穂刈叶の話。
穂刈叶は高遠恵輔をどう思っていたのかは、最後までよく分かりませんでした。
真中合歓が執着する対象の男というだけで、自分にとっては生かすメリットは何もない。
結局は単なるモルモットの一人でしかないわけで、そんな男が仮想世界から戻ってきた途端、
自分に向かって愛していると囁き続けるのだから気味が悪いと感じることもあるものです。
恵輔と叶が愛し合っていた(ことになっている)のは仮想の現実の中だけなんですよね。
現実世界に戻ってしまえば研究者とモルモットの関係であり、2人に恋愛関係は成立しない。
ただ情が移るかどうか、という部分に関しては可能性があり、存在そのものを憎んでいたわけではないと思います。
一番大きいのは、自分の思い通りの感情を抱く人形としての姿に、天才の自分と比較した時の愚かさを感じてしまったのでしょう。
それでも穂刈叶は最後には2人の見方をします。
自分の意志で逃げたと捉えることも可能ですが、状況を考えれば、
2人の意志を汲んだ上で合歓を攫って逃走し、恵輔に暗号を投げることでピンポイントで自分の居場所を伝える。
2つの組織に追われながらも3年間逃げ続けてきた人間が、素人相手にボロを出すとも思えない。
叶が最後に起こした行動は、自分の人生にレールを敷いた両親(特に母親)に対する反逆の気持ちと、
最終的に賭けに勝利し、なおかつ楽園を捨てて現実へ戻ることを選んだ義理のようなものが一番大きいと思います。
両親や組織の言いなりにならず、スパイとしての自分でもなく、穂刈叶の意志として2人を会わせることを選択した。
最終的に死ぬことになったのは誤算かもしれませんが、天才がこうやって人のために動けるって相当凄いことだと思いました。
自分の人生を棒に振ってまで助けたくなるような感情って、生きていて早々ないです。
だからこそ自分の気持ちに正直になり、2人を助けることを選択したのかもしれません。
現実に戻ってきた途端見下すような視線を向けて罵倒する叶にはゾクゾクしたし、
そんな女がか弱い幼馴染の彼女ヒロインを演じていたと思うと鳥肌が止まりません。
まああれはあれであまりにも都合の良い女過ぎて、逆に怖いと感じる部分はありましたが……。
人の上に立ち自由に人を操れるような人間が、最終的には人を助けるために同じ土俵に降りてきて散る。
儚くも美しい穂刈叶の人生に胸を打たれる作品でした。
実はかなり前にHDじゃない方をプレイしていての実質再プレイなのですが、
何もかも初めてで余裕のなかった当時とは違った視点でこの作品を楽しめたような気がします。
特に凛音様√とか以前は本当に何も分からなかったし、それに比べるといくらか理解はできたように思えました。
凛音√最後の終わり方はやっぱりよく分からないけれども。
あれこそが実質楽園エンドなのですかね。