自分が体験したわけではないのにどこか懐かしくなってしまうような不思議な魅力を持った作品。シナリオ全般は勿論、島モンファイトも面白かったし、鍵っぽさも感じられて自分としては期待通りの満足度でした。長文は鴎√と作品終盤の展開について。
全体的な印象としては、仲間とワイワイするかけがえのない時間を過ごし、終わってから初めて今までの時間を思い出して、
素晴らしい季節だったなあ…と何故か画面の前の自分まで浸ってしまいたくなるような作品でした。
これだけじゃ何も伝わらないような気もするけれども、個別√にしても全く関係のないテキストにしても、
読んでいて楽しい、もっとこういう時間を過ごしたいと思わせてくれるような魔力があったように感じた。
ここからは自分が特に好きだった鴎√とグランド√諸々について触れていきます。
鴎√
主人公が一番本気で「何かをしたい!」と思って行動できたのがこの個別だったんじゃないかと思う。
他の個別では、助けてあげたい、今やらないと自分が後悔すると強く思った対象(ヒロイン)が一応目の前にいるのにも関わらず、
鴎の個別だけは鴎がそこにいるかどうかが不確定で、自分がどうしたいかが行動のモチベーションになっている部分が大きい。
幼い頃の夢であの本のような出来事を実際にしてみたい!と思っていても、自分の体調の都合で叶わなかった鴎。
そんな存在が幽霊のようなものとして目の前に現れたのは、この島がちょっと特殊という面もあり、鴎の母親が少し手を付けた土地であるからという面もある。
死んでしまったはずの人がこういう形で現れるのは自分は「やり残したことがあるから」だと思っていて、
鴎√の終盤ではそのやり残したことを達成して消えかかってしまう(消えてしまう?)のはそういうことだと思う。
実際他の個別では消えていないし(これは蒼や紬といった他のヒロインも同じことではある)、
主人公が介入することでヒロインの物語に色が生まれて、思い返すと後悔のないような夏休みが生まれるということでもある。
恋愛してみたい、というのは心のどこかにはあっただろうし、勿論昔手紙をくれた人とこの本の物語みたいなことをしてみたい、というのもあった。
鴎は途中までそのことを忘れていたけれど、主人公がそれを思い出させてくれて。
この時点で真の意味でのハッピーエンドに到達できないことは確定していようとも、鴎は自分のやりたいことを最後に成し遂げられただろうし、
主人公も漠然としていた人生に色が生まれて、本気で何かをしてみたいと思い立った瞬間だったように見える。
この個別√が本当に綺麗だと思ったのは、主人公は自分と鴎のために仲間を集めて本気で物語の中身を現実に落とし込もうとして、
勿論それを仲間たちが助けてくれて。そういうやりとりを鴎が見ていて、時々非現実的な鴎の登場がこの展開に花を添えてくれているというか。
まさに自分が夢に見た夏休みを、たまに降ってくる物語特有の展開の綺麗さが彩ってくれていて、
上手く言葉にできないけど、そういう漠然とした日常と非日常が上手く混ざり合ったような綺麗さが凄く自分の心に響いてしまった。
エピローグに関しては「気まぐれに現れては主人公をからかいにきている説」を推しておきたい。あの1回限りなのかもしれないけど。
あの後に実体を持って島に帰ってきたという展開だと、結局未練が残っているように見えてしまうし、
大事なタイミングというよりかは、ちょっとした日常の一場面で「会いにきたよ~」くらいの軽い感覚で姿を現すくらいが、
まるでいつも主人公のことを見守っていて、好きなタイミングでからかいに来てくれるような感じがして、なんとなくちょうどいいかなと思った。
七つの海を超えてってことは、もしかしなくともグランドのしろはやうみのように意識の世界ではちゃんと生きていますよ、ってことなんだろうし。
しろは√、アルカとポケッツについて
しろは個別:主人公がしろはと結ばれるまでを描く
アルカ:未来から夏の思い出を求めてやってきたうみ(主人公としろはの子供)と最高の夏を過ごすまでを描く
ポケッツ:主人公としろはに最高の思い出を貰ったうみが、しろはが直面する未来を止めるために動く
簡単に書くと多分こんな感じですかね。
それで、誰が何を思って行動しているかという部分をまとめると、
主人公:好きになったしろはのために行動した結果、うみを投げやりに扱うようになってしまった(うみの記憶?)
→アルカでは最高の夏を過ごせたので、うみは心の底から満足する
しろは:母親を起点にして力を得てしまう。うみを産み落としてから死んでしまい、あの夏に意識を囚われるようになる。
→1週目は個別√、2週目以降はアルカっぽい うみを救うために頑張っていたつもりが、最高の記憶を貰ったうみに恩返しされてしまった。
うみ:母親に会いたい気持ちで夏を繰り返している。最高の思い出を貰った後は七海となってしろはを導く。
→主人公としろはから貰った思い出の恩返しにとしろはを助ける。
何が最初なのかは分からないけれども、結局しろはがうみを救って、救われたうみが七海となってしろはを救うみたいな展開ですかね。
ただ、うみの存在は消えてしまっても、またうみが生まれるかもしれないという可能性の未来はエピローグで匂わされている。
もうここが本当にkeyっぽいというか、記憶はないのによく分からないものに引き寄せられて出会ってしまう運命力というか。
なんか最近大ヒットした映画でも似たような展開があった気がするけれども、こういう些細な可能性を残されると感動してしまう。
本編で辿ってきたような夏はもうなくなってしまった。
しかしこれから来る夏はまた本編のように最高の時間か、もしくはそれ以上の未来が待っているかもしれない。
七海(うみ)は消えてしまったけれど、また主人公がしろはと結ばれて、そのような存在が生まれてくるかもしれない。
でもその先はやっぱり描かないで、読み手の可能性に委ねてしまう。
この何とも言えない描写不足感には、先の物語をちょっとだけ妄想してしまいたくなるような余韻が感じられた。
完全に浸り系オタクになってしまいましたね……。素晴らしい作品でした。