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nezumoさんのメルキスの長文感想

ユーザー
nezumo
ゲーム
メルキス
ブランド
戯画
得点
75
参照数
958

一言コメント

基本的にはキスシリーズの定番モノだが、つづり√が面白い。愛理の設定は好きなだけにもうちょい上手く生かしてほしかったと思う。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

全体を通してそれほどイベント性があるわけでもなく、シナリオで牽引してくれるわけでもないが、
過程はしっかりしているというか、それほど長くない割には充実した恋愛を見られたように感じた。
個人的に可愛いなと思ったのが楓先輩とつづりちゃん。
同級生組がどうしても平凡に収まってしまっていて、特に愛理に関しては冒頭の設定などもあんまり個別に生かされていないので、
具体的にどうあれば面白かったかなどは明確には答えられないけれども、もうちょいシナリオに組み込んでくれても良かったかもしれない。

以下は主人公とつづりちゃんとの距離感について。


主人公とつづりは先輩と後輩の関係だが、今作ではそのような垣根は殆ど感じられない。
出会って会話を重ねるうちに、お互いにリスペクトしあう関係が構築されていく。
先輩後輩というよりかは良い話し相手という感じで、知らない知識を教え合ったり、価値観の違いを気持ち良く共有したりしていく。

価値観が合わない点についてはお互いに良いことだと認め合っていて、
むしろ価値観が合わないからこそ見えてくる視点や見解を大切にしているように思うし、
違う価値観を参考にしつつ建設的な会話を重ねていくイメージ。
根っからそういうタイプなのか、こういう面でたまたま気が合ったのかは分からないが、
2人とも相手といると漠然と楽しいというのを感じていて、こういう機会を大切な時間として過ごしていく。
こういう意見交換や会話の楽しみ方が妙にオタクみたいなので、そういう意味でも結構共感できる。

ただ、こういう恋愛というよりかは良い友達みたいな関係をずっと続けてきたからこそ、ここから恋愛に踏み込むときに怖くなってしまう。
2人とも相手のことを異性として意識する瞬間はあるかもしれないが、それが友人として会話する以上の楽しさになるかどうか自信はない。
男女がこれだけ近づいていれば勿論そういう機会も増えてはいくけれども、
だからこそ余計に自分のことも相手のことも分からなくなってきてしまうのだと思う。

お互いを思いやる気持ちはありつつも、恋人関係になってお互いの負担を全て背負えるほどの自信があるかと言われると難しい。
確かに話していて楽しいしいつまでもこの関係を続けていたいけれども、恋人として意識すると今までのようには振舞えないかもしれない。
「今の心地いい距離感を崩したくない」というのが根底にあって、つづりは特に頭の良い子なので、こういうことを気にしてしまう。

結果的に2人が見つけたものは、恋人になると見えてくる今までとは違った楽しみ方である。
今までのように自然には振舞えないかもしれない、けれどもその自然じゃない姿もまた新しい相手の一面が見えるみたいな、
価値観の違いを楽しんできた2人だから考えられるような結論を出す。

結局今までの仲の良さがあれば、無理やり付き合ったところで失敗はしないわけで。
こういう過程を経ることなく付き合い始めるカップルの方が本当は危うく見えるけれども、
それでも2人は友人のような距離感が一番心地良いと感じていたから、これから変わっていく自分たちを怖がってしまった。
やってみれば意外とそんなことも杞憂で、むしろ更に上手に距離が縮まるのは当たり前のようだが、
この心配ひとつにしても、いつかは2人で乗り越えなければならないイベントであったことは間違いがない。


他の作品でも似たような距離感は見られるのだが、今回は価値観の違いから来る友情みたいなものを扱っていて面白かった。
年齢や性別をあまり気にすることなく、ただ会話の対象として相手をリスペクトしたり、相手に頼られたりするような関係の中で、
たまたま男女だったから、一緒に遊ぶ機会が多かったからという理由で近づいていき、最後には結ばれる。
自分としては、友人としての関係の次にこういう男女関係が生まれてきたと思っているので、
極端な話をすると、2人が異性であったことがまるで運命かのように感じられた。