ザ・厨二ノベルゲー。
作品への好感度 S(S・A〜E)
他人へのおすすめ度 S(S・A〜E) ※本作のみで完結しているため。他シリーズ作品は気になったら程度で構わない
前置き
Dies irae(全年齢版)と多少比較しているため、読む際は注意してください。
FGOやアニメ含め何も触ったことがない、まさに初見状態でプレイ。
知ってるのは以下の情報くらいでした。
・主人公とヒロインの名前
・セイバーと士郎、赤アーチャーと凛がそれぞれタッグを組むこと。また、イリヤという子もマスターであること
・聖杯戦争という願いを叶えるための聖杯を求めての戦いの話であること、サーヴァントは真名を隠していること
・FGO含め派生作品がたくさんあること。そこには似たような雰囲気のキャラが沢山いること
・サーヴァントにはクラスがあること
あとは信長とか酒呑とかは見たことある…くらいですかね。FGO関係をSNSでもミュートしているので、案外何も知りませんでした。
既にFGOをやってたりアニメを見たりしていて、単なる普通の「厨二ノベルゲー」として楽しめる人ってそうそういないと思うので、自分はラッキーだなという気持ちです。
以下はルートごとの感想です。
やった順:セイバー→凛トゥルー→凛グッド→桜ノーマル→桜トゥルー→ラストエピソード
評価:桜ノーマル>凛トゥルー>桜トゥルー>凛グッド>セイバー(ラストエピソードは除外)
セイバー√(Fate)
メイン?ヒロインがまさかの初周担当でビックリ。初周とあってか基本的にはFateの世界観やキャラクターを広く浅く紹介し、後は√ヒロインの掘り下げ、UBWへの伏線張りがメインでした。
√ヒロインのセイバーは実に模範的な英雄かつ騎士のサーヴァントらしいキャラで、ごくごく稀に見せる女の子らしい姿が良い、人気No. 1なのも頷けるようなヒロインでした。
一番良かったのは主人公・士郎に対しても全く自分の信念が揺らがなかったところ。
「信念>主人公」という天秤を、聖杯の本質が示されるまで保ち続けていたのはヒロインらしからぬ行動ではありますが、彼女の本質をよく表していて好きです。ぶっちゃけると簡単に男にコロッとイカれちゃうような英雄は嫌なんで…。もちろん、史実で異性関係に奔放だというキャラクターであればまったくもって気にしませんが。
またサブヒロイン・イリヤスフィール(イリヤ)とバーサーカーに関しては掘り下げがあるのはこの後の√となっているのですが、マスターであるイリヤの異常性を示すにはいい塩梅の出番となっています。敵マスターである慎二を殺した当の本人であるイリヤが、その妹・桜を立ち直らせたのは流石に笑っちゃいましたが。
バーサーカーも理性が吹っ飛んでるというキャラでありながら、一心にイリヤを守ろうという気概を見せてくれたのはよかったです。
他にも少なめの出番ながら男気を魅せてくれたランサー、別√のヒロインでありながらサポートとして沢山活躍した遠坂凛、√ヒロインをモノにしようとする中々難しい立ち位置でありながら、想像以上に妄執で動いているギルガメッシュあたりは良かったです。
悪かったところももちろんあります。それが顕著なのは主人公である衛宮士郎でしょうか。
この√では彼は何かにつけてセイバーを「女の子」の枠に嵌めようとします。彼女を英雄であると認めた上で「女の子」として扱うのはまだしも、やけに「セイバーは女の子だから戦っちゃいけない」というのが先行してしまっているのはまずかったです。
ファンの方曰く恋してることに気がついていないだけ、セイバーに多大な影響を受けている珍しい士郎…という表現らしいのですが、それならばもう少し表現をどうにかしてほしかったです。
同級生・美綴が怪我しても「女らしさを学ぶいい機会になった(意訳)」とかほざいてるので、やっぱりそうは思えませんでした。
そこさえなければ衛宮士郎という存在の「歪み」については許容範囲内の設定ですので、かなり惜しいと思いました。
遠坂凛√(UBW)
固定の2週目であり、王道を突っ走るようなゲームならこれがグランドエンドと言っても過言ではない√です。
基本的に美少女ゲームで採用されるヒロインの問題解決型√ではなく、主人公(衛宮士郎・英雄エミヤ)の問題に寄り添うヒロインという形でヒロインを立てる話でした。
士郎の歪みについてはFate編では普通程度には掘り下げられますが、歪みの深掘りについてはこの√に持ち越しでした。持ち越しただけあってこの√の話題はほとんど√ヒロイン・遠坂凛ではなく衛宮士郎についての話題に終始してます。
これについては私は彼の「歪み」の原因とそこからくる「歪み」そのもの、それを抱えたまま生きたことで行き着いてしまう結末について理解はできます。ただし本質的なところでの共感が一切ないため展開そのものにはノリきれても、その本質についての感想は特にありません。
もちろん士郎の考えに共感する人間が少数派であることは理解しています。これについては凛の言う通り、こんな酷い目にあったら普通はもっと自分のこと考えるよ…というヤツです。英雄エミヤ側も結局は折れてしまっていますし、本当に理想を抱いて溺死してしまうじゃないか…!と思いました。
自分をノベルゲーに引き込んでくれた作品であるDies iraeと比較するのもアレなのですが、Diesの主人公の場合はあくまでも「好んでいた日常を取り戻したい、その日々を繰り返したい」が考えの中核です。ですから、考えを理解した上である程度は共感までできていたんですよね。そこが士郎に無いのが少し痛いポイントです。
サブとしてはキャスター側の話がメインでしょうか。というかこの二つの話と多少のイリヤの掘り下げ以外は案外何もなかったですね。
キャスター側(キャスター、葛木、偽?アサシン)については唯一このルートで掘り下げがあります。キャスターは多分葛木に惚れていたのでしょうが、いかんせん葛木の本質がこちら側には何も伝わってこないのが痛かったです。いや、結局彼には「何もない(何もなかった)」のでしょうけども。キャスターもキャスターでなかなかひねこびている性格で、好みとは言わないまでも面白いキャラでした。
この二人は普通のマスターとサーヴァントの在り方が逆転していたのも描写としては面白かったです。
偽アサシンについては他のサーヴァントよりは扱いが一段落ちている(マスターがいないと言っても過言でないため他キャラとの関係性を描きにくい)のですが、それなりに生きたいように生きているため、見ていてスッキリしました。燕返しできるだけの一般人、怖い。
悪いところ…と言っていいのかはわかりませんが、凛についての情報がかなり少なかったことは少なからず不満ではあります。しかしこれで「凛は活躍していなかった」とするのは酷なのでなんともですが。
美少女ゲームにありがちなヒロインの問題解決式√ではなかったからこそこうなってしまった、という部分もあったかなと思います。
エンディングについてはトゥルーの方がグッドより好きですね。別にセイバーにあの丘に戻って死ねと言っているわけではなく聖杯戦争は終わったよ、という展開的にはトゥルーの方が綺麗だと思ったからです。
間桐桜√(HF)
前2つの√が華々しくサーヴァント同士が火花を散らすFate/stay nightの《表側》とするならこの√はまさに《裏側》、人間のおどろおどろしい部分を全面に押し出した話でした。
人間(マスター)側をメインにしたことによって、サーヴァントのまともな見せ場はOPだけと言っても過言ではないレベルでビックリしました。
サーヴァントについては…序盤で消えてしまったサーヴァントが最後まで一切出てこないのはやっぱり悲しいです。セイバーですら途中で桜の手に落ちてからは最後までそのままですから、雰囲気が寂しい感じになっていました。正直なことを言うと追加サーヴァント扱いである闇落ちしたセイバーや真アサシンが立場と登場時のインパクトの割には印象に残らず、そこら辺も含めて残念でした。もちろん士郎がセイバーにトドメを刺して殺したのはかなり驚愕でしたが。
人間側としては桜の葛藤と聖杯戦争の裏側を描くのがメインでした。聖杯戦争の成り立ち、その変遷はまさに人間(というより魔術師)の闇を感じる内容でした。
ヒロインの桜については本当にどろどろしていて大満足です。ただ、桜の行動により出てしまった人的被害の贖い方についてはノーコメント。ここら辺は自分の中では藪蛇ですので。
また、桜が凛を一方的に恵まれたものとして定義してしまったことの間違いに気づいた瞬間は本当に良かった。これを見るためだけにこの作品をやっていたのかもしれません。
そして「桜√だし、兄である慎二にフィーチャーするのか」と軽く考えていたのですが、彼は途中で桜がおかしくなる引き金を2度引いた時点で役目が終わってしまったのが残念でした。
そのかわり最後の方まで言峰綺礼が掻っ攫っていったっていったのは笑えました。
サブヒロインのイリヤについても少しだけ。
どうやらHF編はイリヤ√要素も多分に入ってるらしく、ちょくちょく敵に回る桜よりずっと味方のイリヤの方が√ヒロインらしい動きをしていたなという印象でした。
エンディングは個人的にはノーマルの方がトゥルーよりは好きです。ただトゥルーのイリヤと桜の笑顔がとてもよかったので甲乙付け難いかなと。
ラストエピソード
Fate編のおさらいと、彼と彼女の顛末には泣かされてしまいました。特に士郎側が生きている間は不幸せであったような書き方は、何が起きたのか想像できなくて怖かったです。
でもセイバーが笑って締めてくれたので読後感は大変よかったです。
その他
・OP
言わずもがなの出来。しかしFate編とUBW編での動画使い回しはあまりよろしくなかったと思います。
・タイガー道場
この作品をゲームで体験する利点はこれの存在にあると思います。大河とイリヤの掛け合いのテンポがよく、本編の鬱屈とした話を吹き飛ばすようなテンションで面白かったです。
総評
アニメやソーシャルゲーム、果ては別作品のキャラをたくさん集めて聖杯戦争を開くようなニ次創作まで、様々なものが今まで続いてこれたことに納得がいくほどの「聖杯戦争」という面白いシステム。
英雄というみんなが知ってる(知らないのが多かったけど)元ネタがあることにより親しみやすくなっているサーヴァントと、それに負けないくらい愉快な人間側のキャラクターたち。
豚骨ラーメンかくやというレベルの(別の言い方をするとくどい)文章に、女は可愛らしく、男はガツンと筋肉質に描くようなどこか懐かしさを感じるような美麗CGの数々。
どれをとっても佳作以上の出来であり、大変満足のいく作品でした。