アニメ(無印・解)を各2周視聴済み。業・卒リタイア勢。小説・漫画等未読。 原作外のエピソードの出来にはかなりバラつきがあり、そしてひたすらに長い。多数のライター・多数のキャラクターが入り混じった結果、話の主軸がブレてしまい、ぼんやりとした印象の作品になってしまったように思う。総評、各√感想有り。
作品への好感度 A(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 B(S・A〜E)※長すぎて本筋が終わる前にバテるかも
前置き
感想があまりにも長いので、総評→個別√感想の順に記載しております。
各√感想はプレイ順です。
総評
伝奇×ループ系作品の名作。
原作に該当する部分の出来は、何度もメディアミックス化しているだけあってとても良い出来です。キャラクターや出来事を1つの側面だけから見るのではなく、「カケラ」というシステムを通して多面的に描く手腕は見事の一言。ループ系作品でエピソードによってキャラクターに対して抱く印象がここまで変わる作品を、私は知りません。
しかしこうして「ひぐらしのメインストーリー・キャラクター」自体は好きではあるものの、ゲーム作品としての「ひぐらしのなく頃に奉」が好きかどうかはかなり微妙です。
プレイしてみると原作外の話の方が多く、それを“ほぼ決まった順番で”読まされることが時には苦痛でした。本筋に関係あるような無いような脇道エピソードをシナリオの腰を折って各編それなりの時間読まされることによって、梨花や羽入を中心としたストーリーであるはずの「ひぐらし」の物語の主軸があやふやになり、ゲーム全体としてぼんやりとした印象の作品になってしまいました。
それに加えて、キャラデザ面については全体的に縦に長く細めのデザインになっており、自分の好みからはやや外れていました。一番の問題である赤坂衛の立ち絵は、擁護が難しいレベルに偽者感があり、見ていてあまり愉快な気持ちになりませんでした。
こう見ると、エンタメ作品としての面白さならストーリー・ビジュアルの両方ともアニメ(無印・解)の方が勢いがあって良かったなと感じました。
初めてひぐらしに触れる方はすぐに「奉」を購入するより、アニメを見るか、単話購入のPC版を買うか、漫画・小説版を買うかした方が結果として楽しめると個人的には思います。
以下は個別√感想です。
☆鬼隠し(80)
謎のばら撒き方が面白く、次々に周囲に不安を覚えるような展開になっていく描き方はやはり目を惹きます。アニメを見て真相を覚えてる身からすると、読み進めるほど圭一が一人でおかしくなっていることがわかる描き方がされており、そういう意味でも面白かったです。
☆綿流し(80)
謎解き作品といえば双子入れ替わり、ということで途中から√ヒロイン?である魅音は詩音に成り代わられているような状況でした。鬼隠し編のヒロインはレナなの?となる以上に魅音がヒロインだとは言いにくい作りです。
この話は前話からは想像しにくいような形でのレナの活躍が見れる所が面白いです。また魅音・詩音の行動などから村の暗い部分が顕になってゆく、プレイヤーの疑心暗鬼を煽る所も好きです。
☆染伝し(70)
前2話では出ない雛見沢大災害も絡む話なので、綿流し編から分岐するのは設定ミスを疑いました。祟殺し編を読まないとこの話に分岐しないように、他の部分よりここを√ロックすべきでしょう。
村を離れた都会での雛見沢の扱いとその雛見沢民の奇行等、楽しめる部分も多かったもののメインの1つである主人公・夏美と暁の恋愛は描写量が少ないこともあり、入り込めませんでした。
☆祟殺し(83)
他編と毛色が変わるこの話、沙都子が可哀想になるのでどちらかといえば苦手ですが、物語の完成度自体は高いと思います。
特に√ヒロイン枠キャラの扱いも1番しっくりくるもので、なぜ圭一は沙都子を守りたがるのかという心情が分かりやすく、加害者側に回ってしまうにも関わらず考えに共感しやすいです。
また本格的に雛見沢大災害や雛見沢症候群という単語が出てくるため謎が深まってくるシナリオであるところもワクワクさせられます。
最後の圭一のインタビューのシーンはアニメにはない箇所ですが、本当に怖かったです。
☆盥回し(35)
色々なストーリーをつなぎ合わせたよくわからない話。オチも急かつtipsも意味不明という誰得?という感じの話でした。
お疲れ様会で語られていた「圭一が圭一らしくない行動をした結果の話」というコンセプトは悪くないので、もう少しどうにかして欲しかったです。
☆憑落し(75)
祟殺し編のifとして「圭一より1枚も2枚も上手な詩音とレナが鉄平殺しに加担したら?」という話。圭一の疑心暗鬼が仲間に向いてしまい、あさっての方向へ加速していくif展開としては面白かったです。
☆暇潰し(90)
時代や視点がいきなりガラッと変わり、時代はダム戦争中、主人公も若き公安警察官である赤坂に。アニメでもここからが面白いと思えた、まさに転換点でした。
短いながらもテンポ良く様々な謎が詰め込まれており、やっぱりひぐらしってドキドキする!と思わされました。
☆影紡し(80)
一本道badかつ展開に関しては一部駆け足気味であった染伝し編の、足りなかったピースを埋めていくような話でした。とにかく長い。
巴、まどか、大石、赤坂、守先輩と千沙登の頑張りは心にきましたが、仮にも彼氏というか夫である暁と、千沙登と同じ夏美の友人である珠子の頑張りが作中で描写されないのはいかがなものかと思いました。特に後者は印象があまり良くないまま話が終わってしまったのは残念です。
☆昼壊し(76)
毛色が全く違う箸休め的作品。ギャグ短編ではあるものの、本筋に絡むような台詞などもあり、話の流れを阻害したと感じるよりかは息抜きとして楽しめました。特殊OPもかわいい。
☆目明し(90)
詩音が完全に主人公という珍しい話。主人公の心情に乗り切れないことは最初からわかっていても、それでも面白さが勝ちました。綿流し編の裏に何が潜んでいたのかがわかっていき、長くても楽しめる話でした。
不思議な現象がこの作品内には無いことを前提に今までの謎への解答が出され、間違っている推理とはいえ一応筋の通った解答が出てくるのはここまで長い間読んできて報われたような、一種の気持ちよさがあります。
☆罪滅し(100)
選択肢も無しに「罪滅し編bad→宵越し編」という流れになっているのは話の勢いを削いでいて良くないと思ったので、追加要素である宵越し編の方を減点してあります。
bad踏んだら分岐で良かったと思います。
内容については目明し編のように作中人物が独自に「オヤシロ様の祟り」を推理して行く話なので、読み応えがあります。
一応鬼隠し編の解答編である本作はレナがどんどん狂気に染まっていく話ですが、綿流し・目明し編の関係性とは違って鬼隠し編とは全く異なる展開を辿るのに、ちゃんと諸々の展開の解答になっているのは話作りがとても上手いと思いました。
作品通して1番の名シーンである屋上での圭一VSレナは、燃えゲーでないにも関わらず思わず大興奮してしまいました。
☆宵越し(55)
梨花の死後かつ、ある一編のバッドエンド後の世界を描く作品というのは目新しくて面白かったです。
ただ話が長い上に、続きが気になる罪滅し編を遮って出てくるのは1編限りの新キャラばかり、というのは悪かったと思います。それさえなければもう少し評価していました。
また、主人公である荒川・美雪を除いた全員に、死んだ人間と会話をするシーンがあるのも個人的にはダメでした。雛見沢のメンツや赤坂、巴が不思議な現象に遭うのはまだ理解が及びますが…
死者との会話は祭具伝での梨花と魅音、園崎本邸での魅音と詩音の会話だけにとどめ、あの日学校爆破で死んだはずの魅音が詩音の物理的な体の傷を肩代わりするというシーンがなければ普通に良かったと思います。この感想自体、この短編を全否定してる気がしますが。
☆解々し(60)
“ときほぐし”編ですが、何をときほぐしたのかがさっぱりでした。
また、ここにきてまさかの巴の発症と垣内編への羽入の介入、そして投げっぱなしのある意味バッドエンド。
羽入の介入も、せめて入れるなら皆殺し編の後の方が良かったと思います。tipsで赤坂に接触する羽入はまだわかるのですが、果たして巴に直接接触する展開は必要だったのか、疑問です。少なくとも、カケラ世界そのものに巴を呼ぶ(見せる?)展開の必要性は感じませんでした。赤坂のように会話だけでよかったような…
☆皆殺し(80)
ラスト√の前座という感じの話。アニメ版の構成の方がテンポ良くまとまっていたと感じた話でした。
沙都子については祟殺し編で十分描かれたので、どちらかといえば助ける側がメインの話になっており、ちゃんと段階を踏んで沙都子を救っていく様は読み応えがありました。
後半の陰謀に立ち向かう話については圭一が死ぬまでの数秒を引き伸ばして会話するというシーンや魅音の死に様がどうもひっかかりました。アニメ版は圭一が実際に撃たれてから話すようにしたり、魅音にも見せ場を作ったのは良改変だったと思います。
☆カケラ世界プロローグ〜カケラ紡ぎ(80)
プロローグと99の短編集。話の長さはまちまちですが、これまでの振り返りや今まであまり話に上らなかった鷹野や入江に関する話なども盛り込まれており、話数に圧倒されて尻込みしていた割にはテンポ良く読み終われました。
☆祭囃し(75)
アニメ版の方が良かったと思ってしまうくらいすっとぼけた演出が多く、拍子抜けしてしまいました。今までのおふざけシーンは部活などの日常イベントの時に集中していたため、少し不快になることはあっても読み心地を損なうレベルまでには到達しませんでした。
しかし祭囃し編では富竹が捕縛されるシーン然り、赤坂の徹甲弾然り、比較的長尺を取られている沙都子のトラップ然り…あまりシリアスな場にそぐわないような演出が多く取られており、展開そのものの良さの割にはテンションが上がりませんでした。
また圭一やレナが活躍するシーンもあまりなく、大団円の最終章にしては…という感じです。
☆賽殺し(78)
S58 6月を超えてハイになっていた梨花を諌めるような話かつ、誰もが罪を背負っていない世界とは如何なるものなのかというのを提示してくれて面白かったです。読んでいて気分が悪くなる描写も多々あったものの、切り捨てたはずの父母との関係に再び焦点を当てた所は良かったです。
☆澪尽し・表(68)
個人的にはレナや詩音が発狂するような兆候をみせる展開を、祭囃し編というものが存在した上で見せられても困るというのが始めに出てきた感想です。先に述べた2人含めて数人のキャラクターについては、祭囃し編の圭一レナとは別の意味で最後の最後にこんな扱いなのか…と不憫になりました。
また、大石周りなど祭囃し編と全く同じ流れの会話も多く、圭一と梨花(羽入)が惨劇を防ぐという名目のおさらいパートも多いだけに、「また?」「いまさら?」となる展開のオンパレード。
最後の最後に梨花の形をした羽入であるという存在自体の梯子外しをされる、自分勝手な思考ばかり目立つ梨花(羽入)、
いくら圭一を持ち上げるためとはいえクソみたいな部活を開催した魅音、
皆殺し・目明し編を経たのに未だに簡単にスイッチが入り奇声を上げるレナと詩音、
揉み消されて事故扱いになったとはいえ、勝手に自分の中で罪の形を定義して納得してしまった沙都子(沙都子の言い分が本当に正しいという確証無し)、
特に何の感慨もなく普通に生きて戻ってきた悟史…
祭囃し編でほぼ活躍しなかった部活メンバー達の出番を増やしたかったのだろうというのはわかりますが、肝心の描き方がこれでは今まで丁寧に描いてきたキャラクターの印象を下げているだけだと感じました。
入江が感情をむき出しにするシーンや圭一が罪を精算するシーンが良かったのと、やりたかっただろう展開自体は理解できるだけに、残念な話でした。
☆言祝し(78)
純然たるひぐらし前日譚ではなく、超解釈・ひぐらし昔話みたいなノリだと思えば楽しめました。
羽入の株は上がりませんでしたが。
☆澪尽し・裏(85)
表の内容の補完要素はほぼ無く、表でダイジェスト気味に語られた垣内側の顛末を描いたエピソード。終盤の作品では1番面白かったです。
閉鎖的な家庭環境と閉塞的な地域での問題を祟りと病に結びつけて描きだす「ひぐらし」作品らしくないシナリオではあるものの、政治の世界と医療、警察・検察を上手く絡めており、スケールの大きい刑事物としては読み応えがあったと思います。
ただ、祭囃し編・澪尽し編表であまり描かれなかったキャラクターである野村の描写がもう少し欲しかったかなと思います。いまいちどういう人物か掴みかねるので。
☆羞晒し(75)
なんでもあり空間のギャグ展開ですが、ネタバレ解禁のおかげか昼壊しより出演キャラが多く新規立ち絵差分がたくさん盛り込まれているため、見どころは多かったです。
☆雛見沢停留所(70)
舞台の原稿をそのまま落とし込んだような異色の作品で、キャラクターの出入りやライトの当て方まで地の文に記載してあります。
個人的には漫画版の方が没入感があって良かったと思います。動きのない原稿そのままのようなものをゲーム媒体で読んでも違和感しかないので…
また本業声優の方達でないからか特に男性声優陣の棒読みや滑舌の悪さが気になり、ノベルゲーという媒体そのものの動きの無さも相まって没入感をなくしていると思います。百合っぽい要素は好きですが、漫画の方読めばいいやと思えてしまった作品でした。
☆ひぐらしアウトブレイク(45)
ひぐらしの設定を使い、謎のウイルスの蔓延によって封鎖された雛見沢でのパンデミックもの…をやりたかったのだろうと思います。
しかし登場人物に悲壮感も感じなければ狂気も感じない、キャラクターも圭一レナ魅音しかほとんど出てこない、文章もひたすらに長くて読みづらい、挙句の果てにこのシナリオの肝であろう沙都子と梨花を救出するシーンが文章無しのダイジェスト、そしてそのままよくわからない流れでぶつ切りエンド…
今までのCSオリジナル作品に対しても違和感を感じていましたが、今回は単純に訳がわからないシナリオでした。
☆神姦し(73)
途中まではアウトブレイクの続きのノリでしたが、後半はギャグ一辺倒。神姦し編後半とアウトブレイク・前半の温度差で風邪引くレベルでした。結局この2編で何を示したかったのか、いやそもそも何がしたかったシナリオなのかわかりかねます。
しかし采ちゃんはかわいい。雑魚ゲス娘は好きです。
☆罰恋し編(55)
大人が子供にセクハラするノリやBL展開はあまり好きじゃないので、そんなに好きじゃないですね…
蛇足
特に重要な設定である「雛見沢症候群(もしくは単に風土病)」の原因について、最後まで読んでも「寄生虫」なのか「ウイルス」なのかが全くハッキリしなくて驚いてしまいました。Wikipediaなどでは寄生虫と表記されていますが、ウイルス扱いのシーンもかなりあります。一纏めにして「微生物」呼びをしている時か、言祝し編やアウトブレイクみたいに「地球人の知識じゃよくわからない何か」なら間違っていないのですが。
例えばレナなどの一般人の中で呼称がコロコロ変わるのは知識の有無もあり仕方ないとは思うのですが、医療従事者や医療かじってるキャラ達の中でも定まっていない感じで…
ライター陣の知識不足か設定ミスだと思ったのですが、どうなのでしょうか。「ウイルス」と「寄生虫」は全く違う存在であるにもかかわらず、混在した表記で扱われていることに対しては少なからず不満を覚えました。