瀬戸口廉也の文章が読めるだけで万々歳。とてもとても楽しい時間だった。
以下ネタバレありで、思いつくまま書きたいことを書いていきます。
【シナリオ】
瀬戸口廉也の筆力は健在で、夢中になりながら一文一文噛みしめるようにゆっくり読みました。
楽しくて楽しくて、読んでいる途中、この時間が永遠に続けと何度思ったかわかりません。
永遠には続かなかったものの、十分満足できるぐらいの文量があったのは嬉しかったです。
アルビノの超絶美少女とか、ファンタジーっぽい部分もそこそこあるんですが、
しつこいぐらい丁寧なディテールの描写によって、ファンタジーと感じさせないリアリティがありました。
気づけばこの物語を自分の人生の一部だと錯覚しながら読んでいたくらいの現実味でした。
【ボイス】
ボイスも普段は適当にスキップするんですけど、この作品に限ってはできる限り最後まで聞きました。
声については詳しくないですが、思い返してもいい演技のキャラばかりでした。
すぐ思い浮かんだのは金田、三日月、主人公の両親、風雅ですね。他もぴったりだったと思います。
特に金田の演技はひとつひとつのセリフに強い感情が乗っていて面白かったです。
出番が多いだけに収録大変だったでしょうに、最後まで感心させられました。
【音楽】
キラ☆キラの時に好きになれたのは、「キラ☆キラ」と「a song for…」の2曲だけだったので
正直そんなには期待していなかったのですが、予想よりも好きな曲を見つけられて良かったです。
Dr.Flowerの曲について第一印象はそんなにビビッと来なかったのですが、聴いてるうちに馴染みました。
花井是清の言う物語のまやかしに騙されただけかもしれませんが、
「ぐらぐら」「Calling」「Calling(Another Ver)」「はじまりのウタ」「ミライ」あたりが、いまのところ好み。
特に「ぐらぐら」は1発で心を奪われたので、主人公の気持ちにシンクロできてよかったです。
キラ☆キラの時もそうでしたが、三日月の天才ボーカルっぷりが文章で何度も強調されているため、
三日月役で歌った人は物凄いプレッシャーを感じただろうなと思います。
それに負けずに歌いきったボーカルの人に敬意を表したいですね。Callingの歌い方が好きでした。
まあ、実際に三日月ほどの天才がいたらエロゲの曲を歌うことはまずないでしょうしね……。
BGMも全体的にいい仕事してました。すごく好きで単体でリピートする1曲みたいなものは無かったですが、
35曲もあるだけあって、新鮮な気持ちで楽しめるシーンを増やしてくれていたと思います。
【CG】
すめらぎ琥珀の絵がやっぱりすごく良いです。
特に、公園で三日月が歌うシーンと、振り袖で楽しそうにする三日月と金田のCGは、かなり印象的でした。
塗りについては賛否両論あるようですが、自分はこれで良かったと思います。
肉感的な塗りも候補に上がっていたようですが、そういう色気を主眼においた作品では無いと思うので……。
それはそれとして覗きシーンはもうちょっとサービスして欲しかったですがね!リアルではありましたが!
【キャラクター】
サブキャラ含め、良いキャラばかりです。
個人的には、金田が特に印象的でした。
金田について、MUSICUS!のサブ主人公だと自分は思ってます。もちろん賛否両論あるのもわかります。
常識は無いし、人のものを勝手に食うし片付けない、勝手に人の家に住み込んで家賃も払わない、
スケベで人の下着を盗む、歯ブラシも使う、練習はさぼる、とひどい点を挙げればきりがない。
ですが、両親がおらず、兄貴分と「ババア」以外に親交のある人間も皆無で、
人との付き合い方を知ることもできず、金もなく万引きをして食いつなぎ、定時制に入ってからも孤独に過ごし、
ただひとつ本当に好きな音楽でも自分の才能に絶望して現実逃避を繰り返していたことを考えれば、
この程度の屈折で済んだのはむしろ奇跡だと思います。
お調子者なので「ロックスターになる」など自信過剰に見える言動こそ目立ちますが、
実際はまるで自信がなく、酔った時に漏らした
『おれずっと自分の人生って、死体Bとか空き缶Cみたいな、舞台上のどうでもいい背景なのかなって思ってた』
というような言葉にこそ金田の本音があるのだと思います。
こんな精神状態と絶望的な環境で生きていれば、普通はもっと性根のひん曲がった人間に育っていたでしょうが、
そうならずに済んだのはロックに救われたからなのでしょう。
自分にロックに対する思い入れは特にありませんが、金田を見ていると本当に良いものなのだろうなと感じます。
そして、どん底とも言える状態の金田が、主人公に出会うことで、
絶対に叶わないと思っていた様々な夢を少しずつ実現させていく姿に感動させられました。
同じようにどうしようもない人生を歩んできて、好きなことで自分の才能に絶望している人間としては、
金田と自分を重ねて見ずにはいられませんでした。
現実は何一つ変わっていませんが、心はとても救われました。
金田以外だと、特に小川胡桃ちゃんがとても好みでした。
サブキャラとしては専用のCGがあったりして恵まれていましたが、それでももっと見ていたかった。
キラ☆キラでもそうでしたが、固有ルートのサブキャラを好きになるのは切ないものがあります。
人格に優れた主人公と尾崎さんが救えなかった彼女を、金田の常識のなさが救ったのは痛快でした。
【その他、不満点等】
キラ☆キラのアプリ化プロジェクトに続いて、
MUSICUS!でもクラウドファンディングの松コース(15696円)で支援させてもらいましたが、
支援してよかったと思います。
ただ、全く不満がないわけではありません。
文章、絵、音楽担当の仕事は完璧でしたが、システムやクラウドファンディングには若干の不満が残ります。
まず、予定より半年延期したのは辛かったです。
またシステム面も、選択肢や未読部分まで一瞬でスキップする機能もオートモードもなく、
他にもBGMのつなぎが唐突だったりするのも勿体ない。
できれば作品に必須でない雑誌作りに傾倒する前に、作品自体の完成度を高めてほしかったところです。
また、松コースを選んだのは瀬戸口さんの制作後記が乗る予定だった設定資料集に惹かれたからなのですが、
確認してみると肝心の制作後記が無かったのも残念でした。
雑誌の末尾にあるレポートで代用したということなのでしょうか?
ボーカルアルバムが案外良かったので損した気分にはなりませんでしたが、
無いなら無いで一言伝えてほしかったです。もし活動報告で伝えていて見落としていただけならすみません。
さらに欲を言えば設定資料集に胡桃ちゃんの設定も載せてくれてたら嬉しかったなぁ……。
あと何より、いちばん後味の良い三日月ルートにロックが掛かっておらず、
トゥルーエンドだと思って最後にプレイしたルートで
心に傷を負った状態で物語を全て終わらせてしまったのが辛かったですね。
これら以外には不満もなく素晴らしい出来だったと思います。
今も2周目を楽しんでいます。
まだ届いていない書き下ろし小説も、BLACK SHEEP TOWNも楽しみですが、
それ以前に、瀬戸口廉也がこの世に生きていて、
そのうえ文章まで書いてくれていることに、これ以上なく感謝したい気持ちです。
夢のような時間をありがとうございました。