1年を繰り返し読むことになる作品ではあるものの、周回ごとに理解が深まる楽しみは非常に魅力的です。たかが1年、されど1年です
最初に言っておきたいのは、自分は前作は未プレイです
しかし、このゲーム単体でも十分に内容は面白く、多少は理解に及ばない部分はあったものの、全体としてはかなり楽しめました
絵と音楽に関しては世界観に合致する形で非常に素晴らしいです
今日蔓延る美少女ゲームというのは大体可愛い子がいっぱい出てきてハーレムでニヤニヤするのが主流ですが、今作の場合は世界観作りに焦点を置いているように思えます
この作品が俗に言う可愛い絵で描かれたなら、それはイメージの違うものになっていたんでしょう
こういう部分もあって、美少女ゲームというよりは、エロが入った本格派の小説という印象が強いです(良い意味で)
田舎伝奇という独特のジャンルにおいて、この手の絵はやっぱり外せないなと、解像度が高い今の時代でも思わされました
音楽については、とにかく雰囲気が出ています
洞窟や地下に入った時の音楽だとか、田舎を思わせる音楽だとか
変に綺麗なアップテンポじゃなくていいのです このゲームはこれでいいのです
世界観の特徴は、田舎社会に蔓延る闇と、神話上の神様の実在です
田舎と聞くと、アットホームな雰囲気だとか、緑が多くて家が少ないだとか、どこか懐かしい雰囲気を感じるのが通例です
しかし、田舎社会というのは、受け継がれてきた慣習が根強く残っている社会でもあります
日本という国が実質的に1つの国会という機関によって統制されているように、この作品の田舎も1つの家が代々村を治めています
このゲームの特徴は、どこか懐かしいといったよくある田舎ゲーの雰囲気よりも、その裏側にある家督争いや権力の闇に焦点を置いているところです
これは田舎だからこそ書ける部分でもあります そういう意味でも辺境の村という世界設定は、限りなく異世界に近いのかもしれません
大衆は権力者に従うしかないと同時に、どこかその権力者を頼っているという、田舎特有の住民の考え方も魅力的でした
神様についてですが、非常に重要です 神様の機嫌次第で未来も変わります
信仰するだとかしないだとかそういう軽々しいものではなく、その気になれば村1つ潰せるほどの力を持っています
そのために人々は神様を抑えていると伝えられる湊本家を信じ、また神社に頼るということを通して、どこか不安に駆られながらも、自分たちは安全だと思い込ませている
こういう部分でも人々は権力者に頼っている 誰かに寄り添って生きるのは非常に楽ですが、それが崩れた時、途端に不安になる
そして人々は不安に駆られ、自ら潰しあいを始めてしまうのです
肝心のシナリオですが、何が面白いって、やっぱり徐々に謎が解けていくのが面白いです
正直難しい話ではあるのですが、全ての情報が繋がった時、1つの物語として大成する
途中で投げてしまってはこの繋がる快感を得られないのだと思うと、やはりやるからには最後までやって欲しいです
よくここまでこの物語を深く掘り下げたなあというのが終わった直後の率直な感想でした
誰から攻略しても良いのですが、正直1人目は意味が分かりません 何が起こってるのかちょっとよく分かりません
しかし、それも膨大すぎる情報量をそれぞれのヒロインルートに分割しているからです
たった1年の物語、しかしその裏には様々な人間の行動や感情が渦巻いている
それが巧みに組み合わさって今があり、どこか歯車が狂ってしまえば、違った未来になり得る
プレイするごとに別の視点からの物語を楽しめて、新しい情報が次々に入ってくる
終わった後に思い返してみると、この作品の形式は正解だなと感じました
もっとも、人によってはクドいと感じるかもしれないので、微妙なところではあるのですが
結末は良く分かりませんでした
結局文乃は何がしたかったのかという部分は、やはり過去に帰って、自分という存在をやり直したかったのでしょうか
次回作への伏線を残したのか、もしくは前作をやれと告げているのか
中々にモヤモヤが残る終わり方なのですが、彼女たちの目的もはっきりし、ほとんどの謎が解けて終わるという意味では、完成と言って問題は無いでしょう
今作をプレイして一番感じたのは、主人公およびヒロインズの意志の強さです
意志の強さというものは、年齢で決まるわけではありません
かといって、人生経験で決まるわけでもなく、その裏に確かな決意があれば、誰でも強くなれるものだと思います
最後に現実を受け入れて神様と向き合ったのは誰だったでしょうか 主人公とヒロインズです
最初から強かった訳ではないでしょう 彼らは1年という時間を通して、現実と向き合い、覚悟を決めました
この観点でみれば、この作品は彼らの成長物語とも捉えられるのかもしれません
しかし人々は権力者に頼り切っていたため、不安で不安で仕方がなく、自分1人に出来る最低限度のことさえも出来ません
三葉父が頼られているのもそういう側面があるのでしょう 誰かに頼りながら生きるというのは、楽で安全なのです
かといって、その意志の強さが善意に反映されるかどうかといえば、そうとも限りません
意志を持った者は確かに強いです しかし、それがマイナスの方向に進んでしまうかもしれない
それが上蔵という存在であって、彼は決して弱くはない むしろ本当に強い
だからこそ自分には彼が憎めません 彼は確かに彼の信念でもって、人生を全うしているはずです
悪役で言うなら、それと相反する形で上手い具合に動かされいた堂島というキャラクター
彼は金のためという目的こそあったものの、目先の利益に目がくらみ、結局自分の意志では動きませんでした
本当の意味で悪役であり、そして弱かったのは、やはり堂島というキャラクターなのでしょう
最後に、テキストのウィンドウの右下に鳥の絵が写っているということ、終盤になってようやく気づきました
結構分からないものだと思うんですが、普通は早く気付けるものなんですかね