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netkinakoさんの百花繚乱エリクシルの長文感想

ユーザー
netkinako
ゲーム
百花繚乱エリクシル
ブランド
AXL
得点
80
参照数
454

一言コメント

小さな出来事の細部まで行き届いた描写がこの作品の雰囲気づくりによく貢献しています。そして主人公「が」ヒロインを好きになる過程まできちんと描く良作ファンタジー。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この作品の細かいけど重要なポイントとは、村おこしに掛かる種々の出来事、イベント、障害、休憩etcにおいて
ちゃんと固有名詞で語ってくれる所だと思うんですよね。英雄祭開くまでどれほど些細な出来事まで描かれていたことか。


エロゲしてたら絶対出会ったことあると思うんですけど、生徒会の「書類の整理」とか、なんでも部の「ちょっとした手伝い」とか
みんなでこのイベント成功させようぜ展開の「それから忙しい日々が続いた」とか、これ全部ライターの怠慢だと思いませんか。
いやいや君たちそこで具体的には何してたの。そこ語らずに話進めようとするから薄っぺらい恋愛になるんじゃないですか。
結局はなんか忙しい日々を共に過ごさせれば絆が生まれて、そのまま二人の関係もうまく行くとか思ってるんじゃないですか。
そういう浅薄な考えで入れられたパートはどうやっても退屈にしかならないものです。皆さんも見覚えあるんじゃないですか。


でも百花繚乱エリクシルはそういう部分に手を抜かない。町中の視察に出ていたとか、そこで得た情報を整理していたとか
そういう大雑把な言葉で「仕事」を説明してしまって、後はテキトーにヒロインと仲良くさせる話だって書けたと思うんですが
このライターはそんな甘えを許しません。どんな時間を共有したのかを具体的に、綿密に、丁寧に、それでいて冗長にならず描く。
この配慮の行き届いた描写こそが作品の雰囲気を決定づける素晴らしい演出になるのです。うん本当これだから面白い。

AXLは雰囲気作りが上手いという評はしばしば見かけますが、おそらくはライターのこの精神が評価されてのことだと感じました。
今作で言えば、共通ルートが一番この点を重視して作られているのですが、なるほど共通が一番面白いというのも頷けるなと。
裏を返せば個別はちょっと失速してしまうのですが、その理由については後述。



そして私がこの作品を評価したもう一つのポイントとは、主人公「が」ヒロインを意識する過程をきちんと描いていたことです。
カトレア、アンは残念ながらその枠では評価できないのですが、特にジャスミンとマーガレット。この二人に関しては秀逸。

ジャスミンはとりあえず気を引いているうちにトリロバ卿の推薦を受けて帝都へ。その保護者として時間を共有するうちに
いつの間にか彼女が目の離せない存在になっている自分に気付く──という展開がなかなかリアリティがあってよろしい。
帝都の貴族にハメられ、襲われそうになっている彼女のピンチに駆けつけ、怪我を乗り越えてでも気持ちを告白した展開が熱い。
劇場主演の座を巡る、ど真ん中ストレート140km/hの勧善懲悪の展開も、ヘンに飾らない分綺麗にまとまってむしろ良かったかも。


あとマーガレット。シナリオ自体はぶっちゃけバジルの劣化で特筆する所がないため省略しますが、告白シーンが個人的にアツい。
例の計画がバレてしまった後、破れかぶれで告白するマーガレット、選んでもらえるはずがない玉砕覚悟の告白。でも抑えられない。
ブルームも彼女のことは多少意識していて、目の前の彼女のそんな姿を見てたら、規則とか全部捨てて好きの気持ちが溢れだす。

「俺が好きになった人は、マーガレットだ」

この瞬間、割と本気で脳内ではホイットニー・ヒューストンのI Will Always Love Youのサビが流れ出しましたよ。エンダアアアアアアアアアア
ああ、こんなに心温まる最高の告白があるんだ。素晴らしいなあ。もう末永く最高の人生歩んで下さい、おめでとうございます。
今までやった全てのエロゲの、全ての告白シーンと比べても一番素敵なシーンでした。これ見れるだけでも買う価値あるよ級。



とまあたくさん褒めたんですが、残念な所も一つ。そしてこれこそが個別の失速原因とも通じてると思うのですが、それは
全てのルートが「巡察使を続けるか、恋愛を取るか」を主題にして、多少の差はあれ「巡察使を続ける」結論しか取らないことです。
この構成のせいでどの√をやっても最後どうなるのか分かり切ってしまうため、イマイチ盛り上がれなくなってしまっています。

この2択を課すのはマーガレット√だけで良かったはずです。他は早々に巡察使の仕事の辞職を決意させた上で
ジャスミンは歌姫について、カトレアは魔女について、バジルは帝都の教会について語るような構成だってやれた訳です。
アンもミルトス以前の話を主題にするとか、マーガレットと対比的に使うとか、まあいろいろ構成は考えられる訳です。
そういう個別ルートの差別化という重要なポイントから逃げて、全ルートを同じテンプレの俎上に載せたというマンネリ感こそが
この個別の失速という残念な事態の原因になってしまったんじゃないでしょうか。共通90点、個別75点ぐらいが素直な所。


ちょっと惜しい一作ではありますが、雰囲気づくりの重要なポイントを心得ているものにしか作れないこの世界観や
最高、以外の言葉を無くしてしまうぐらい素敵な告白シーンなど見所もあり。総評としては差し引き80点としておきます。