド。
個人的に「熾天使薬を使う(怪獣大決戦)」系エンドは本当に微妙でした。やりたいこと、表現したいことはわかるのですが、ここまでプレイしてきて見せられる九鬼VS涼一がこれかと思うと、なんだかとてもつまらなくて…
それでも八咫鴉と双七が身体を交換するエンドは終わり方が良かったのでいいですが。

「熾天使薬を使わない」エンドもそっけないものでしたが、九鬼と涼一の会話は良かったですし、プロローグのおっちゃんと再び鍋を囲むエンディングは涙腺にくるものがありました。こちらのみエピローグがありますし、正エンディングかなと思います。

愁厳、虎太郎、狩人あたりは本当にほとんど出番がなかったのも悲しかったです。
こう思うと、最後が刀子ルートの方が気持ちよかったかもしれませんね…


その他
・Hシーン
刑二郎主体のものはそんなに必要なかったんじゃないかなと思います。あと初手青姦苦手勢なので大体どのルートもきつかった…

・SD絵
燃え作品にはほとんど見当たらないSD絵のカット。キャラの偏りはえげつないのは難ですが、絵自体はとても可愛いと思います。

・声優
今考えるとかなり豪華で、目ん玉ひっくり返りそうです。



総評
同じ燃え系作品とされるFate/stay nightやDies iraeよりさらに「守るべき日常」そのものの描写に重きを置いた作品。あくまで日常生活の延長線上に必要な分だけ戦闘シーンがあるという構図であり、戦闘ありきでシナリオが進んでいく上記作品がハマらない人にはプレイしやすい作品だと思います。

逆にバトルがもっと見たい人にとってはいまいち病院脱走〜学園に着くまでのプロローグと、学園に着いてからの日常シーンとのテンションの落差についていけない作品でもあると思います。
ただ、私は日常を多めに描いてくれたことはこの作品の魅力であると思っています。やはり日常の描写がしっかりしているからこそ、それを守りたいと思う主人公に同調しやすいですからね。

それだけにすず√の最後の尻すぼみ感だけはどうしてもいただけませんでしたが、とても楽しい作品でした。面白かったです。