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neneneさんのガンナイトガールの長文感想

ユーザー
nenene
ゲーム
ガンナイトガール
ブランド
CandySoft(きゃんでぃそふと)
得点
100
参照数
1001

一言コメント

期待通り。無駄なところが無く、一貫してブレないシナリオにはのめり込ませる力があり、色々と得るものもあった。文句なく面白い。また、この主人公は間違いなく格好いい。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

 原画・すめらぎ琥珀とシナリオ・かずきふみの作品は「もっと 姉、ちゃんとしようよっ!」から期待していたのでなんの不安もなく予約購入。期待通りの出来で、これほど全ルートクリアした後に満足できた作品は久々だ。


 主人公「桧森絢斗」の住む田舎町には、絢斗の母親が勤めている軍と関係が深い実験施設がある。その関連で、ヒロイン達が所属する「陸上自衛軍第0教育隊第2区隊」が田舎町にやって来た。
ひょんなことから軍人であるヒロイン達と、民間人である桧森絢斗や友人達との学校生活が始まった。
 ガンナイトガールのヒロインは全員軍に所属しており、一民間人である主人公とは明確な線引きがある。
主人公は戦争や軍に嫌悪感を持っており、日本の現状や世界の戦況などにはあえて触れず、日常を平和に過ごしてきた。そんななか、無期限休校中とはいえ、自分達の居場所である学校を軍に接収されたことによりますます反発の姿勢をとってしまう。
けれども軍人であるヒロイン達と学校生活を共にすることにより、軍人といえども自分達と何も変わらないということを実感する。
そういったリアルな軍とかかわることで反発の姿勢も軟化させていく。

 この桧森絢斗という主人公は実に日本人だなぁと感じた。
見たくないものは見ず、自分の要る場所では平和が続くと思い、批判だけはちゃっかりする。
こういった人間は実に多いと思う。かくいう私も同じような人間だ。だからこそ桧森絢斗をリアルに感じることができる。
 現在入ってくる情報ではシリアの内戦がひどい事になっていて、アルジェリアでは日本人が殺された。日本では中国による尖閣諸島へのちょっかいがエスカレートしてきている。
それらも自分にとってはニュース上の事としか捉えていない。なぜなら、知っても「何も出来ない」からだ。だから他人事にしか感じることだできない。
それは桧森絢斗も同じだ。

 ヒロインの一人である「風祭志乃」は、戦争を他人事として捉えている絢斗に激昂する。
「どうせ何かあっても、数ヶ月で興味なくして、半年たったらすっかり忘れちゃうんでしょ!?」
このセリフにはくるものがあった。
作中では日本の北海道は消滅している。風祭はその消滅した北海道の出身者であり、「数ヶ月で興味なく半年たったらすっかり忘れちゃう人々」を嫌というほど見てきている。
消滅した北海道と風祭のセリフからは東日本大震災の被災地を連想させる。今真剣に被災地のことを考えている人間はどれくらいいるのだろうか。
桧森絢斗はいたって「普通の人」なのだ。

 上記の風祭のセリフの後に、絢斗の友人である「庫元健太郎」のセリフが入る。
「胸が痛くないわけじゃないけど、どこか他人事。そんな連中、くさるほどいるって。それが悪いことだとは思わない」
民間人側の意見。
次いでヒロインの一人「七海恋歌」のセリフ。
「たしかに……そうですね。私も、軍人じゃなかったら……そう考えていたかも」
軍人側の意見。
 ヒロイン達と親しくなるにつれ、否が応にも感じさせられる彼女達は「軍人」という事実。
――いずれ戦地に赴くあの人に、俺はなにをしてあげられるだろう。

 どのヒロインのルートに入っても、桧森絢斗は民間人の立場から逸脱することはない。それは、ヒロインが危機に陥ったとしても、ヒーローのように都合よく救うなんてできないということだ。
 ヒロイン達は実験のために薬物を投与されている。その事実を絢斗が知ったとき、桧森絢斗にはどうすればいいのか分からない。
実験とはいったい何をしているのか。薬の成分はなんなのか。彼女達は大丈夫なのか。
民間人の絢斗には情報を得る手段がない。力ずくで実験を中止させることもできない。
何も出来ることがないのだ。
それでも桧森絢斗は諦めない。自分に出来る事を必死で考え、少しでも彼女達の助けになろうとする。
桧森絢斗の行動に間違ったところは一つも無かった。すべて自然な成り行きだっただろう。、危機を打開する力なんてあるはずもなく、現状を維持するしかない無力さに嘆きながらも、ヒロイン達の心の拠り所になろうとした。民間人なりに出来る事はすべて行った。
 民間人は軍人に守られる立場でヒーローにはなれない。でも桧森絢斗はヒロイン達にとっては紛うこと無きヒーローだった。

 主人公にはヒーローが似合う。力を隠し持ち、ヒロインの危機には危険を顧みず救いに現れる、そういったヒーローだ。
桧森絢斗にも「ARMS」のような力があったらもっと広く受け入れられただろう。物語もスカッと気持ちのいい展開になっただろう。でもそんな物語に感動はしない。
私は民間人のままだったからこそ桧森絢斗は格好いいと思うのだ。


 全ルートを終えて感じたのは「無駄がない」ということ。導入からエンディングまですべてのシナリオに意味があったと思う。たとえば世界観の説明、キャラクターの変化、伏線の開放など、一切の無駄を省いた丁寧に作りこまれた物語だった。
だからこそ物語に引き込まれ没頭することができた。ここまで楽しくプレイできた作品は久しぶりだったので、プレイできたことに嬉しくなった。