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natagixtcさんのソレヨリノ前奏詩の長文感想

ユーザー
natagixtc
ゲーム
ソレヨリノ前奏詩
ブランド
minori
得点
95
参照数
2014

一言コメント

これはただ、一人の心の読める少年と心を読ませない少女の「出会いと別れ」と「嘘と真実」の物語である。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

オススメ攻略順:真響→はるか→永遠
今回の物語は、まさしく姫野永遠と宮坂終の2人の物語でしかないという感じでした。他ヒロインのシナリオに於いても永遠とヒロインの対比を大きく描かれていて、まさしく3ルート分岐に見せかけた一本道作品でした。
私は今回95点を付けましたが、この作品は「姫野永遠」という少女についてどのようにとらえるか、見る人の視点によって評価の分かれる非常に難しい物語であったと思います。

※私の個人的な見解部分が多く、支離滅裂だと感じてしまう部分も存在するかもしれませんのでご了承下さい。














個別ルート感想

・佐倉井真響 ルート
このルートでは、おもに真響と永遠の対比とぶつかり合いがとても印象強く描かれていました。力を肯定するものと否定するもの、ネアカとネクラ、真の正義と偽善、真響と永遠は最初から否なるものだったのです。しかし、ある一点を除いて。彼女たちは2人とも自らを救ってくれる「ヒーロー」を求めていたという事です。そのヒーローこそ主人公(宮坂終)だったのです。
しかし、ここでも真響と永遠の決定的な違いが存在しました。ソレは、求めるヒーローの姿だったのです。真響は、自分だけではなく他の人々も救うことの出来る「みんなのヒーロー」を求めていたのです。対して永遠は、傷ついた自分を救ってくれる「私だけのヒーロー」を求めていたのです。この明確な違いがこの物語を生み出し、出会いと別れを決定づける分岐点になったのです。
私は、このルートが他に比べて好きではないです(面白くはありますが)。どうしても永遠の事を捨てきれないはずの終が、いまさら近くの真響の存在に気づき、愛し合うというのは、彼が妥協ではないかと考えてしまう。自らが2年間も思い悩んでいた呪いをこのような形で解消してしまうというのは少し虫が良すぎではないだろうか。永遠との決別のシーンに於いても、既に真響と関係を結んでいるとはいえ、彼は結局永遠を救うことを諦め、自らの幸せを求めたという解釈が出来てしまうため、非常に不愉快でした。それでもやはり、物語としての完成度が高く、永遠について対比的な面で感じ取る事が出来たという意味では非常に面白い内容でした。

・都築はるか ルート
 このルートでは、はるかを主体として、2年前の姫野永遠を再現しているような物語でした。真響とは打って変わって、はるかは永遠に酷似していました。三笠優者のファンとして、物語を愛し物語の為に自分の為に演じる姿は、非常に引き込まれました。このルートは、はるかを永遠と考えてプレイすると、終の心にはやはり永遠を消すことが出来ていないという事が浮き彫りになっていました。さしずめ、はるかに呪われた2年前の永遠の姿を重ね合わせだからこそ彼女を好きになる要因になったのだろう。もしかすると、終ははるかと永遠を重ね合わせることで自らの呪いを解き、自分を正当化しようとしたのかもしれない。だからこそ、彼は2年前を再現するかのようにはるかと決別してしまう。そして帰りの電車の中で終が発した言葉
「『なにも変わっていない』『誰もいない』『怪物』『永遠』『はるか』そこまで入力して最後の名前を削除する。結局、俺が自由に生きていくことが出来るのは、このスマホに表示される文字の上だけなのかもしれない」
結局、終ははるかを好きだとどんなに思っていても、心の底では永遠を捨てられていなかったのだ。実に滑稽だ。結局彼には、この時点でははるかは永遠の代わり、ただそれだけだったのだ。けれども、2年前と比べて明確に違った点が存在した。終は2年前の別れを経て、少しながらもエンパシーと向き合い自分の中で答えを見つけ出すことが出来た。だからこそ、今までの永遠との思い出を上書きするように、はるかを望み、助けたいと願う宮坂終が生まれ、永遠との呪いに決着とつけ、新たな都築(つづき)へと進む事が出来たのだろう。この物語は、永遠(えいえん)を終わらせ、はるかなる都築(つづき)に進むためのプロローグなのだから。
 このルートでは、真響ルートとは違い、終が永遠への思いに決着を付け、永遠との思い出を上書きし、はるかを選んだという明確な描写が存在していると私は感じました。永遠のより戻し宣言に対して
「俺には、もう、心に決めた相手がいるんだ。姫野のことは好きだけど、もっと好きな子ができたんだ。姫野とはもう恋人には戻れない」
この瞬間、宮坂終と姫野永遠の2年にも及ぶ呪いが解けたのだ。そして、彼の中で永遠とはるかは完全に別の存在となり、同時に彼の守りたい存在が確立した瞬間だったのだ。
 非常に美しく、儚く描けていたルートであったと感じました。このルートの永遠は、終に対して第3者のような立ち位置に納まる描写が所々に見られ、真響とはまた違っていた印象を受けました。


しかしやはり、真響ルートにしろ、はるかルートにしろ、永遠を終は自らの手で救い出すことが出来なかった。だからこそ、終わりに続くプロローグを最後の宮坂終に託し、最後の姫野永遠ルートへと、すすんでいくのでしょう。

・姫野永遠 ルート
 はじまりは、真響・はるかを選んだ宮坂終の心の欠片を知り、再び救うことの出来なかった少女「姫野永遠」にもう一度立ち向かい、救われようと試みます。この下りが一番賛否の分かれる部分になっていると思います。人によっては「話の進みがだれてる、くどい」と感じる人も少なくないと思います。しかし私は、この下りこそ、この物語に真に必要な部分であり、2年前と今の対比に最も重要なファクターとなっていると思います。2年前には無かった助け合い、信じ合える友がいたからこそ、彼と彼女はもう一度同じ道を進むことができたのだと思います。しかし、そんなさなか、永遠の心の壁は日に日に彼女の心を蝕み続け、時同じくして終が前に進むことを肯定するようになります。結局この時点での宮坂終はまだ、彼女を救ったという明確な証拠で彼の心は救われ満たされていっていたのかもしれません。そして彼らはまた、遠く離れていってしまったのです。
 このルートは、前2つの世界で見せた姫野永遠、そしてこの世界に存在する姫野永遠を対比する構成になっているように感じました。前2つでは、永遠は終に区切りをつけ、終もまた永遠に区切りをなんとかつけ進む事が出来ていましたが、このルートはまさしく、前2つで明確に救うことの出来なかった本当の姫野永遠を救うべく、全ての世界の宮坂終がこの世界の姫野永遠を救うと言った物語になっていました。わずかな刻の中かわすことのできる永遠と終の感情。そして真に終がエンパシーに向き合っていく後半部分。その先に待つのは終わりへのプロローグか、それとも幸福のはじまりのプロローグなのか。その答えこそが終と永遠の最後の選択につながっているのだと、私は考えています。



<雑談>
①「さよならは、きみだけを」
これはきっと、真響ルート、はるかルートの姫野永遠に対する制作者側の皮肉だったのではないかと思ってしまいます。終が前へと進む中、結局姫野永遠本人はまだ、自分の殻に閉じこもり進めないでいるということを示したかったのかもしれないと考えてしまします。
②マキのルートが無くて非常に残念だった
物語の構成上難しいのは分かっていたが、やはりキャラが濃い分、欲しかったなあという気持ちが積もってしまいました。
③OPについて
OPから、既にこの物語を表現したのだとプレイし終えて感じました。1番では、終と永遠の2年前の再会と別れを綴り、2番では、真響とはるか、それぞれのルートを表現し、同時に永遠のルートへと続く事を示唆しているかのような曲になっていました。「cherish」とは、「大事にする、心に抱く」と言った意味があります。この作品に当てはめるならば、「cherish」とは、「あなた(永遠)への思いを胸に抱きながら、必ずあなたの心を救い出します」という意思の表れ出会ったのではないだろうか。


<総評>
本当に考えればいくらでも考える事の出来る考察し甲斐のある作品であったのではないかと思います。プレイして見てスキップがなかったり、マキルートが無かったりと、多少の不満点が存在しましたが、私はこの物語を愛し、心に残る作品の1つになったと感じています。minori様にはこれからも、このような素晴らしい作品を世に送り出していただけるよう願っています。そのためにも、私も1ユーザーとしてこれからもminori様を支えて行きたいと思います。