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nikyokuさんのマブラヴ オルタネイティヴの長文感想

ユーザー
nikyoku
ゲーム
マブラヴ オルタネイティヴ
ブランド
âge(age)
得点
100
参照数
748

一言コメント

戦争を題材とした作品で、一方的な物の見方で捉えていない作品というのはとても珍しく、それだけでも他の作品とは一線を画した内容といえます。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

個人的に、SFなどで戦争を扱った作品にリアリティを全く感じないのは、表面的な部分だけで善悪を語ろうとする作品が多い為であり、また物語性を持たせる為に、明確な区分がされている為です。
明確な区分というのは、戦争を是あるいは強硬的な立場とする人間は悪に、そして否あるいは平和的な感覚を持つ人間は善という様に性格や行動が作られているという事です。
よく勧善懲悪ではない作品は持て囃されますが、そういった作品とて戦争は悪という大前提がある為、戦争を是とする人間は悪として描かれるものです。
しかし実際、戦争を推進しているからといって、その人個人が悪人というわけでもないし、反対に戦争に反対しているからといって、善人というわけではなく、否とする側にも様々な考え方があるように、是とする側とて様々な考え方や物の見方というものがあるわけです。
それゆえに、そもそも単純に善悪で論じられるものではなく、そこを区分として、例えば、こいつは謀略や汚い手段を使うから悪い奴に描こうとかする必要は全くないのです。
それぞれ立場が違う人間が、その場の最善と思われることをしているだけで、たとえ行為は褒められたもので無いにせよ、その人個人あるいは組織が悪であるとは限らないのです。
(ありがちなのは、軍部の暴走とか、軍上層部が暗躍とか)

そうした中でこのマブラヴオルタネイティヴですが、恐らく戦争を扱ったSF的な作品、、、いや、一般の作品をみても長らく無かったのではないかと思うぐらいに、一歩も二歩も優れている作品だと感じました。
物事を一方的な価値観でしか描けない事は、やはり作品作りにとって大きな汚点であるとも思うわけですが、この作品にはそれがありません。

作品においては、様々な価値観を持った人間が登場し、そしてそこには様々な主義や主張が入り乱れています。
そこには政治的な背景だったりもあるし、自らが推す理論完遂の為の行動だったり、まあとにかく、全人類が必ずしも一枚岩ではないのです。
しかし、どの様な主義主張にせよ、そこに善悪的なものは無く今そこにある脅威に対し、それぞれが持ち場職場に真剣に取り組んでいるに他ならないわけです。
このゲームをプレイして一番感嘆を禁じえなかったのは、この様な物語を作る上で作りやすいであろう悪人(手段の是非は別として)を一切登場させていないという点です。
ここが、今までの戦争を扱った物語と大きく違う点であり、まただからこそ嘘くさくないと感じた点でありました。
(許容範囲ですが、シーンを書いたライターが違うのかな?ってちょっと思ったシーンもあるにはあった)

ゲームとしては、アンリミテッド編で失敗した流れから、先の展開を知っているタケルが一度経験した事を武器にもう一度やり直す事になるのですが、言うなれば強くてニューゲーム状態。
こういう展開は、やっぱり面白いです。
絶望的な未来を経験したからこそ、アンリミテッド編とは違った温度差を感じる事もできたし、同じ流れをたどっているのに全然別物なんですよね。
途中途中の話も思わずビックリする展開やら、熱くなる展開、目を背けたくなるような展開など、終始心をかき乱されました。
予約をして発売日にプレイした口なので、例のグロシーンに対して前情報は無いし、パッチも出ていない頃にプレイしたので、ホントビビりましたw
あのシーンは、キツかった(精神的に参るぐらいに)けど、アージュらしくて好きですね。
しかも、本当にキツいのはそのグロシーンじゃなくて、そこからさらにどん底に突き落とされていく流れっていうから恐ろしいですw

間違いなく、このゲームは名作だと思います。
反面、内容が内容だから人も選びそうですが、世間的な評価も比較的高いので、結構人にも薦められる作品かもしれませんね。
若い頃にこの作品をやってた人の中には、自身のアイデンティティ形成に影響を与えられた人もいるんじゃないかな?
……って思うほど、そのぐらい色々と考えさせられる質の高いゲームであると感じました。