大手・スクエニが叩きつけてきた完全新作の群像劇型ホラーADV。ホラー好きより群像劇好き向け。視点を動かして操作する場面が多いが、3D酔いが酷い自分でも特に問題が無かった。
作品への好感度 A(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 A(S・A〜E)
前置き
良いと思った点とどちらとも言えない点、悪いと思った点について記載、その後総評という流れで書いております。プレイはSwitch版です。
■良いと思った点
・絵
いかに立ち絵を上手に使うか、という点がノベルゲームという媒体においては特に重要だと考えています。ビジュアル面での評価は一枚絵の出来や枚数そのものより、立ち絵を重視するタイプの人間です。
本作は立ち絵の使い方が面白いタイプの作品でした。まず数についてですが服装差分は無いにしろ、登場人物×表情差分(体の向き差分)でかなりの数の差分があると思われます。目パチ口パクも有り。
出来についても老若男女の描き分けが良く、一部の大仰な体勢(がヒキの画面で映っているもの)以外は好みでした。服装も滅茶苦茶な形の服や大きな露出があるものが少なく良かったです。
9割がた立ち絵の状態で話が進むにも関わらず、立ち絵の使い方が上手だからか絵面的な飽きが来ませんでした。
・パノラマ写真を元にした背景画像
背景がパノラマ写真を元にしたようなもの(全天球背景デザイン)になっており、場所によっては360度背景を見ることもできます。
話していたキャラとの会話を終えて後ろを向き、一周してまたキャラに向き直ると展開が進んでいるなど普通のアドベンチャーゲームではできない展開運びがありました。
また、立ち絵を奥行きのある背景に配置することにより常に遠近感が出ていたのが楽しかったです。
3D酔いについては殆どありませんでした。DSのマリオカートや教習所の運転シミュレータ程度で3D酔いをする私がほぼ大丈夫だったので殆どの人は大丈夫だと思いますが、それでも苦手な方は購入前に確認する等注意が必要だと思います。
・キャラクター
ほとんどのキャラの名前が特殊で微妙に記憶に残りづらいこと以外は良かったと思います。個人的には北斎先生キチのあやめと、肝が据わっているミヲ、少年みたいな利飛太がお気に入りです。
声無し作品だからこそのこの低価格でこの登場人数の多さなのかなとも思ったり。
△どちらとも言えない点
・シナリオ
シナリオの流れで言うと、序盤はワクワク、中盤〜終盤はキャラに愛着を持つことができるシナリオ運び、最終盤はちょっと残念といった感じでした。
まずは良かったところを三点ほど。
一点目としてはエンディングがいくつか用意されていたことです。続編が作れそうなノリの「志岐間春恵の伝説」、あやめ大暴走の「灯野あやめの本懐」、順当なエンディング感がある「結末(通常ルート最終話)」が好きです。
二点目はキャラに愛着を持たせるシナリオ作りだったこと。キャラが好きになってしまえば楽しかった!という感想が出力されるタイプの人間なので、満足度が高いのはこのあたりの描写力のおかげだと思います。
三点目は少ないながらも呪殺の条件を踏んだ、踏んでない等の駆け引きがあったことです。もう少しこちらの要素で遊べる余地を作った別作品をやってみたいなと思ったり。
良かったことが多い分、悪いところも目につきました。
最初の主人公である興家の活躍や黒幕の葉子についての言及が少なかったことについては一番残念でした。興家視点時に葉子を呪殺したのが正解ルートだというギミック自体は悪くなかったんですが、途中の不正解ルートを突き進んでいた時の盛り上がりと比較して真エンドまでの道のりでは呆気なさが勝ってしまいました。興家と葉子に思い入れができるほどの描写量が無かったことが原因だと思います。
総合すると「良かった」にはなるのですが、メインっぽい2人に全く見せ場が無いのは残念の一言です。
・メタ要素
最初の案内人の会話からメタ塗れ作品なのかと思わせておいて中盤は急にメタ要素が減り、終盤またメタ要素が増えるといった感じの作品でした。いやまあ全編通してメタ要素はあったのですが、ゲーム性という部分に落とし込めていたのが序盤と終盤だったという形です。
そのメタ要素も、例えば「興家にライターを捨てさせる」や「麻由にファクシミリの番号を教える」の呼びかけ等は成程と納得できました。しかし「呪いを受けないためにボイス音量を0にする」や「思い出を忘れないという意志表示をセーブ機能で示す」等のゲームの機能を使った干渉はどうしてそうなったのかがよくわかりませんでした。一応この二つの行動についてはギミックとして使用することへの匂わせ自体はあったし、こういう行動を取ればいいということ自体は即座にわかってしまっただけに、なんだか納得がいきません。
OPシナリオを見返す方法が無いので序盤の案内人が他に何か言っていたかもしれませんが、後者のメタ要素はあまり納得できませんでした。
メタ要素だけでも拒否感が出る方も多い上、よくあるメタ要素有りの他作品からはメタ要素の使い方が若干ズレた作品なので、人によっては好き嫌いが出そうだと思いました。
・収集要素「なめどり」
未発見のものを後から見つけるのが本当に難しいです。シールデザインやプロタンの喜びようは好きなのですが。
□悪いと思った点
・中途半端なジャンプスケア要素
ジャンプスケアは大の苦手なのですがそういった要素は本当に序盤だけしかなく、最初だけホラー感を押し出す必要はあったのか?と思いました。最初の展開から純然たるホラーを期待してた方には肩透かしだったと思います。
・特定の箇所の画面効果
設定変更やバックログ・資料等の閲覧などを一手に行える画面はテレビ画面を模しているため、かなり歪んだ状態で表示されます。
ただでさえ通常のゲーム画面も色収差やざらっとした質感に見せるための画面効果がエグいのに、さらに文字情報を沢山確認しなければならないこの画面まで見辛いのは勘弁して欲しかったです。
全体的に演出優先で、文字を取り扱ったゲームとしてはあまりよろしくない場面も見られました。
・既読スキップ無し
既読スキップはありません。
そう言われて制作側もようやく気がついたのか、実装できなかっただけなのかはよくわかりませんが公式Twitterで煩雑なやり方で擬似スキップする方法については発表しています。それでも演出はED以外飛ばせませんし、既読未読関係無しスキップですが。
総評
ホラー×メタ要素×群像劇。
ホラーと言ってもホラー要素を取り込んだだけで本質的恐怖を味合わせてくるようなタイプの作品でないため、群像劇作品好き向けかなと思います。
普段ノベルゲーやエロゲにどっぷり浸かってはいないだろう一般の方にかなりウケていたのでどんな感じかなと思って箱を開けてみれば、概ね満足できる作品でした。
キャラクターたちの描写についてはかなり気に入ったので、追加DLCでもいいので短編が読みたいです。