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no-attさんのElectro Arms -Realize Digital Dimension-の長文感想

ユーザー
no-att
ゲーム
Electro Arms -Realize Digital Dimension-
ブランド
light
得点
71
参照数
200

一言コメント

『生きた人間がオンラインゲームの中に取り込まれてしまう系デスゲームもの』ではなかった。そういう意味では新手の作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

作品への好感度   C(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 D(S・A〜E)※ライターのファン以外にはそんなにおすすめしない


各ルートの感想
やった順:サブヒロイン√→さつき√→忍√→レオナ√
評価:レオナ√>>>さつき√>>>サブヒロイン√>>>忍√)

サブヒロイン√
全4エンド。無いよりはあった方がいい、くらいのシナリオです。


さつき√
幼馴染系ヒロイン。
ルートボスとヒロインの因縁はそれなりにありつつも、あんまりガッツリやった印象はありません。さつきが守りたい対象である家や店の描写がほとんどなかったからかもしれません。
√ヒロインとしては、ちゃんと最後まで目立ってましたがね。

どちらかと言うと、共通ルートでできた因縁である真栄城と主人公・零示との関係の清算、社長の在り方がメインのルートという印象でした。

社長周りは結構笑えたので良かったです。あれじゃ主人公もヒロインも毒気を抜かれても仕方ない気が…


忍√
真面目系ヒロイン。
忍と新三郎、零示とエヴァンの対決はバトル自体は全くと言って良いほど盛り上がらなかったものの、両者の対比の効かせ方は面白かったと思います。(VSブリューナクとかは本当に面白くないので割愛)

前者は「ゲームの中でも秩序は遵守されるべき」という同じような考えを持つもの同士の対決。
個人的に忍の方の話よりも、忍の昔馴染みかつゲームの自治厨である新三郎がいじめ被害者だったり、痴漢冤罪くらってることの方が衝撃でした。どうして彼が自治厨であることを頑なに貫き通していたのか、というのが分かりやすかったのです。
反対に、忍に対してはほぼ何も語られなかったのでノーコメントです。生来秩序を尊ぶ頑固者というだけで、新三郎のようなエピソードも特にないのでしょうけど……

後者は零示と似たもの同士(であってほしい)と思っているエヴァンと零示の戦い。
エヴァン自体がそんなに好きな造詣ではないのですが、「みんなバトルや人が死ぬのが好きなだけ。バトルしておいてテーマが愛の作品なんて有り得ない」とか言い出したのは笑ってしまいました。
また、ひりつくような本当の殺し合いを経て「ゲームの方が楽しい」と言う結論を出した零示は良かったと思います。

全体を通して√ヒロインから「テンプレ真面目系巨乳キャラ」以上のものを見出せなかったのがダメでした。これで、見た目だけでも可愛いと思ればよかったのですが…


レオナ√
ギャンブラー系ヒロイン。
道中色々なイベントやバトルもあったけど、敵は結局エヴァンなのであまり言うことは無いです。でもモブの一般プレイヤーが活躍するシーンは良かったと思います。

ヒロインと主人公については他ルートより良かったと思います。最初から最後まで、この二人の関係性は面白かった。

自分たちの存在そのものがクソゲー(次の試練を寄越せと、すぐ目の前の苦難を乗り越えていってしまうし、そういう生き方だから生きてるだけで他人に悪影響を与えること)だから、この現実がクソゲーにしか思えなかった、という落とし所は良かったと思います。だからこそこの二人は出会うべくして出会ったのだなあと思えました。

ラスボス戦がヒロインとの壊し愛バトルなのも良かったです。というか、共通ルートの真栄城戦とコレくらいしかぶっちゃけ面白いバトルはありませんでした。

お互いを高め合っていける存在として、お互いがお互いを変えてしまった存在として、レオナはいつもの運命のヒロイン枠とは別のアプローチで面白かったです。



その他
・原画
前々から近年のlight作品で一番微妙だと思ってましたが、感想は変わりませんでした。

一つ目としては巨乳の描き方が総じて微妙です。奇乳レベルじゃないのに、違和感を感じる巨乳ばかり。二つ目は全体的にキャラクターの色味が薄いことです。いつものアニメ塗りみたいな方が、同じ線画でも映えたと思います。

他にも私服も制服も大体がとにかくダサい、せっかくE-moteを採用したのに立ち絵は不気味に動く、動くHシーンがあるのかと思いきやHシーンには全くE-moteが活用されない上に、純粋に一枚絵が少ないとも思います。

絵の面では評価を低くせざるを得なかったのは残念なポイントです。


・テキスト関連
まずこのゲームで頻出する「Igel」や「Aegis」の「g」の下部分が、段落の空白が適切でないからか必ず切れています。
表示されるテキストとボイスの食い違いも3、4箇所ほどありました。
また吹き出しに入れる文量が多すぎてゲーム外に吹き出しが出てしまい文字が読めなかったり、白い吹き出しに白い文字が出て読めなかったり、タイピングミスで〈RB〉や$とデカデカとテキストボックス内に表示されたり…とテキスト関連のミスが目立ちます。 

パッチも出ていませんので、発売後に誰からも指摘されなかったのか…?とちょっと悲しくなりました。


・BBS演出
世界観を理解するのに役立っていたのが、定期的に挟まれる「Electro Arms BBS」のコーナー。
主人公勢はこの作品の開始直後からずっと強いので、なかなか一般プレイヤー目線でこのゲームのことを見ることがありません。なので一般人目線でこのゲームを見るとどんな雰囲気なんだろうか、というのがBBS内の投稿で理解できる点はよかったと思います。



総評
「男がメインヒロイン」「主人公側より敵の方が好き」等々の意見を払拭しようとして作られたような、ある意味で意欲作だと思います。

ヒロインの心情に(比較的)沿った話にはなり、その影響でこの制作チームの持ち味であった男キャラの個性や出番がかなり薄くなりました。
しかし、同時にヒロインについても独特の魅力が抜けてしまったように感じます(レオナ以外)。
良くも悪くも3人全員共通していい女で、物語開始時点でゲーム面でも精神面でもほぼ完成された強さを持っていました。

さつきはヒロインの掘り下げがしやすいヒロインの問題解決型のシナリオですが、さつき自体が精神的に強いため割と再起するのが早く、直面した壁をただ乗り越えてお終いという印象が強かったです。忍は忍と新三郎との対比に重きが置かれており、忍自身も自分のあり方に惑うものの、さつきと同じく再起がとても早いです。どちらかと言えば、やらかしてしまった新三郎の救済という側面の方がまだ強いシナリオでした。

いい意味でも悪い意味でも、ヒロインは共通ルートから印象が変わったキャラが一人もいなかったように思えます。

また、このブランドの燃え作品に共通する能力やキャラの格のインフレもほとんどなく、収まるところに収まったストーリーのため、爆発力のある展開もあまりなく…とあげていくと欠点がかなりあげやすいです。

しかしゲームモノでありがちな「ゲームでリアルの殺し合い」という要素は否定しつつも、現実以外存在しないのはそれはそれでつまらない、という作品全体における「ゲーム」というものの扱いは良かったと思います。

また先ほど述べた「過度なインフレ」がないことにより、パンチには欠けるもののそれぞれのルートであまり謎を残さずに終わり、読んでいてある種の爽快感がありました。
実際、EAの本来の用途については主人公たちにとってみればどうでもいいことではあるので…

総じてかなり中途半端なゲーム、というのがこの作品に抱いた素直な感想でした。積極的に勧めたいとはならないけど、半額なら買って損はないかな?とは思います。