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nezumoさんのplanetarian ~ちいさなほしのゆめ~の長文感想

ユーザー
nezumo
ゲーム
planetarian ~ちいさなほしのゆめ~
ブランド
Key
得点
75
参照数
436

一言コメント

短いながらも面白く、簡潔に読み切れる良作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

key作品の中で何故か独断と偏見によりプレイしていなかったが、今更になってこの作品を手に取り、衝撃を感じている
最初から最後まで、どこまでも儚い物語を書き切ったこの短編物語は、ブランドの色からするとあまり想像できない

そもそもkeyというブランドは綺麗な物語が好きであった(尚、kanonは未プレイの模様)
AIRは儚くも美しい命の物語であったし、クラナドやリトバスは奇跡の物語である
智代アフターは少し変わっているが、それでも最後には希望の物語になった
rewriteは何か色々と変わってしまったが、やはり最後には奇跡を演出した
何があろうとも必ず最後に綺麗なテーマを残していく、そういうブランドであるように思える

だが、この物語は、人間が荒廃し、何もないに等しい世界
そんな世界で一体のロボットと出会う話である

この話のストーリーの中で、主人公が確かな希望を貰えたようには思えない
機械的に反応するロボット、壊れたプラネタリウム、直せば最後、電気が落ちてしまう絶望、そして最後にはロボットを失ってしまう絶望
希望は一時的な錯覚に過ぎない 彼はどこまでも、絶望の中に生きてきて、これからも絶望の中に生き続ける

そして、ロボットもまた、最後までロボットであった
途中何度もしつこさにウンザリする場面はあったが、それもロボットがロボットであり続ける様を書き切ったという意味で、高く評価できるポイントになった
ロボットはロボットである だからこそ、命令にも忠実だ
最後のシーン、命令と命令が重なり合い、彼女としてもどちらを取るか迷ったのだろう
戦いの途中まで出てこなかったのもそのせいだと予測する
だが、最後に選んだのは、目の前の男の命令ではなく、長く自分の中に持っている命令「人間を助けること」
何度も言うが、彼女は最後までロボットでしかなかった だからこそ、人間を守るという事は最優先事項であったのだろう
自分には、ここまでロボットというロボットを書き続けてきたライターが、最後の最後で意志を持たせるとは思えない
だからこそのこの解釈であるが、意志をもってしての行動だったと、そういう解釈があっても良いとは思う

全体を通して見えてくるのは、儚く悲しい、救いのない物語だという事
主人公は絶望の中にわずかな希望を見出しこそするものの、結局は絶望である
ロボットもまた、最後まで命令に忠実な存在である そして壊れるという結末を背負う、まさに絶望だ

「どんな時も消えることのない、美しい無窮のきらめき…」
そもそも今作におけるプラネタリウムは、何があっても消えることのないはずの存在であった
それが消えてしまったというのだから、今作は絶望の物語であると言えるだろう

この物語はどうしようもなく絶望的な物語であるから、直接的に見出されるテーマも絶望そのものだ
これを読み取るとしたら、「殺し合いはいけない」だとか、「ロボットは人間になれない」だとか、そういう暗いテーマを想像してしまう
だが、この表向きの暗いテーマがあるからこそ、裏のテーマが見えてくる
そして、自分が思う、絶望の物語から対称的に見出されるテーマは、「今平和であることを大切にしてほしい」ということ
今現在、当たり前の幸せを当たり前のように享受して生きているが、いつ何が起こるかなんて分からないのである
だからこそ、平和でいられる今を大切に生きることを、この作品は伝えたかったのではないだろうか

短いながらも確かな実力が感じられた
keyというブランドは衰退してしまった?が、この作品を含め、この会社が出した作品はこれからも語り継がれていくのだろう
(ABの続報が出ないというだけで、正確には衰退したというわけではなさそうだが もっとも、自分はABのPC版を心待ちにしている)