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nnmaaiさんのこの青空に約束を―の長文感想

ユーザー
nnmaai
ゲーム
この青空に約束を―
ブランド
戯画
得点
98
参照数
902

一言コメント

キャラクタをつぶして物語をとった作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

限りなく完璧に近い作品。
以下、この作品への賛辞を・・・

個別ルートにおいても十分に質の高さを保ち得た本作だが、
やはり本質は寮の仲間との物語であろう。

「友情」というテーマを最後まで描ききることができたのは
やはり構成による力が大きい。
本ジャンルの形式上、物語の終盤はメインの二人が押し出されてしまう。
それは、個別ルートを描く上で避けられない。
しかし本作が‘ふたり’の物語にならなかったのは、
各ルートにおいて別れを描かなかったことに起因する。
本作の一番の山場が「別れ」であることは明白であるが、
各ルートで別れを描くとやはり類似性が生まれてしまう。
さらに、ルートにおいての別れは本質的な別れとは異なる意味をもつ。
それはルートへの移行に伴う物語世界の推移からみて明らかだといえよう。

そしてなにより、『友達との別れ』を主題においた本作が
その効果を最大限に発揮する描き方を考えれば、
ルートでの別れを描くことはプラスには働かない。
さらに友達として別れることで、みんなでの経験を共有できる。
このマクロ視点の採用は友情物語としての地位を動かざるものとした。

最後に、それに続く茜ル-トであるが、あのルートで何を描きたかったのか
を過不足なく描ききった。その終わりは感動などが伴うわけでもなく
まるで糸が切れたように、唐突なものとなった。

茜ルートでは明らかにつぐみ寮の取り壊しをメタファーに航の死を描く
通過儀礼である。なのであそこで描写すべきは死と再生(もしくは死)。
かれがいかにして死を乗り越えるか、という物語なのだ。

物語を終えたところできれいに幕を下ろす潔さ、
それはこの物語の広がりを感じさせるさわやかな終焉だった。

*減点はしなかったが会長の声はなじめなかった。