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nezumoさんのヒマワリと恋の記憶の長文感想

ユーザー
nezumo
ゲーム
ヒマワリと恋の記憶
ブランド
MORE
得点
95
参照数
3539

一言コメント

非常にリアルな青春物語。感情移入をし始めると、自然と泣けてしまう展開もちらほら。結局は茜だった、なんて言いたくはないのだが、認めざるを得ない。亜依推しで始めたこの作品も、今ではすっかり茜推しでございます。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

最初から盛大にネタバレしてしまうことになるのだが、この感想では、記憶の世界の茜√まで=現実の世界 と仮定してお送りしたい
この辺の設定が詳しく言及されてないなったのは少し痛い 明確にしてほしかったというのが最初の不満だ


さて、恋愛同盟とはどういうものか
この恋愛同盟という題材自体は多くの作品で見られているらしい
と言うのも、自分自身、この題材を目にしたのが、とらドラだけだからだ まあ有名な作品であるし、今作も似たような恋愛同盟を展開していた

同盟を結ぶ動機としては、「近づき難い憧れの相手に近づきやすくする」というものがある
大体は男女で協定を結ぶだろう その方がそれぞれの恋の相手にもう片方が近づきやすく、同盟としての役割を遂行しやすくなるからである
その同盟を遂行していく中で、それぞれが意中の相手との接触にいちいち満足し、青春を繰り広げていく

しかし、本題はそんなことではない
恋愛同盟を結ぶと言うことは、その結んだ相手との会話時間は必然的にかなり増える
更に、同盟を結んだ相手の恋愛事情を叶えるために、相手のことを無意識に知ろうとするし、時間が経つにつれて、だんだん距離も縮まっていく
そして、気づくタイミングはまちまちだが、「本物の恋」の感情を知るのである
その相手は、勿論最初に同盟を結んだ時に指定していた相手ではなく、同盟を結んだ相手そのものなのだ

恋愛同盟を結んだ相手と十中八九結ばれるのは、こういうことも影響しているのだと思う
やはり本当に恋をするということは、相手のことをよく知らなければならないし、一緒にいて安心できる相手でなければならない
だったら、それこそ毎日のように会う男女の方が、自分が勝手に好きなんだと認識している相手と結ばれるより、よっぽど確率は高い

自分のこの感情が、「憧れ」なのか「本物の恋」なのか、という悩みは、簡単には解決しない
告白されて初めて、恋だと本気で認識して付き合い始めるようなカップルもいれば、憧れを本物の恋に変えてしまうカップルもいる

今作に限って言うならば、最初に指定した恋の相手は、「憧れ」に過ぎない
だが、それを最初からそうだと知っていたわけではないし、それを知るために恋愛同盟は結ばれた
だから今作における恋愛同盟というのは、「憧れ」と決別し、「本物の恋」を手に入れるものなのである


まあこんな話をしたところで今作とはあまり繋がってこないので、本題に入ろう
自分が一番気になったのは、この選択肢である

・同盟を続ける
・同盟を続けない

本数をこなしているエロゲーマー的には、おそらくただの分岐にしか見えないような選択肢
しかし、自分はこの選択肢には非常に大きな意味があると解釈する

まず、この選択肢で、「同盟を続けない」を選んでしまうと、それだけで茜√にも亜依√にも行けない
これはシステム上の問題でもあるが、同時に、これ以上茜や亜依との距離が縮まらなくなる、いやむしろ遠くなることをも表している
同盟を解消するだけで茜√にも亜依√にも行けない、というのは、エロゲー的には少々無理がある話だ
と言うのも、別に同盟外で会っても構わないし、亜依に至っては自分から積極的にいけば分岐する可能性は十分にある

では、何故ここでその2つの分岐を殺してしまったのかという問題について
これが、恋愛同盟というものの結束の強さと、「憧れ」だと割り切って初恋を切り捨ててしまう主人公の潔さに表れている
この選択肢を選んだ主人公が思うのは、「もう亜依への恋心は憧れだと分かったから、茜と会う必要も無いし、これからはただの友達に戻ろう」というもの
これが現実世界での出来事なら、同盟を解消したところで、分岐の可能性がゼロになることはあり得ない
しかしこの主人公はこの時点で亜依を選ぶことも、茜と会うことも諦めてしまった
未来は見えるものじゃないから、たとえあと少しでくっつくだろうと読み手側が分かっていても、当人たちには分かりそうにもないものだ
まして恋愛が分からない主人公、尚更その傾向は強いはずである

ここで、2つ目の疑問が浮かび上がってくる
「自分なら同盟をキープしたままカナや汐里との恋愛も目指すだろう。でもこの作品では、同盟を続けるだけでその2つの選択肢は消えてしまう。何故なのか」

ここで自分が確信したのは、この選択肢が主人公の心の内を2つに分ける、かなり繊細なものだということ
そして、この選択肢次第でヒロインズ(主に茜と亜依)の気持ちが、一気に揺れる可能性があるということ

同盟を続けないの選択肢の方でも話したように、現実的に考えれば、2人をキープしたまま同時に狙うことは可能だ
だが、それも現実的に考えればの可能性の話で、この作品の登場人物は、それを許さない
同盟を続けることを選択するだけで、亜依と茜の恋のゲージがグンと上がる
加えて亜依と茜と一緒にいるケースが増え、主人公もますます2人のことが好きになる
同時に、カナと汐里と一緒にいる時間が少なくなる 実に露骨な切り離し方であると思う

恋愛同盟を続けるか続けないか、それだけの選択なのに、主人公とヒロインズの運命は大きく変わる
それだけこの選択肢が、辛うじて平衡を保っている程度で、選び方次第でどちらにでも大きく揺れる可能性があると言うことが分かる

まあ、実は同盟を続けない選択肢で行けるヒロインはおまけみたいなもので、結局今作のメインは同盟を続ける側に比重が置かれているのだが
このバランスの悪さも、今作の問題点であると言える

メインヒロインを生かす姿勢というのは、大きく分けて2種類あると思う
1つ目は、メインヒロインを輝かせるために、サブヒロイン(攻略可能)で出来るだけ伏線なりを張って、メインルートを精一杯楽しませる姿勢
2つ目は、メインヒロインのことばかり考えるために、他のヒロインが取ってつけたような展開になってしまうタイプ

この作品の場合は、1つ目と2つ目が混ざったような非常に中途半端な姿勢が見受けられた
サブヒロインで世界設定の伏線は確かに張ったものの、メインである茜√とはとりわけ関係があるわけでもない
世界設定という意味では伏線を張ってトゥルーストーリーを楽しませてはいるのだけれど、それが茜というヒロインに直接関わってくるわけではない
確かに最初からすべてのヒロインに見せ場を作り、茜に比重を置きつつも他のヒロインもきっちり魅せる姿勢は感じられるのだが、どうもそれが空回りしていると感じてならなかった
悪いと言っているわけではないが、もう少し平等にしてほしかった感じはある
切り捨てると決めたわけでもなく、切り捨てない訳でも無い、この中途半端な姿勢が、どうもモヤモヤするという、非常に個人的な感情ではあるのだが


ここからは本編の感想を書いていきたいと思うが、あくまでもメインは茜だと思っているので、それを中心に書いていく
他のヒロインは分離して後々書くことにする

プレイ順は 汐里→カナ→亜依→茜→true

好きな順は true=茜>亜依>汐里>カナ


亜依√


結論から言うと、亜依√なのに茜√だった
上手く言葉に出来ないのがもどかしいのだが、要するに、亜依「だけ」を見ることができなかった
この√のヒロインは亜依のはずなのに、どうしても茜に比重が置かれている気がしてならなかった
自分がこの作品をプレイした動機も亜依だった まあ、CVがあじ秋刀魚だったという、ただそれだけの非常にどうでもいい動機なのだが

亜依の恋愛というものは、非常に複雑なものだと思う
茜の父親の会社を倒産させてしまって(実際にそうだと決まってわけじゃないが)、その上茜の好きな人まで奪ってしまうのか?
おまけに自分は家が嫌い そんな自分に茜の好きな人を奪う権利があるのか?

ただ、この作品はこの亜依の悩みについて、1つの解答を明示してくれた
それが、「自分が選んだ選択に真摯に向き合うこと」である

結局主人公側も、この√においては心から亜依が好きだ
この気持ちが茜に揺れることは絶対にあり得ないし、たとえ振られ続けたままだったとしても、主人公は一生亜依を愛し続けただろう
そのくらい気持ちは強固だった だからこそ譲れなかったのだ

対する亜依も、自分の本当の気持ちに向き合うことが、茜への精一杯の感謝の気持ちの表し方だと気づかされる
そして2人は「憧れ」を「本物の恋」へと昇華して、恋愛することに成功するのだ

駆け落ちの展開は特に感じるものは無かった
ただ言うとすれば、少しだけ、亜依の弱さというものが垣間見えた一面だったと思う
家族と真摯に向き合うことすらできない人に、恋人と真摯に向き合うことが出来るだろうかという問題だ
家というものは一生ついて回る だからこそ受け入れて、大切にする必要がある

さて、本題の茜についてだ

正直、この√において茜を本気で好きになることができなかった主人公と茜がくっついたところで、バッドエンドを迎える未来しか見えない
運命というものは残酷で、自分を見てくれないと分かってしまえば、その時点で諦めるしかないのである

何故亜依√なのに茜の失恋まで細かく大々的に描くのか
それはやはり、この亜依√もメインの茜√への材料でしかないという書き手の意図を感じさせる
ここまでの展開を意図的に作り出しているのであれば、流石だなあと言わざるを得ない
もしかしたら、自分が書き手の意図に乗せられているだけなのかもしれない
同時に、丁寧に描かれた茜の失恋に同情(感情移入)してしまうことによって、亜依のことを真摯に見られなくなる
客観的に眺めている分には問題ないのだが、感情移入が好きな自分は、どうもこの傾向が顕著だった
亜依には申し訳ないが、最後まで茜の姿がチラついてしまったし、最後のステージなんか、茜のことを思うと涙が出てしまう

結局、自分にはこの亜依√も、確かに亜依について色々と魅せられてはいるけれども、茜√への繋ぎに過ぎないとしか思えない
詳しく書けるわけではないが、そのくらい失恋のシーンが印象的で、茜の涙が印象的だった
とらドラで、みのりんの涙が大河と竜児が結ばれるシーンよりも心に響いたように、自分にはこういうものの方が心に響くのかもしれない

それにしてもこのfirst loveという曲、本当に茜の感情が上手く乗っている
と言ってもこの時点ではすげーいい曲だな、くらいにしか聞いていなくて、本当は別れの曲だと知ったのは、trueが終わった後だったわけだが
サントラも買おうと思う そのくらい好きになった


茜√


気が付いたら2人は愛し合っていた これは、先述したように恋愛同盟を結んだ時から確約されていたようなものだ
「分からないけど好き」というのは本当に素直な感情である
なんとなく一緒にいるのが楽しい、なんだかんだで私のことをよく見てくれる、そういう相手こそ、恋愛には相応しい

前半部分は、とりあえず彼女として女子力をアピールしたがる故に空回りする茜が可愛かった
まあ、そんなことしなくても可愛いよとささやいてあげたいものだが、それは紛れもない優の仕事だろう これだから恋愛は…

そして2人は一緒に夢を見つけるために、青春時代を謳歌する
それは2人だけにしか出来ないかけがえのない青春で、一生に一度の青春
何があっても2人なら助け合ってやっていけるだろう、そう信じていた青春の1ページだ


纏めてしまうなら、記憶の中で偶然再現された、茜と送る現実の高校生活
とは言ってもこの√、とりわけ目立った山場があるわけでもないし、沈むわけでもない

しかし、何故か非常に心に響くのである
2人が2人でしかいられない、そして、2人はずっと支え合って生きて行ってほしい、心からそう思えてしまう

この作品をプレイした人なら誰しも、階段で2人で作戦会議をすることを始めてから、この√の最後にあるステージを綺麗に成功させるまで、ずっと茜を見てきた
そして、同時にそれを支える主人公の姿も見てきたはずだ 勿論、主人公が茜に支えられている部分もある

この2人の日常を見ているだけで何故か心が洗われていく
茜は確かに可愛いし、確かに普通の恋人としての日常を送っているだけなのに、それが妙にリアルで、現実にありがちだなあと思ってしまう
この作品を評価する上で、この妙にリアルな青春を描くテキスト力は外せない
別に2次元だからと言って特別なことをする必要はない ただ現実でありそうな何気ない日常を、何気なく描く それがさりげなく出来ているのである

起伏がないのにどこまでも見ていられるテキストというのは珍しい
これも茜が好きだから見ているだけで楽しめるのはそんなもんだろ、と言われてしまえばそれまでなのだが、やはり今回は何かが違う気がする
くり返しになるが、2人で支え合い、共に東京に行くことを約束し、共に人生を歩むことを決意する
そんなどこにでもありそうなカップルの姿が、それこそエロゲらしくないカップルの姿が、たまらなく気に入った


余談になるが、茜と公園で話し合いをしている最中に、前作「あやめの町とお姫様」のBGMであるflowerが流れたのは、ファンとしては本当に鳥肌物だった
あの曲は前作のBGMの中でも一番好きなもので、ゲーム自体はアンインストールしてしまったのだが、今でも時々聞くことがある
おそらくファンサービスも兼ねたBGM選びなのだろう このファンを大切にしつつ展開に取り入れていく姿勢は評価したい
MOREの社長が音楽も作っている、ということもあってのことなのだろうか 次回作があるとしたら、こちら方面にも期待しておこう


True Story


亜依が明確に茜の引き立て役だという仮説に確信が持てる話だった
亜依があの曲を弾き続ける理由も、曲名を知らないと言い続ける理由も、茜とくっつけようとする理由も、全ての謎が解ける
やはり亜依は優と茜をくっつけるための天使に過ぎなかったのだと思わされる

それと同時に、確信が持ててしまうと、やはり悲しくもなるものだ
この時点では既に茜に浮気して、この作品のメインは茜だ!茜以外好きになれん!とか普通に思っていたので、ダメージは少なかったが
亜依は出てくる作品を間違えたなあと思わずにはいられない メインヒロインで、それなりに焦点を当てられるのに、どこまでも不憫なヒロインである

しかし、その亜依が作ってくれたと言っても過言ではないこの優と茜の物語は、最高の物語だった
優が亜依に憧れの気持ちを抱いたことから始まった恋愛協定も、亜依を憧れだったと割り切ってから始まった恋愛も、全て亜依の存在なしには無しえないものだった
そのくらい、亜依という存在は、この作品において「脇役」として、茜√を引き立ててくれていたのである

それにしても途中、記憶を思い出した時に展開される回想は、これもまた妙にリアルで、涙なしには見ることができなかった
客観的に見れば唐突な回想ではあるものの、自分としては展開がそこそこ読めていたので、来る前にそれなりに構えることができた
敢えてキッチリ塗らず、回想らしさを出すための薄い絵にすることで、更にそれが思い出であることを感じさせる


最後は夢オチと言えば夢オチだが、それでもやはり悲しくもなり、感動も出来る展開
亜依との決別及び、現実で茜と偶然再会し、やはり2人で歩んでいくことを選ぶ流れは、自然と涙が出てきてしまった

いや、展開は確かに単純、本当に単純で、王道とは言わずとも、読めないこともない展開
なのに、心の中に響いてくる何かがある そのくらいこの2人の恋は、見ていて美しいものがある
初恋から始まった2人の終わりなき恋の物語は、これからもどこまでも続くのだろう

そして、改めて、この2人の恋物語を作るのに欠かせない存在であった亜依に感謝をしたい
自分が最後まであじ秋刀魚党として彼女を好きになることは出来なかったが、この物語を作る上で、一番良い引き立て役だったのは疑いようのない事実だ
だからこそ、自分はこの亜依の役割を、亜依の気持ちを受け入れて、この物語を積極的に肯定したいと思う


総評


音楽、背景、CGを含め(システムは普通、今の普通なので、そこそこ良い)、全体的に高評価を下せる作品だった
やはりED曲のfirst loveはずっと聞きたくなるような中毒性があるし、この物語と非常に良く合っている 余韻としても完璧だ

純粋に青春を楽しむ、という作品ではないので、シリアス風味が嫌いな人とか、何もかもハッピーでいたい、という人には合わないかもしれない
だが、青春を悩みの時期と捉え、あらゆる不安や問題に立ち向かい、苦しみを乗り越えていくものだと思っている人には、良く合う作品なのではないかと思う

あらゆる意味で青春を謳歌する その中には、悩みもあるし、楽しさもあるし、恋愛もあるし、時には失恋もある
それだけの青春要素を詰め込んで描く何気ない日常 そこには、どこか青春時代の懐かしさを感じられるかもしれない

最後に、タイトルについて触れておきたい
最後までやって初めて、「ヒマワリと恋の記憶」というタイトルが、この上なく相応しいことに気づく作品である
ヒマワリとは、作中で出てきたように、いつまでもあなただけを見つめてるという花言葉がある
これが、2人の恋が永遠に終わらない、現実で別れてからもやはり2人は同じ人だけを見続けていたということを暗示させる
同時に、あなただけを見つめる2人がまた1つになることをも暗示する ヒマワリという花は、どうやら何が何でも彼氏彼女をくっつけたいらしい
恋の記憶とは、文字通り茜と恋をした学生時代の記憶 記憶の世界での話だ
これが無ければ主人公は絶対に茜と仲直りをすることはなかったし、自分の過ちを反省しようとも思わなかったに違いない
例えこれがご都合主義だと言われようと、都合の良い青春だと言われようと、自分はこの展開が好きだ
同時に、こんな風にしてでも、青春時代に戻ってみたいなあと、心から思えた

優と茜の、末永き幸せを祈ります

true&茜が90点、亜依が85点、汐里が80点、カナが75点、それに+αしたものを点数の内訳とする







余談という名の個別感想


汐里√


亜依への気持ちを憧れだと割り切り、茜との恋愛同盟を解消し、汐里と積極的に話した場合にのみ分岐できる√
こう聞くと凄く無理やりとってつけたような感じはあるが、ちゃんと独立した話としては良い出来だった

この√におけるヒマワリは、どちらかというと周りに溶け込んで欲しいとか、友達を作ってほしいとか、そういう意味だろう
まあ、所詮は取ってつけたような√である
いくらメインヒロインと言っても茜√には遠く及ばない(ように自分には感じられた)ので、ヒマワリの意味するものが違ってもそれは無しではない

基本は汐里とのイチャラブが続くが、こちらは茜とは違って、実に萌えゲーっぽい可愛さがある
いや、ホントに萌えるというか、小動物みたいでとにかく可愛い 自然と顔がにやけるような、そんな可愛さだ

でも最後には別れを強いられる、非常に悲しい展開でもある
と言ってもこの別れ、ただの別れじゃなくて、主人公がそのまま汐里のことを忘れ、汐里もそのまま消えて行ってしまうという、非常に残酷な別れだ
記憶がある状態での別れなら、まだその悲しみを乗り越える余地がある
しかし、確かに付き合っていた彼女を、確かに心から愛していた彼女を完全に忘れ、いないものと見なしてしまうのは、見ているこちらとしては残酷極まりない
それこそ、当然のように日常生活を送る主人公に怒りが沸いてくるものだが、そんなことをしても救われるわけではない
このやり場のない怒りを抱えた、どこかモヤモヤするような離別エンドは、悲しさ以外の何物でもない

trueで明かされる、汐里がたまたま紛れ込んだイレギュラーで、消されるべき存在だったという設定は、正直いらなかったと思う
それじゃあ汐里が報われない いっそのこと謎を残したままでも、汐里が幸せだったと言えるエンドにしてほしかった
あの設定も茜のことを考えての設定だとは思うが、こればかりは無くてもそんなに変わらないだろうなあとも思うわけである


カナ√


正直な話、カナをあまり好きになれなかったので、この√もとりわけ好きになることはなかった
良くも悪くも、普通だという評価に落ち着いてしまった
でも、過去編を交えた隼人とのやり取りは良かったと思うし、過去の事件の詳細も明らかになったので、シナリオ的にはあってほしい√だった

この√で不満に感じたのは、「どうして幼馴染なのに遠慮ばっかしてるのか」という問題だ
とにかく、自分にとっては2人が愛し合ってると気づくまでの展開が遅すぎるように感じた
確かに幼馴染は距離が近すぎて、それを恋心だと認識するのに時間がかかるかもしれないが、幼馴染という関係は、それ以上に付き合ってるも同然なのである
だから今更遠慮するなと言うことだ 愛情ゲージがマックスまで振れているのに、付き合うまでに多大な時間を要するのは、何か違うというものだろう
(自分には女の幼馴染はいないし、こんな夢のような生活は送ったことが無いので、本人が無理だと言えばそうなんだろうが)

この√でも、地味に茜の存在が恋愛への発展に効いている
もしかしたら、この√でも茜は優に恋をしていたのではないかと推測を始めてしまうほどだ
まあ、これも今だから言える話と言えばそうなのだが

最後に綴られるのは、カナからの優と隼人への切実な想い
正直、この主人公は万能で、割と何でもできる系だと思う それ故に、隼人も逃げてばかりいる天才を許さない
一度真剣に勝負すれば、勝っても負けてもそれで満足だと、そう思えるのだろう
そして主人公はカナに推されて、隼人と勝負し、3人は過去の一件以来のギスギスした関係から解き放たれるのだ

隼人も不憫なキャラクターだなあと思う
沙紀に恋をするものの、沙紀が見ているのは優のことである 結果的に沙紀は返事を返してくれていたけれど、その返事を直接聞くことなく、沙紀は死んでしまった
サブの男にここまでの重荷を背負わせる作品は珍しい
それに、この境遇は亜依√における茜の心情に良く似ている もしかしたら隼人も、この作品の主人公の一人なのかもしれない