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no-attさんのうみねこのなく頃に咲 ~猫箱と夢想の交響曲~の長文感想

ユーザー
no-att
ゲーム
うみねこのなく頃に咲 ~猫箱と夢想の交響曲~
ブランド
エンターグラム
得点
100
参照数
1083

一言コメント

『ひぐらし』はホラーが苦手な人とミステリー好き以外には万人受けするタイプの作品だと感じるが、本作『うみねこ』は長時間に渡るゲームのプレイ・考察、この作品構成を許容できる精神等、楽しむためにはそれなりに色々と必要になるため難しい作品だと思った。各√感想有り。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

作品への好感度   S(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 D(S・A〜E)※設定が共通しているためひぐらしの履修は強くオススメするものの、シナリオは直接関係ないため必須だとは思わない。


前置き
感想があまりにも長いので、総評→個別√感想の順に記載しております。
各√感想はプレイ順です。



総評
かなり特殊な作品。万人受けしない作品を1つあげなさいと言われれば、迷わずあげるだろう作品。そう感じた主な理由は「作品を楽しめる人間がとても限られるから」です。

本編の内容だけでも難しい作品であると感じていたのですが、中編『我らの告白』や外部サイトでの対談(批評空間にリンク有)などを読んで、大変難しいにまで格上げされました。
とにもかくにも、本編の内容(と作者)にキレないムカつかない精神が一番必要です。一時の怒りや失望で観劇を終了せず、そこからさらに考えようとした人間か、基本的にずっと面白さを感じている人間だけがこの作品を好きだ!と言っている状況になっています。遠目で『うみねこ』について語る人達がガチファンかアンチの両極端しかいないような状況に見えていたのは、ある意味において間違いなかったのです。

結果としては、私自身はこの作品を楽しめました。ただシナリオを読むだけではなく作者と私達受け手の一騎打ちであるということを強く意識させる挑戦的な作りでしたし、深く考えることが苦手だと思っていた私にも、考えるのは楽しいことだと教えてくれました。
そして竜騎士先生はあまり好かない意見かもしれませんが、単純にキャラ萌え作品としても悪くなかったです。キャラデザ(見た目だけでなく性格も含め)センスはやはりピカイチだと実感しました。
しかし好きになれた理由で一番大きいのは、「自分に確固たるミステリー観がないから」です。何もないから、なんでも受け入れられました。しっちゃかめっちゃ色々やってる作品ですので、ミステリーというジャンルへ何かしら想い入れがある人は怒りや失望を覚えやすいのでは?と思う部分が大きかったです(こんなのミステリーじゃない!という呟きをよく見るので)。

この作品を理解し誉めている人こそ真に頭がやわらかく優秀だ、と言いたいわけでは全くありません。ある程度カラクリを理解した上で、この劇作方法に怒っている人も大勢いるでしょう。それもそれでこの作品の受け取り方の一つなのかな、と今は思ったりもしています。

個人的には人の“心”に寄り添った美しいシナリオ。他の方々にはどう受け止められる作品なのかが気になって仕方がない、そんなゲームでした。遊べて良かったです。


追記
前半EPの時点で推理完了できる頭もなく、議論を交わす相手もおらず、未だ自分の推理も訳わからない感じになっているところが多いです。既に書き手との勝負に負けている状況ですが、負けたからと言って人の考察を読んだりして素直に膝を折るのも癪なので、まだまだこのゲームのことを考えなければいけなさそうです。頑張ります。


以下は各シナリオ感想です。
評価Ep.3>5=6>4>7>8(手品エンド>魔法エンド)>1>2


Ep.1(約12時間)
これからしばらく展開される話は、正体の掴めぬ殺人犯に迫るという単純なミステリーではなく、魔女による犯行であると主張するベアト(ファンタジー)と人間による犯行であると主張する戦人(アンチファンタジー)の推理?合戦であると、Ep.1終了時点で理解できる作りにはなっています。
しかしよくある意見の交わし合いではなく、理屈もへったくれもない屁理屈合戦になっていくことを納得できるかどうかで、その後面白いと感じるかどうかが変わってくると思います。私自身は屁理屈をペラ回すことこそノベルゲームの醍醐味だと思っているので、肯定できました。

このEp.1と次のEp.2は面白くないのか?と聞かれれば、作品を最後まで見た上で再度思考を巡らせれば面白い、という構成であると感じていて従って単体での評価は微妙になってしまいました。


Ep.2(約13時間)
ゲーム盤の一つ上の視点(指し手世界)から、似ているようで全く別の殺人劇について推理する物語。

序盤から展開される譲治・紗音、朱志香・嘉音の恋愛話はほぼ全ての流れが予想の範疇を出ず、尺をとって説明する必要はあったとは思うものの特に面白くはありませんでした。
面白かったと感じた部分は終盤付近に集中しており(楼座無双、戦人家具化、tea party)、他は盤上の物語の間に挟まれる戦人とベアトの推理合戦くらいでした。


Ep.3(約15時間)
「このEp.3は前半4話の起承転結では転に位置するだろうから、こういう話(デレるベアト)もあり得るだろう」と考えていたところを、思いきり騙されてしまいました。普通だったら騙されないのかもしれませんが、騙した本人のベアトが「漫画・アニメ・ギャルゲーで勉強した」と言っていた上に少しも本心でなかったというのは嘘になると思うので、そっち寄りのプレイヤーが騙されるのも仕方ないかもしれません。

前述のベアトのデレ以外にも、大人組の生存率の高さ、絵羽の魔女化、ワルギリアの戦人への肩入れ、霧江の豹変、最終盤では乱入者の縁寿が来るというイベントが組み合わさり、飽きの来ない構成だったと思います。


Ep.4(約18時間)
先に不満点から。
ゲーム盤の外(※正確にはやや違うと思われる)からの来訪者かつ戦人の妹、という凄い設定を引っ提げて登場した右代宮縁寿。縁寿はEp.3のラストや本Epの冒頭部分の展開から、指し手世界の新規登場人物として戦人・ベアトと白熱した推理合戦をしてくれると思っていました。しかし、実際はそういった活躍はほぼ皆無。後の展開を見ればこうなってしまったことに納得はしましたが、期待していた推理面での活躍が描かれなかったことに少なからず不満はあります。

面白かったところはメインである真里亞・さくたろう・縁寿・七姉妹の話。1つ1つの話がやけに細切れにされ散り散りになっているEp.4の構成自体はなんとも言えないのですが、真里亞の魔法(≒幸せに生きていくための心持ちを保つための秘訣)の描写が心に来ました。今まで楼座に怒られているか、キヒヒモードの方が目立っていた彼女の内面を垣間見ることができて良かったです。

最後には戦人はベアトを活動不能まで追い詰めましたが、結局その追い詰めた推理自体も魔女達に殆ど不正解と言われる始末。総合するとそう悪くはないけど期待以上の話にはならず、締まらない出題編の最終話でした。


Ep.5(15時間)
ゲームを降りたベアトの代わりに航海者の魔女たちが本格参戦した、展開編の起に当たる部分。メタ的思考を持った人間の探偵古戸ヱリカと「ノックス十戒」を基にシナリオを叩っ斬るドラノールが登場し、さらにメタ要素が重要な作品になり賛否が分かれそうな雰囲気がヒシヒシと感じられました。

今回は親族達の出番は夏妃と金蔵(妄想)以外殆どなく親族ファンとしては寂しくも感じましたが、脅されて半泣きの夏妃の描写が良かったです。

新キャラのドラノールは持ち込んできたノックス十戒が、ヱリカは台風の中水着で知らない家の外壁にへばりつくなどの奇行が面白く、やや推理合戦自体がマンネリ化してきた本作において新しい風を吹き込んでくれるものでした。


Ep.6(約14時間)
前回はベアトのゲーム盤の全てを理解した戦人の逆転勝ちで終わったはずなのに、何故かヱリカに逆転敗けした所から始まる第6のゲーム。今回の議題は碑文でも館殺人でもなく、「ミステリーにおけるロジックエラー」でした。

GMとなった戦人が与える最大のヒントであろう恋人決闘シーン、ヱリカとのロジックエラー談義によって紗音嘉音ベアト(ヤス)のトリックについては本Epでほぼ答えが出ています。
しかしEp.8で長女一家犯人説・天井が無い密室等のヱリカの暴論を見た後では、何故ヱリカはヤス入れ替わりに気がつかなかったのか不思議ではあるのですが。もしかしたら、そのトリックに気付いた瞬間=彼女が死んだ瞬間で指し手世界上では戦人とベアト、ゲーム盤世界では紗音(もしくはヱリカの発言を真に受けて、既に第九の晩まで至っているとすれば駒ベアト)がヱリカを撃ち殺し、何らかの答えを出す寸前でゲーム終了になってしまったというオチで納得はできますが…

個人的な趣味なのですが、戦人が指輪を無理やりヱリカに挿入されているシーンの存在でこのEpの価値がべらぼうに高いです。


Ep.7(約12時間)
外部から新規プレイヤー(ウィル)を招いての特設会場でのゲーム。
金蔵を始め親族に話を聞きに行く前半部分はわかりやすい話でしたが、クレル劇場以降の内容は作中1わかり辛いという難有りな構成でした。どちらも作品を理解する上でのヒントを与えるシナリオなのに、理解のしやすさは雲泥の差。

前半はわかりやすく読み応えがあり、各々の言う「ベアトリーチェ」から本作の数多の時間存在し続けるベアトリーチェという存在を整理するのに役に立ちました。特に金蔵からの情報は作品初公開だったため驚きが大きかったです。
しかし後半はクレル劇場に始まりふわふわした描写が多く、そこの内容はある程度噛み砕けたとしてもその次のクレルVSウィル(土は土に、幻は幻にのシーン)は特に内容が理解し辛かったです。ここでのやりとりも私達へのヒントではあると思うのですが、テンポが悪いことも相まって、微妙に感じました。

ただ、碑文の謎について解法が述べられたのは良かったです。私達にも一応は解ける話だったみたいですが、最初の謎の手前の情報が少ない(金蔵の趣味に着目している必要があった)ためやはり推理は難しいかもしれません。


Ep.8(約14時間)
縁寿のためのラストゲーム。本作を追ってきたファンですらかなり賛否割れたらしいシナリオ。常に賛否割れまくってる印象なので今更感はありますが。

前半は楽しい親族会議クイズ大会とベルンの紫の発言を使った推理ゲームのシーン。初めて操作パートが出てきてびっくりしましたが個人的には両方とも楽しめました。
後半については「縁寿の物語」、「ベアトリーチェの猫箱の物語」としてはこのまとめ方は悪くなかったと思います。言いたい事はたくさんありましたが、ただの箇条書きになりそうなのでやめておきます。


TSUBASA(翼)、HANE(羽)(約8時間)
箸休め的短編集。ほぼ全て面白い小話でびっくりしました。一番好きなのは「Arigato for 556」、次に好きなのは「勤労感謝の日の贈り物」。個人的にはヱリカ、幼少期の縁寿の出番が多かったらもっと嬉しかったです。


SAKU(咲)(約3時間)
中編追加シナリオ。

『我らの告白』
この作品におけるハウダニットの一端を公開する話。
正直な話、受け取り方に困る内容でした。後半Epやこの話で、この作品中の完全な真相は明かされません。明かされない理由について最終的に納得はしているものの、ヤスや竜騎士先生が明確に「真相に辿り着いた読者」を求めているような気がするため、もどかしさが物凄いです。そのもどかしさ部分だけが増えてしまった話でした。

『Last note of the golden witch』
おまけ的側面が強いゲーム。犯人がゲーム盤でやらかした事も少ない上早々に自供することもあってか、難易度もかなり低め。
明日夢含め次男家族はもっと掘り下げて欲しかったのですが、これはちょっと違うような…となる話でした。ピースのキャラは良かったけど。
おつかれ様会も楽しめたものの、ベルンとラムダにフィーチャーしたものではなく親族キャラが見たかったなと思いました。



その他
・絵
ひぐらしと変わらず、原作を尊重してか立ち絵メインの作品。ひぐらしとは違いほとんどの名前ありキャラにきちんと立ち絵があり、出来も大体のキャラは良かったです。一枚絵は相変わらず少し画風が不安定でしたが…

・演出
猫目やヤギ?目演出は少しくどかったです。しかしコミカルなシーンは全体的に良かったと思います。