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no-attさんのISLANDの長文感想

ユーザー
no-att
ゲーム
ISLAND
ブランド
PROTOTYPE
得点
74
参照数
87

一言コメント

SFチックな作品。シナリオ構成に大いに難あり。そのため、個人的にはライターの『ひまわり』をプレイしてからのプレイをおすすめする。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

作品への好感度   C(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 D(S・A〜E)※個人的には『ひまわり』からの履修を強く推奨


前置き
感想文中、『ひまわり -Pebble in the Sky-(PROTOTYPE)』について触れています。ネタバレ内容を含む可能性があるため注意をお願いいたします。

各ルート・エンディングの感想、総評の順になっています。
プレイ順:夏編→ 夏蓮√→沙羅√→凛音√→冬編→真夏編
評価:冬編>真夏編(Re:>凛音)>>夏蓮=夏編>>紗羅
評価不能:凛音√


夏編(共通)
個別の分岐箇所も早く、ヒロインと主人公紹介的な側面が強い話。主人公の出自や謎のメモ、島の伝承等興味深いこともありましたが、あくまでメインキャラ紹介と伏線撒きに徹している印象を受けました。

 
夏蓮√
主人公が自身は未来人やらタイムトラベラーでは無いと回答付けたこともあり、表面上はSF的な要素がない普通のギャルゲーとして進行していきます。夏未の研究や御三家についてなど、共通と同じく伏線撒き的なノリはありましたが。

普通のギャルゲーとは言ったものの、甘々な展開は僅かでした。飴玉キスとか勉強会とかの展開は甘酸っぱくて好きだったんですが、そういう雰囲気に期待できるライターでは無いので…
少し上げては大きく落とすシナリオ構成。主人公と夏蓮は様々な考えから決意し行動するも、失敗し、立ち止まり、諦め、逃げては迷います。最後の最後まで甘ちゃん・自己中心的な2人に嫌悪感を抱く人もいるとは思いますが、自分としては何だか他人事とは思えない優柔不断っぷりに思わず共感してしまいました。

こうして挫折とも呼べぬ挫折を繰り返した末に最終的に2人が心から笑っているのを見ると、感動もひとしおでした。


紗羅√
前話がジメジメした話なら本話はまさに電波。次々と嘘か真か分からない、島を取り巻く陰謀論について語られます。

話の内容が分かりづらい×ヒロインの心情の機微が汲み取りづらいというWパンチを喰らい、読み進めるのに苦労しました。どちらかだけでも直感的にストンと理解することができればまだよかったのですが…
しかし伏線らしきものや他編を一旦忘れてこのルートだけ見た場合、最終的に見えた話はかなりシンプルでした。全ては思い詰めたヒロイン(と主人公)の勘違いだった、という展開。紗羅が幸せになるにはこの道しか思いつかなかったので、本当に想像していた通りになってしまってやや残念。

そういえば紗羅の声優さんはアニメで降板になったそうなので、交代した声優さんに声が変更可能ならSwitch版を買い直したかったです。


凛音√
彼女のルートというよりは夏編全体と冬編の繋ぎの話なので、単体では評価し辛いシナリオでした。

凛音と主人公の関係性が行ったり来たりすることが多く、紗羅√以上に混乱しました。どんでん返し的なシナリオというより、あっち向いてホイを高速でやらされている気分にさせられました(後述の通りほぼ全てのシナリオでこの状態に陥ってしまうと言えるのですが)。
凛音の気分の変調もかなり極端で、激昂するまでの気持ちの道のりは理解できても次会った時には謎に落ち着いていたりする等、情緒不安定すぎて気持ちの面で着いていくのが難しかったです。

夏編エピローグはようやく本題かといった感じで、このゲームでは久方ぶりにワクワクする展開でした。



前半まとめ
冬編前までは他のリープ要素がある作品とは違い、ほとんど全ての事象に対し決定的なシーンが無く何もかもが不確定のまま話が進みます。主人公の出自、島の伝承、御三家、引きこもりの玖音、神隠し、タイムマシン、煤紋病等々、とにかく全てがあやふやです。それらに対する主人公達の推理・考察も「何となくの憶測→やっぱり違いました!」の繰り返し部分の尺が非常に長い(夏編・凛音√・紗羅√)のもあってか、盛り上がる所も無いままあやふやなシナリオが続きます。
夏蓮√くらい話が逸れてくれれば別の楽しみも見つけられたのでしょうが、それがない他編は苦痛が多かったです。



冬編
世界観を一新し、終わりかけている世界・アイランドで繰り広げられる主人公達の物語。ここで一部を除き大体の謎は解けます。

この作品で好きになったキャラの殆どは冬編出身なので、盛り上がりどころはあまり多くなかったとはいえヒロインとの日常はかなり楽しめました。また、ここって夏編のここと関連があるんだろうか、とちょっとした小ネタも楽しめました。
アイランドが崩壊してゆくあたりから結末にかけては胸が締め付けられ、皆がある程度は幸せそうにしている夏編を思い返すと苦しくなりました。


真夏編
ここで夏蓮・紗羅エンドと同列と言っていい凛音エンドと、全てのりんねを救うため旅に出るRe:エンドに分岐します。

各ヒロインエンドはかつて玖音が語っていた「玉手箱による浦島太郎の救済」と同じ意味を持つものだと思います。
凛音エンドは他2エンドとは違い乙姫(りんね達)との記憶は(本編で描写された一部以外)無くしていないにしろ、浦島太郎(切那)の今生での救済という意味では同じことかと思います。凛音との結婚報告を受けた玖音は泣いていましたが、この後の玖音はたった1人でタイムマシンの研究を続けるのでしょうか?なんだか救われない気持ちになりました。

Re:エンドは「この作品は物語の起こりがはっきりしない作品だから、終端もぼんやりしていてもいいよね」、という感じのエンディング。『ひまわり』をプレイしていたからこそ受け入れられた結末であり、プレイしていなければ微妙な気持ちになっていたのかもしれませんが。
虚しさとスッキリした気持ちが同居する、ある意味ライターらしい締め方でした。


特別収録
まさかの凛音エンドアフター。個人的にはこのシナリオで玖音の言うことが本心だと信じたいです。



その他
・絵
空中幼彩先生らしさが出ていて良かったと思います。背景も綺麗でした。


・キャラクター
デリカシーなし・情緒不安定・優柔不断と三拍子揃った主人公にふさわしくないような性格の三千界切那。ある程度自分のクソさに自覚的なのに結局は流されて自分勝手な行動に出る彼を、私は嫌いになることはできませんでした。好きでもないけど。
そういった性格の彼含め特に夏編登場人物の主義主張や行動に一貫性がないから作品を愛せない、という意見がありました。私も十全に愛することができたとは思っていません。

しかし、結局のところ彼らに一貫性を求めるべきではないと思います。それは真夏編のヒロイン達を見れば自ずと理解できました。人は時と共に変わってゆくし、その場その場の置かれた立場で態度を変えるものだと思います。これらはあくまで作中で桃香が語った「生まれ変わり」を信じた上での話ですが。



総評
評価が非常に難しい作品。他人においそれと勧めるわけにはいかないなと思いました。個人的に問題だったのはシナリオ構造。
《共通→山場(話の転換点)→個別》とすぐに山場部分に行った『ひまわり』とは違い、《共通→個別×3→山場→真エンド》と続く『ISLAND』は、溜め部分が多すぎて自分としては辛い構成でした。

また、個別感想に書いた通りどんでん返しの連続というよりはひたすらあっち向いてホイをしている気分になりがちで、混乱することもしばしば。「〇かと思ったら×だった、しかし本当は△なのである!」という展開を多用されるともはや本筋のシナリオのうちどれが正解の情報なのか、そもそも面白かったのかどうかが判別つかなくなってしまいます。

物語を最終的に俯瞰して面白かったなーという気持ちはあるものの、実際のところ心の奥底でどう思っているかが判別つきませんでした。消化不良。



蛇足
『ひまわり』は後から資料集や漫画(DS)を買うほどハマったんですが、『ISLAND』はそこまででは無いので解体新書付きverやアニメDVDを買ったりするかどうか非常に迷います。基本的に「ゲームはゲームの中で完結しろ」派の人間なので、本作の売り方はちょっとなぁと思ったり。