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nezumoさんの働くオトナの恋愛事情の長文感想

ユーザー
nezumo
ゲーム
働くオトナの恋愛事情
ブランド
あかべぇそふとすりぃ
得点
95
参照数
4655

一言コメント

良い意味でかなり独特な作品。今までにありそうでなかったものが詰まっているし、なにしろ作品が作り出す雰囲気が良い。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

良く分からないけれど、プレイ中ずっとふわふわしたような感覚がしていたし、終わった後もそんな気分だった。
端的に言うなら、雰囲気で包みこんでくれる作品であり、それに加えて題材を生かした多様な独特さを持ち合わせている。
「ありそうでなかった」という言葉が良く似合うのではないか。良くも悪くも新鮮さを感じることができた。


テキスト

中島大河先生のテキストについては正直前作「できない私が、くり返す」の時はあまり好きではなかった。
滑り芸にしか見えなかったり、キャラクターをあんまり生かせていなかったりなど不満点は多かったし、雰囲気にも合っていなかったように思う。

だが今作に関しては、ライターさんが成長したのか雰囲気に合っているのかは分からないが、非常に読みやすく、読んでいて気持ちが良い。
バーでの日常会話にしても、冗談の1つ1つが会話のテンポに繋がっているし、お互いの信頼関係を表現するスパイスになっている。
おそらく大人に求めるような理想的な会話がそこにあるのだろうが、それを意識せずとも読んでいて面白いので、飽きるということはなかった。
そういう意味では個人的には前作の失敗は乗り越えられたと思っているし、大きく成長したのではないか。この題材作りは成功である。


音楽

サウンドの西坂さんは今回も素晴らしい音楽を作ってくれた。
彼の魅力と言えば、万能でありながら手を抜かないところ。
彼の作る音楽に特徴的な個性があるわけではない。
しかしそれが個性であり、できない私がくり返すとはまた違った、ジャズ風の雰囲気のある音楽を今作では聞くことができる。
特に作中で沙夜子の場面で使われる「純情サディスティック」なんかは、今作の雰囲気とは真逆でありながら、ギターの音が良く聞いた非常にかっこいい音楽に仕上がっている。
初回特典のサントラで聞くべきものがあるとしたらこのあたりだろうか。2分少々のボーカルなしの曲だが聞くだけの価値はあると思う。

主題歌の「Secret Liqueur」が素晴らしい。しかしフルがない。
正直サントラとはいえミニサントラは恩恵が薄い。
自分はBGMは聞くタイプなのでともかく、聞かない人には更に恩恵が薄いだろうし、この先のフルの見通しが立っていないのも含めてとてもつらい。
あかべぇの中の人に聞いた話によれば、なんでもシモツキンの次のアルバムまでフルはお預けの可能性が濃厚だとか。早く聞きたいです。


グラフィック

塗りが変わったのか、原画が変わったのか、絵が少し変わったように思える。
しかし、その変わったということも含めて今作の魅力になっている。要するにレパートリーが増えたのである。
メインヒロイン5人+エロシーンのみのモブキャラクター15人のビジュアルの書き分けには成功しているし、表情も凄く良い。
今作はCGの殆どがエロシーンであるが、その1つ1つ全く手を抜いていないように思えた。
また後でも書こうと思うが、唾液の垂れ方にしろ、液体の描写にしろ、細かいところが丁寧だなと感じた。


エロシーン

最高。
メインヒロイン5人×8回 他14人×1回 他3P×1回
構図の使いまわしなどは特に見当たらず、特にサブのエロシーンはそれぞれの職業などの個性を生かしたシーンに仕上がっている。
メインヒロインに関してはどう考えても四六時中えっちしてるが、これまた構図はどれも新鮮で良い。
コスプレ(多数)、おしっこ、野外など、和姦という和姦のレパートリーをとにかく詰め込んだようなイメージが正しいか。
(1つだけ首絞めセックスがあった。これをどう分類していいのかは分からないが、どうやらサブの女の側の性癖らしいので、一応は和姦?)
ただ1回きりのサブについては勿体ないなと感じることも多かった。特に好みの体系の子なんかは、もっとレパートリーを見てみたいななんていうことを考えたりもしたが、それも叶わぬ夢。
3Pはサブで1度だけ。上と下でヒロインを抱き合わせて主人公が後ろから挿入するという形だが、事後の精液の垂れ方などは3P独特の良さが出ていたし、これもこれで良かった。

CGについては先程も書いたが、液体の描写が素晴らしい。
喘いでいる時の唾液の垂れ方だとか、精液を飲み込んで口を開けた時の描写だとか、何が言いたいかと言うと本当に凄い。

余談だが、サブキャラには一切の立ち絵がなく、エロシーンでしか顔を見ることができない。
これについてはどちらかというとライターの意図なのかなと思った。
恋愛などが一切絡まない、体だけの関係としての一度きりのえっち。
ユーザーがヒロインの表情を見られるのはえっちの最中だけで、終わってしまえばまたただの他人と戻る。
こうすることで一度きりの体の関係であるということを自覚させてくる。体を重ねるだけのサブキャラには、一切の心の繋がりはないのである。

お気に入りのエロシーンは家出少女との正常位、ともえちゃんとの制服コスプレえっち、フォトグラファーちゃんとの写真えっちです。


シナリオ

必ずしも、「告白→えっち」という流れを辿らない、あまり見られない恋のアプローチが今作の最大の魅力だ。
これについては順番に書いていくが、これについては本当に考えるだけの余地があるし、キャラクターごとに考え方が違ったりしていて、本当に面白い。
だから√途中でもサブキャラとのえっちは普通に挿入される。正式なお付き合いをしていないからこそ、体から始まった恋愛だからこそ成せる業である。

また、メインキャラクターは基本的に、今の自分に納得がいっていないし、変わりたいと思っている。これもまた今作の面白さである。
要するにこの作品は自分探しの要素も兼ねているのではないか。
そういうものも色々行動することを通して磨かれていくし、徐々に変わっていく様を眺めるのはとても気持ちが良い。

ちなみに、企画したのは中島さんだが、この作品の始まりは秋空もみぢさんがエロシーンを描きたいと言い出したかららしい。
それをシナリオに生かしてしまう中島さんも凄いと思うし、多種多様のキャラのエロシーンを描き分けてしまうもみぢさんも凄いと純粋に感じた。
このコンビ+西坂さんには今後も突き抜けた作品を出してほしいし、期待が高まるばかりである。


アスカ√

伏線回収が大々的に行われるのはそれなりには面白かったが、その伏線が個別に入って露骨に出てくるのでこれ自体は別に特筆する必要もないと感じた。
ただ、何故アスカという名前でフルネームを名乗らないのかという部分に答えが出るし、必要なものと言えば必要か。

この√の本当の魅力は、アスカが体を重ねることを通して大人を目指した、という部分にあると思う。
付き合うという描写が正式になされるのは√の殆ど最後、つまりそれまでは単なる体の関係であり、心こそ許し合っていても付き合ってはいなかった。
むしろこの体を重ねるという行為がなければこの2人が付き合うというのも存在しえなかったのであり、そこに体を重ねることの重要性を見出せる。

思い出補正があるとはいえ年上の男に処女を捧げるのは相当な勇気が必要だと思うし、それを簡単に実行に移せるとも思えない。
ただ、アスカは間違いなく変わりたかったのである。この先1歩踏み出すことで何かが変わるかもしれないとそう思えたから体を許すのである。
こういう所に、まずは行動から変えていくという今作独特の恋のアプローチがある。
「付き合い始めたからえっちをする」のではなく、「自分の気持ちを確認するために、自分を変えるためにえっちをする」ということ。
そしてそういう体の付き合いを恋心へと延長させていくのだ。これが恋愛の正解というわけではないが、要するにこういう珍しいアプローチが今作の魅力なのである。
そういう中でアスカは主人公を待つという決意を固めるし、心も大人になっていく。主人公と体を重ねる中で変わっていくものは確かに存在する。

エピローグの会話は、アスカが大人というものを演出しようと頑張っている感じがして好き。
ご都合主義的ではあるけれども綺麗な締め方だ。
学生だったアスカが身も大人になるということも含めて、やはりアスカが正史なのかもしれない。


美優√

美優はどちらかというと、自分で行動が出来ないタイプである。
だからこそ自分から行動するということを通して自分を積極的に変えていくし、体を重ねることを通してそういうことに対する勇気や安心感を学んでいく。

嘘がつけないし自分から行動することができないけれども、常に心の中ではそれをしたいと考えている。
そこでそういう自分の感情に決着をつけるために主人公を酔わせてラブホテルに連れ込む。
勿論そこで主人公に自分を抱かせるのだが、これが初えっちだという所に決意の固さを感じさせる。

えっちを重ねる中で、ついに父親に反抗したり、自分の意志で悪いことが出来るようになる。
それが親に縛られて生きてきた子供としての美優から、縛られずに自分の意志で行動できるようになった大人としての美優への成長である。
自分の性事情を父親に暴露するシーンは、これは上手いなと素直に感じた。
一番大切だと思うことを堂々と暴露することで、自分の意志の固さを表現する。
おそらくこれ以上に父親に聞く言葉はなかっただろうし、美優の心が体を重ねることを通して成長したからこそ言えた言葉だと思うからだ。

ちなみに、会社でえっちするシーンでタイムカードをちゃんと切ってるのかどうか気になった。
どう見てもそのままえっちに移行してたが、それじゃあえっちに給料が発生してしまうのでやめてほしいですね。
こういう細かいところは至極どうでもいいけれども。


紗夜子√

紗夜子の問題点は、自分のやりたいことをやり通す決意が出来ずに、結局やらなければならないことから逃げているということ。
果たして自分が本当にやりたいのかどうか、その意志を貫き通したいのか、それが出来ないならば単に仕事から逃げているというだけになる。
勿論全力で連れ戻しに来ている事務所はめちゃくちゃしつこいし意味が分からないが、それ以上に紗夜子がオドオドしていたのではそちらの方が意味がない。

初えっちに関しては、なんとなく許したという印象。
それといった意志が決まっているわけではないが、この人なら悪くないみたいな漠然とした感情。
そういう感情の中で実際に体を重ねて既成事実を作っていく。勿論その中で自分の心も満たされていくし、自然と決意も沸いてくる。
体を重ねることで恋が芽生えて、恋が芽生えることで自分に自信がついて、自分のやりたいことをやり通したいと考える。
こういう独特のテーマ表現とヒロインの成長の描写が個性的で素晴らしい。

そういう意味では、自分の気持ちをはっきり言えずに逃げ回る子供としての紗夜子から、自分を全力で表現できる大人としての紗夜子に成長している。
まずは行動から、というのは他の√にも言える話だが、要するにそういうことだ。


優里香√

優里香の場合は、当たり前だと思っていた特技の重要度に気づくと共に、褒められるということの嬉しさを知ることである。
本人は何気ないと思っているかもしれないし、自分に魅力などないと思ってるのかもしれない。
そういう考え方を主人公との会話の中で徐々に変えていき、自分への自信と心の拠り所を手に入れる。

今までの流れで初えっちについて言及すると、優里香の場合はどちらかというと、分からないながらも嫌じゃないから許した、という受け身の印象を受ける。
だが実際に交わってみると凄く気持ちが良くて、自分の気持ちが揺れ動くのに気づかされる。
自分自身が魅力のない人間だと思っていただけに、全力でぶつかってきてくれる主人公が凄く好意的に見えるし、体だけでなく心も満たされていく。
そういう過程を通して優里香は承認されるということを覚えていくのである。
これは実際、どう口説いても変えようがないのでどうしようもないし、えっちをすることを通してでしか伝わらなかったものだろう。

エピローグの手を握り合うシーンはかなりお気に入りだし、ひとつだけの願いごとの内容が「もっと褒めてほしい」だったことも凄く好感が持てる。
優里香が自分を見つけられたということがはっきりと分かるシーンだし、主人公と通じ合っているということも読み取れる。
共通√の時点で既に可愛い子だなとは感じていたが、ますます可愛い子になっていたし、そういう意味でも満足できる√だった。


ともえ√

友達から恋人へ、という時間の積み重ねを感じられる話。
共通√から既にそうだが、お互いに打ち解けあって切っても切れない友達のような関係を楽しんでいる。
しかし何事も無ければやはりその先に進展することはなくて、恋心みたいなものは一切抱いていない。

酒の力も勿論あるが、それ以上にやはりともえの家に行った時点でで行動に移したということが重要だ。
長い付き合いだからえっちをすることを許してもいい、けど実際に行為に及んでしまったら、前みたいな目では主人公を見つめられなくなる。
えっちをすることで初めて異性としてお互いに認識し合い、考えて考え抜いてお互いに答えを出す。
体の繋がりが心の繋がりへと変わっていく。友達としての長い付き合いが、恋人としての時間へと昇華されていく。

仕事については、自分と方向性が合わない事務所の仕事をこなしつつも、やはり自分の夢を叶えるために自立していく。
社会に飲まれるか自分の道を進むか、という選択だが、その点夢を叶えたいという意志が後半は特に伝わってくる。
働き始めてから今に至るまでの心情の変化は見ていて面白かった。
現実を見た上で改めて学生時代の夢に回帰するというのも、やりたいことをするという決意をしたともえらしい選択だった。
てかともえちゃんめちゃくちゃ可愛くないですか…?


まとめ

ヒロインと恋愛する作品というのは、告白して気持ちを確認してからえっちする、という、心の繋がりから始まる場合が殆どである。
だが今作の場合は、基本的に体を重ねてから、心の認識がついてくるという形が殆どだ。
(決してここで言う普通の恋愛を否定したいわけではなく、むしろ異端なのは今作の方なのだが、その独自性を肯定したいという意味で。)

こういったえっちを主体とした心の変化が今作なりの「オトナ」の表現なのだと思う。
そういう体からのアプローチ、及びちょっとした行動から始めることによって、主人公もヒロインも少しずつ変わっていく。
今を変えたいのは皆同じだし、変わるために何か行動を起こしたいのも同じ。
日常の中で起こる一度きりのえっちという非日常の数々を通して主人公は成長するし、体を重ねる中でヒロインたちも成長していく。
行動することを通してあるべき自分の姿を探す。えっちシーン1つ1つに意味があり、それぞれが色々な気持ちを抱きながら体を重ねている。
決して体の関係をないがしろにしているわけではなく、皆思い切って行動しているのだ。何度も言うが、行動することで心が変わるのである。

18禁的な要素を生かしながら、ライターの思うオトナというテーマに沿って恋愛を表現する。
一概に恋愛と言ってもキャラクターそれぞれの恋愛観があり、一概にえっちと言ってもサブキャラそれぞれにさえ自分の中に持っている独特の価値観がある。
お互いにそれを踏みにじったりはしないし、自分の価値観のもとでえっちを愉しんだり、恋愛に繋げていったりする。
作風としては非常に珍しいし、中々見られるものではないと同時に、一般的に見られる恋愛の形とは少し違うのかなとも考えたりする。

しかし作品の表現として18禁を上手く利用しているのはとてつもない魅力であるし、数々のえっちシーンがなくてはこの作品がそもそも成り立たないというのも事実だ。
えっちからの恋愛へのアプローチ、えっちを通して変わっていく心など、見どころは十分である。
独特の世界観の中で独特の雰囲気を楽しめるのがこの作品であり、ユニークで面白いテーマだなと素直に感じるし、こういう作品は少なくとも自分は大好きだ。

実際にこんなに都合よく事が運ぶことはほぼあり得ないし、理想郷過ぎる感じは否めないが、そこはいかにもフィクションらしくて逆に潔く割り切れる気がする。
一度は送ってみたいと思えるようなオトナの人生と多種多様な価値観との出会いはこれはこれで自分探しの形であり、プレイしていて考えさせられることも多いからだ。
受け身でプレイして度重なるえっちシーンでひたすらに射精するのもまた良いが、自分としてはこの作品をプレイして何か得るものを探してほしいなとも思う。
そういうポテンシャルがこの作品の独自性の中に詰まっていると思うし、多くの登場人物が出てくることも合わせて、この作品に対する考え方にも多様な可能性を感じてしまうのである。