これ結構好きなんですよね。どことなく純文学っぽい所も含めて。
「面影レイルバック」の前日譚ということですが、それに向けて興味を引き立てる道具としてはほぼ完璧だと思います。
そういえば月影のシミュラクルも似たような無料短編出してましたが、そっちが事実上の体験版だったのと異なり、
本作では切り取る時間軸に本編とは全く違う部分を選び、今作独自の主人公を立てて彼にフォーカスを当てつつも、
間接的に本編の主人公らについても語るという手法を取っています。記者による取材と懐古というのも上手です。
これは一つの作品の作り方として、また本編を宣伝するやり方として非常に秀逸と言って良いんじゃないかと思います。
この作品はボイスレスです。少々穿った見方をすれば、本当は本編中に回想する予定だったけど声付ける予算がなかったから
しょうがなく別作品として独立させ、無声の批判を回避しようとしたのかなとも思えるのですが、結果論的にはこれが正解なのかも。
というのはヘタに声がついて喋ったりしないので、その分文章と絵に集中することになるんですよね。
語り手を3度移り変えながら、並のエロゲよりちょっと硬派な、それこそ純文学くさい語り口で8年前を回想するこの世界観には
むしろ声がなくて良かったと思うのです。イヤホンつけて喋りを聞くというよりは、小説を読むように文を追いかける方が似合います。
泥マサという無骨な荒くれ者のささやかな非日常の日々を上手に演出しつつ、最後まで語り切ったこの文の地力は大したもので、
身分違いの淡い恋を主題にしつつ、また同時に本編の主人公の幼少期の出会いについても自然に取り込むとは見事な力作。
本編やる前にはプレイ必須なんじゃないかなあ。そしてこれ単体でも高い評価出してもいいんじゃないかなあ。そんな一作でした。