ErogameScape -エロゲー批評空間-

no-attさんの眠れぬ羊と孤独な狼 -A Tale of Love, and Cutthroat-の長文感想

ユーザー
no-att
ゲーム
眠れぬ羊と孤独な狼 -A Tale of Love, and Cutthroat-
ブランド
CLOCKUP
得点
99
参照数
433

一言コメント

殺し屋の男・“俺”と殺人鬼の女・あざみが織りなす愛と殺人の物語。この作品はこの2人のための物語だと納得できるか否かで受け取り方が変わってくる気がした。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

作品への好感度   S(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 C(S・A〜E)※グロ表現カット機能はあるもののダメな人にはダメなレベル

前置き
感想文中、『虚空のバロック(light)』と『Maggot baits(CLOCKUP)』について多少触れています。ネタバレの範疇外だとは思いますが注意をお願いいたします。


各ルート・エンディングの感想、総評の順になっています。
プレイ順:共通→B孤独な狼→A眠れぬ羊→C眠れぬ羊と孤独な狼
評価:共通>C>B>A


共通
この作品で一番楽しいパート。中華系ヤクザと日本系ヤクザ、それに警察や殺人者、一般人が入り混じっている雑多な感じが心地よく、後半への期待を膨らませてくれます。

こう書くと実際の後半の出来が悪いみたいに受け取られると思いますが、今後の話も別につまらないわけではないのです。しかしここで膨らんだワクワク感がさらに増すシナリオというよりかは、命や選択の末路の呆気なさを感じるような展開が多いシナリオだった、ということです。


B孤独な狼
狼であるヒロイン・あざみ側に着目した話。なぜヒロインが狼になったのかというところから、なぜ紗雪が御舟を恨んでいるのかまでしっかり掘り下げていて驚きました。
また、ラスボス?である仁礼が思ったよりも好きになってしまいました。微妙に間違った信念や願望を抱き続ける芯のある人間が好きなのかもしれません。A√より評価が高いのも仁礼加点が大きいです。


A眠れぬ羊
羊である主人公・“俺”側に着目した話。こちら側の方が共通√の話的には正規の流れっぽいシナリオでした。東儀&ダルマ女と主人公&あざみ、日本のヤクザと中国のヤクザの対比が良かったです。ダルマ女自体があまり活躍しなかったことは素直に残念。

ホスト顔の海江田に甘々声を出す紗雪さんと、やけに南国チックなノリノリED曲には流石に笑わされました。


C眠れぬ羊と孤独な狼
今までモブに毛が生えた程度しか出番のなかった恩田(とそのバックにいる公権力)が割り込んできたら?という話。正直言って急に出てきて場を荒らすだけ荒らした彼らと、一連の展開自体に良い気持ちは覚えませんでした。
しかしストーリー展開の呆気なさから来る虚しさを感じることが他のシナリオよりさらに多く、相当な虚無感に苛まれました。この虚無感を生み出すパワーがとにかく凄まじい。ああ、死ぬ時はどんなに強くて逞しい人間だって予想もつかない展開で呆気なく死ぬんだな、と…。この展開のおかげで主人公の思想についての描写がさらに強固になった気がします。

もちろん東儀の変化やいつもと変わらぬ海江田、仁礼と“俺”とあざみの関係性や幸せそうなダルマ女や李と雲の関係性とか色々楽しく面白かったのですが。
最後の殺し愛バトルでは逆に虚無感がひっくり返ってしまい、大号泣しながら読んでしまいました。ジェットコースターのようなシナリオで、個人的にはテーマには一番合致していたシナリオだったと思います。



その他
・絵
絵柄は人を選ぶ感じ。要は典型的萌え絵ではないということですが、私はこの作品には合っていたと思います。表情のチョイスが良く、些細な気持ちの変化がよく顔に現れている感じがしたのが良かったです。個人的には紗雪と孟の焼肉シーンは感動モノで、ただ肉を焼いて話をするだけのシーンなのにかなりの数の差分があって視覚的に楽しかったです。


・シーン(H・拷問)
予想に反して和姦やそれに準ずるものが多かったです。
和姦が多いと言ってもブランドのカラー(だと思う)が完全に抜けているわけでは決してなく、スカトロもグロもありますし無理矢理的なシチュも多いため注意は必要かと。

自分はエロゲーのHシーンに関しては各ヒロインのノルマ数をこなすだけこなしたな、と冷めた目で見ることも少なくないのですが、本作はシーンが多いにも関わらず、シナリオに組み込まれている感じがしたのが良かったです。

『Maggot baits』プレイ時にも思いましたが、シーン数を減らしてそれ以外の描写を厚くして欲しかった気持ちも無くはないですが。



総評
“俺”とあざみのための物語。
コラボ先でもある『虚空のバロック』読了時にも感じましたが、登場人物は近年の他のエロゲより多いものの、あくまでそれらは主人公とメインヒロインの2人を彩るための脇役でしかありません。脇役への感情移入度はどちらかと言えばこちらの方が高め。

また全体としてかなり呆気ない展開が多く、視点変更が頻繁に行われる傾向にあったので読み辛さが無かったかと言えば嘘になります。しかし後者はともかく前者はその呆気なさを楽しめたので個人的には特に問題はありませんでした。

読むのにかなりの期間をかける私がのめり込むようにたった2、3日で読んでしまったので、ハマればかなり楽しい作品なのでは無いかと思います。