“あの頃の夏”を想起させる最強の雰囲気ゲー。主人公の扱いにはやや不服なところがあるため、メインシナリオよりも個別√の方を個人的には評価したい作品だった。
作品への好感度 B+(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 S(S・A〜E)
前置き
感想文中、『リトルバスターズ!(Key)』について触れています。注意をお願いいたします。
ルート数が多いため総評、各ルート・エンディングの感想という順序になっています。
総評
まだ少し夜は肌寒くて、友人とくだらないことをして遊ぶのが楽しくて、時には喧嘩して、夏休み最終日がくることに怯える…そんな小中学生の夏を思い出させてくれるような作品でした。(なぜ小中なのかと言うと、メイン登場人物達の年齢である高校生の時には既にそんな夏を楽しむマインドを持ち合わせていなかったので)
まさにそんな失われた“あの頃の夏”を繰り返す作品であり、その空気感や作品構造自体は好きなものでした。しかし過半数のキャラと主人公が蚊帳の外のメインシナリオは納得しかねる部分も多く、評価に困るのもまた本音です。
あと一歩のところでスタンディングオベーションで「サマポケは名作!」と叫べなかったこともあり、本当に惜しい作品だと思いました。ただ、大多数の人には何かしらは楽しめる要素があると思うので、おすすめではあります。
プレイ順:プロローグ→しろは→うみ→蒼→のみき→紬→識→静久→鴎→ALKA→Pocket
評価:静久=鴎>ALKA>のみき>蒼>Pocket>>紬>うみ=しろは>識
プロローグ
主人公は舞台となる島にとっては異邦人なため、各キャラと出会う所からシナリオは始まります。
個人的には出会いそのものは良かったのですが、その後全員と仲を深めることなくすぐに個別√に入ってしまいフェードアウト気味になる子が多いため、1つくらい共通イベントをみんなでこなすターン(『リトバス』における対外試合のようなもの)があっても良かったのではないかと思います。タイムスケジュール的にキツイかもしれませんが。
しろは√
数回文字送りするだけで次の日になるレベルで日数刻みが早く、キャラも掘り下げていたようで掘り下げず、かといって先が気になって仕方ないみたいな状態にもならない、厚みが出る余地はあったのに薄いシナリオという感想でした。
短文の台詞の連発で構成された軽妙な掛け合いは楽しかったのですが、当のしろはも含めキャラに殆ど何の積み重ね&思い入れも無い状態で進んでしまったため、大体のイベントに対して「そうなんだ…」以上の感情が湧き上がることがありませんでした。
しろはの境遇に自分を重ねる主人公とか、仲間と協力して金銭を得るとか、やってること自体は悪くは無いんですが…
うみ√
多分どういう順序で攻略しても共通部分でこの子を見ることが一番多いこともあり、好感度が比較的高めになりやすい子だと思いました。様々な理由でヒロインではないため恋愛要素はゼロなのは仕方なし。
肝心の√内容は、メイン内容である子ども立て篭もり事件は流れが唐突すぎる、残りはあっさりすぎる…とあまり楽しめませんでした。しろは√とうみ√は後回しにした方がシナリオの構成的にも楽しめたかもしれません。
蒼√
ファンタジーに振り切ったお話。内容自体にこの作品独自の面白味があったかと言われれば微妙ですが、ヒロインである蒼との心の触れ合いがしっかり描かれており、確かな満足感がありました。
攻め気質ではなく受け身気質でスケベなヒロインは個人的にはあまり見たことがなく(攻め気質の方が好きなため目に入ってない可能性もありますが)、その点でも楽しめました。ヒロインが気に入れば良し!の人間なので。それで、姉妹丼有のエロゲ版どこ?
のみき√
のみきは蒼とは別の意味で男友達感のあるヒロインで、皆の頼れるリーダー格的な存在かと思いきや…なシナリオ。
島民全員の子供・妹みたいにのみきが暖かく見守られている状況がとても好きでした。普段が風紀委員気質なだけに、ギャップ萌え要素が大きかったです。
両親のゴタゴタについては深く触れられなかったのでツッコみません。ツッコミどころが無限に出てきそうなので。
紬√
正体がお人形。完全な人外が出てくるとは思わず、その点では度肝を抜かれました。人外と言っても、せいぜいが本体と分離した精神体くらいだと思っていたので…
今までほぼ出てこなかった静久や鴎も話に絡んできて、そこは楽しかったです。
しかし紬自身が私好みではないタイプであり、「自分探し」という彼女を象徴するワードが辞書上の意味から外れていたのが個人的に微妙だったのもあり、楽しさはまあまあのあたりに留まりました。
識√
追加ヒロイン故にパッケージでメインを張っているにも関わらず、作中のほとんどの時間出番皆無な可哀想な子。しかし特殊ED曲をもらっている特別な子でもあります。
個人的には彼女自身については気に入っているものの、√内容はあまり好きではありませんでした。
簡潔に書くと「彼女が鬼にならなければ本当に解決しない問題だったのか?」という点と「彼女が少し行動しただけで歴史が変わる辺りがイマイチ納得できない」という点です。
1点目については、終盤の方でこれ以外の解決方法もあったかもしれないという仮定の話自体はあります。あるのですが、プレイヤーである自分自身が序盤時点で別の解答探しをすべきでは?と思ってしまったため、ここがしこりになったまま話が進行していってしまっていた感覚です。この際シナリオ展開そのものが適切だったか不適切だったかは脇に置いておいて。
2点目については、2人の行動によって世界が変わっていったという流れがしっかり表現できていなかった事に尽きると思います。終盤の祭(灯籠)に着想を得るあたりは成程と思ったのですが、他は「あの程度で変わるんかい、というか世界が変化したらしいのに全然何も変わった感じがしない」と感じてしまいました。
ヒロイン自体は声優さんの熱演(怪演?)もあって非常に良く、後付け設定ながらも島の根幹に関わる話をするりと滑り込ませてきた手腕は流石の一言です。
静久√
みんなの頼れる生徒会長、だったはずが…
ルートに入るまでは紬と主人公の良き話し相手になる等、ほぼその通りの人格者キャラであり、引っかかることといえば「おっぱい」の連呼とプロローグで船を逃した際にかなり平然としていたところくらいでしょうか。
この√に入ってからは、彼女のおかしさがさらに露見し始めます。記憶が飛んだり、母親を含めた他者との関係が意外と険悪だったり等々、「これ、延々ギスギスして最後にちょろっと解決して話終わった風にしたりしない?大丈夫?」と心配になる程。同ブランドには悪しき前例があったので…
しかしそれも杞憂に終わり、主人公、しろは、紬、静久母等と静久との関係を通して人と人との距離感を描き出す、良い話でした。紬√ではそこまで好きになれなかった紬のことも、この話で好きになることができてよかったです。
鴎
ひげ猫団に入りたい!何か児童書を読みたい!と理屈抜きに感じたシナリオ。直接ヒロインの生死が関わっているシナリオのため、読み口は軽いながらも胃に重くのしかかってきました。同じくヒロインの死を取り扱っている識√にあまり納得がいかなかったため締め方を心配していましたが、綺麗に纏めてくれたかなと。
声優さんがご廃業なさっているのが、今後のメディアミックスで心配になります。
ALKA
真・うみ√。年を取る毎にどんどんこの手の家族もの(特に小さい子が可哀想な物語)に弱くなってきている自覚はありましたが、本作を読んでいて涙が溢れたのはこの話だけなので、相当読んでいて苦しかったのだろうと思います。家族ごっこを通して今まで1人蚊帳の外のような振る舞いが多かったうみちゃんが島の人々や羽依里・しろはと交流して元気になっていく姿に喜び、うみちゃんが悲しんだり幼児退行していく姿に泣き…
そうした話自体は好きですし、いつかうみちゃんに主人公的立場が移るだろうことは予測はしていたのですが…やはり最後の最後で鷹原羽依里が主人公の立場を失ってしまったような感覚があり、彼目線で今まで物語を楽しんできた身としては急に梯子を外されたような感覚がありました。羽依里の喜びも、慟哭も、悲しみも、やるせなさも、うみちゃんという別人の視点からしか味わえないのはだいぶ減点要素。物語構造的に仕方のないことではあるとわかってはいるのですが…
Pocket
羽依里から完全に七海(羽未)に視点が移ってしまった最終章。個人的には最後の最後で主人公の立ち位置のキャラが交代するタイプの作品はあまり好まないです。なんなら羽依里の出番自体が殆どないことには落胆してしまいました。おかーさんに比重が寄りすぎなシナリオは、しろはが主人公なら納得したのですが…
さらにヒロイン達が(若干所在不明な識を除き)脈絡なく全員幸せになっていそうな描写があったことはやや不満。ハッピーエンドのためには仕方ないのですが。
しろはと羽依里のすれ違いシーンと、うみの救済があったことは好きですが、作品としてのピークはALKAまでだったかなと思わせられてしまいました。
その他
・ミニゲーム
以下、簡単な評価と感想です。
卓球○→こちらも卓球エンドが欲しかったし、ただの島ポン前哨戦になってしまっているのが惜しい。また、島ポンに主人公の声をつけるならこちらにもつけて欲しかったところ。
島モン×→ランダム要素:多、エサ・島モン・称号の取得等の手間:多、こちらで操作できる要素:少、とキャラ同士のやり取りと特殊EDを見るくらいしか楽しみがない。
島ポン○→進化版卓球。そうは言ってもやれることがそう増えたわけではないので、ちょっと残念。島ポンエンドは新しくのめり込めるものを見つけた主人公という、本来このエンドもアリなのではという終わり方で良かった。
・羽依里の声
『リトバス』の主人公より声が付かないとは流石に思いませんでした。せめてALKA〜Pocketの間だけでもフルボイスにできなかったのでしょうか?大量のモブに声つけるより、そっちの方が嬉しいです。