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no-attさんの眠れぬ羊と孤独な狼 -A Tale of Love, and Cutthroat- 外伝の長文感想

ユーザー
no-att
ゲーム
眠れぬ羊と孤独な狼 -A Tale of Love, and Cutthroat- 外伝
ブランド
CLOCKUP
得点
82
参照数
270

一言コメント

愛と殺人の物語のFD。と言いつつも過度なR-18Gは一切無く、本編よりは明るく楽しいシナリオが多いため個人的には楽しかった。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

各ルート・エンディングの感想、総評の順になっています。
プレイ順:一本道
評価:Ep5>Ep3>Ep2>Ep1>Ep4


Ep1
東儀の依頼でデリヘル狩りを追う話。
改めて見ると現ヤクザの東儀も御舟も、元マフィア現デリヘル店長の雲も、当たり前に「女」絡みが金稼ぎの最上位に来ていることが面白いです。「男」の世界であるヤクザは「女」の性ありきで成り立っていて、だから歌舞伎町で繰り広げられるこの話は「男」と「女」の物語なのだ、という構造をきちんと示し直したのが良かったと思います。ともすれば極道ネタは基本「男」だけの視点に寄った美化された物語になってしまいがちので…


Ep2
歌舞伎町のウワサにまつわる物語。
ラブホの部屋をトイレにされて激怒する“俺”が作中1激情に駆られているような気がしたのは、多分気のせい。
“俺”、あざみ、雲、美玲の4人組の話は本編で一番足りないと感じた話だったので、それだけで楽しかったです。しかし「眠れぬ羊」を題材にしておいて、この話で「新手の睡眠薬で気持ちよく眠れた羊」をお出しして良かったのかだけは引っかかりました。


Ep3
野球回。
唐突なホームラン抗争、あからさまにノリノリの海江田、茶番と言いつつノリノリな東儀、本編ではクソみたいな活躍しかしていないノリノリのモブヤクザ共、凄いよがってるのにそれとこれとは別と言わんばかりに御舟の敵に回る紗雪、謎のタイガーマスクと化した仁礼。話自体はこじんまり?としてしまったものの面白い要素はあったかと思います。本編を見返すとこのメンツがバッティングセンターに勢揃いしているのが凄すぎて笑えてきます。

しかし次回の大会が永遠に開催されることはないと思うと、虚しさが込み上げてくるシナリオでした。


Ep4
配信者を始末するためにこちらも配信者になっちゃおう!的なお話。

2017年が舞台であるにも関わらず、本編では不自然なほどSNSや動画サイトについて触れられていませんでした。“俺”とあざみの物語という主軸がブレるからだとは思いますが、特にC√の恩田1によるあそこまで雑な死屍累々さ加減は迷惑配信者や迷惑一般人の格好のネタにしかならないのでは?と疑問に感じていました。恩田2が苦労してどうにかするっぽいことはわかりますが、それで済む問題では無い気がします。

要するに今までインターネット界隈に大きく着目することがなかった本作。本編の本筋とは関係ないとはいえようやくネット関係について触れられた形になります。結果としては微妙。

新キャラ・迷惑系ユーチューバーのカブキチョッパーについては想定以上に良かったです。声優さんの演技が本職ユーチューバーみたいでした。キャラの行動指針についても想定される迷惑系の行動そのままであり、違和感は少なかったかと。

しかし味方側の「あざみれちゃんねる」については違和感まみれでした。素人のあざみ達はともかく手綱を握っている青池会IT部門どうなのさと思わせられる箇所が多かったです。表向き真っ当な学生のはずの美玲が本名かつ制服のまま配信しているところが一番引っかかりました。

カブキチョッパーがもっと慎重派だったら崩壊していたシナリオだったので、ネットの恐ろしさを扱った話としてはなんだかなという感じでした。


Ep5
過去編と現代編最終回。
過去編は主人公がまだ少年時代の話で、本編で語られなかった部分の掘り下げがありました。本編の内容に少しオマケした程度の内容でしたが。
きちんと主人公の童貞しぐさが描かれていたことが特に良かったです。エロゲーを始めてからというもの、幾人もの主人公と出会ってきましたが童貞主人公がHシーンになったら急にセックス強者になることが多いこと多いこと…

現代編としてはA〜C√のどれでもないifの物語説が個人的にはしっくりくると思っています。この後C√だとちょっと話の起伏が滅茶苦茶になってしまう気がするので。

期待していたダルマ女VSあざみは一枚絵はあるもののメインコンテンツではないためか本編の戦闘並みに特筆すべき点がないのは残念でした。厨二バトルものじゃないと言われればそれまでですが。


その他
・時事ネタ、作中の固有名詞
時事ネタが多く、10年後にやったら「?」となりそうなこと請け合い。前作はオリンピックくらいだったような…

また、こちらも前作からですが現実にあるものに対しての伏字やボカシが一切ないのが特徴的。ファミコンやグラコロといった商品名から、実名そのままでトランプや大谷翔平の話まで出ます。たまに大丈夫なのか不安になります。



総評
価格に見合った短編集。はっちゃけ加減は少し足りず、収まった所に収まっている感じの作品でした。仁礼くらいでしょうか、本編の諸々をぶち壊すほど明後日の方向へ狂ってしまったのは。

ただ本編では悲惨な末路を辿ったり辿らなかったりした彼らの楽しそうな姿を再び見ることが出来ただけで嬉しかったです。今からでも羊狼外伝2、楽しみにしておきます。