イベント絵はまずまずだが構成、人物描写、エロの導入とジャンル、立ち絵素材に至るまでゲームデザインの基盤そのものに問題がある。人間の性衝動の原理を理解しているのか疑問が残り、穴に棒を入れればエロゲになる訳ではないという顕著な例。
絵は崩れているものはなく点数から想像するほど悪くはない。声に関しては新鮮味はないが
それよりも商業メーカーにしてはやや籠っているように聴こえてそちらの方が気になった。
主人公に関しては、言葉遣いが酒場によくいるチンピラのような感じで余り知性が感じられない。
エルフ達を手中に収める立場につく人間ならばもう少しどっしりとした人物に描いた方が良いだろう。
ある程度エロゲをプレイしてきた人間ならばこの時点で嫌な予感がすること請け合い。
冒頭で主人公の部隊がエルフ族との戦闘に敗れ、奉仕奴隷にされる展開は新鮮で悪くはなかった。
ただ、M向けっぽいエロは3シーン程度でその後は立場が逆転し主人公達がエルフを犯す展開となる。
人間を奉仕奴隷にする考えのエルフは1人しか居ないため
輪姦と相性の悪い性に開放的なヒロインばかりな訳ではないのだが、
今まで奉仕とはいえセックスしていた相手を犯す展開は甲斐がなく興奮度は低かった。
その後、5人のキャラ選択画面になるが、ここでは1度選択したキャラは選択不能となる仕様で
ストーリーが分岐するわけでもなく、要は単にシーンを見る「順序の決定」に過ぎない。
これによって時間の流れや他のキャラがどんな行為をしたかも言及できないため、
このキャラ選択システムにはブツ切り感が増すデメリットしかないことは自明である。
キャラ選択が一巡するとストーリーが進み、城内に乗り込んだ後、全キャラ選択画面になるが
ここでも3回同じキャラを選択すると専属奴隷にする(主人公との2、3シーンを見る専用END)か
引き続き他のキャラ選択をするかを選べるだけで、ストーリーはこれ以上特に進展もなく既に終着地点である。
キャラ選択自体も主人公が相手を選ぶよりかはシーンを見る対象を選ぶ感覚であり、
それが1対1なのか輪姦なのか、どういったエロのジャンルかは蓋を開けるまで分からない。
部下に行為をさせるシーンや主人公が部下達と共に行為に及ぶシーンであることも多いため、
プレイヤーに決定を委ねているようで実際は何の決定権もない。
それでもエロの内容が充実していれば良いのだが、
このゲームの最大の問題は各エロシーンの導入がおざなりである点であり、
例えばイベント絵は大半が主人公もヒロインも局部を露出した状態から始まり、
中には既に挿入済の状態から始まるシーンまである。
部下達が勝手に始めているシーンならまだしも
主人公とヒロインのシーンでもこのような事が多々あるため、
レビュータイトルで言及したように
「プレイヤーの性衝動」というものをまるで意識して作られていないように感じた。
和姦であろうと陵辱であろうと、
エロとは丁寧な工程の積み重ねによって構築されるべきものであり、
人間は、穴に棒を入れればそれで興奮できるような身体にはなってはいない。
相手の身体を視認し言葉を交わし、どういった考えでいるのかを共有し、
距離を詰めて服の上から身体に触れ、自分と相手の興奮を徐々に高め、
そこから衣服の縁に手を掛ける。そういった段階を踏んでいく過程がエロであり、
それを描写するのがエロゲの役割であるのだ。
脱衣シーンは立ち絵でもイベント絵でも一切存在せず、キスシーンは終盤の各専属奴隷ENDに1つ、2つあるかないか。
エロシーンが終わると立ち絵での会話も何もなくキャラ選択画面に移動する。
製作者がこれらの問題点に気づいた上でこのようなゲームを作ったのなら仕方ないが、
少なくとも裸のイベント絵とボイスをある程度用意すればエロゲになる訳ではないことを理解して欲しい。
本来は立ち絵のシーンとエロシーンは地続きであるべきで、
別シーンとされているのはあくまでイベント絵が表示されるからである。
しかし、この作品では立ち絵での短い会話がある場合でも「これから~~をさせる」と言うと、
すぐに脱衣済みのエロシーンに飛ぶことが常で、導入らしい導入が存在しない。
上で言及したように、中には行為の途中から始まるシーンもあり、
この問題を象徴するようにシーン回想は全てイベント絵表示時点からしか見ることができない。
また、エロシーンでは前戯もなく挿入するばかりで何の性衝動も刺激されなかった。
陵辱ものだから前戯はいらないと考えているのかもしれないが、
それが現在の主流でないことは評価の高い他の抜きゲー作品などを見れば一目瞭然だろう。
エロゲの黎明期にはそういった作品もあったが少なくとも導入を省くような作品は潰えていったはずだ。
本作のプロデューサーである亮精類氏はリラクゼーションシリーズなど
M向け作品を得意としているようなので輪姦要素が多い本作品とは企画段階から親和性が低かったのかもしれない。
また、キャラ選択が本来の選択肢の役割として機能しておらず、
主人公の行動と部下達による輪姦がごった煮のように配置されているのは根本的に構成に欠陥があると言わざるを得ない。
主人公を主軸にするなら部下達による輪姦は別ルートでおまけ程度に抑えた方が良いだろうし、
輪姦を主軸にするなら男主人公ではなくヒロイン側の視点で展開した方が良いだろう。
選択肢とはプレイヤーの嗜好によってルート分岐させるためにあるのであって、
キャラを横一列に並べただけの選択肢には、
作品の底を浅くする大きな代償を払いながら、朝食のメニューを選ばせる程度の意味しかない。
ヒロイン数8、シーン数90とフルプライスに見合う物量は用意されているが、
ヒロインは4人も居れば十分であるし、
導入を描く工数が足りないならシーン数を3割ほど削ってその分充実させればいい訳なので、
シーンがキャラごとにおおよそ均等に配分されていることも含めてメーカーか製作指揮側の問題であると思う。
あくまでユーザーが求めているのは「ビュッフェ」ではなく「コース料理」であるということを
提唱として残しておきたい。
■総評
長々と書いてしまったが、結局はヒロインを始めとするあらゆる描写が足りていないことが致命的で、
まず裸の立ち絵が用意されていない(使用されなかっただけかもしれないが)時点でエロゲとしては落第点だろう。
もっと言えば、イベント絵がなくとも通常立ち絵と下着立ち絵と裸立ち絵の3つと会話シーンがあれば
人は興奮できるのだから「輪姦シーンを用意して…」「パイズリを用意して…」「フェラを用意して…」
という心のこもっていない流れ作業のようなエロゲ製作からは脱して貰いたい。
描写に関して特に酷かったのが、エルフの姫であるエミリアについてで、
プレイヤー視点ではまだ本番シーンを3回とフェラを2回ほどしか見ていないにも拘らず
「(エルフの国が落ちてから)毎日のように犯され経験人数は数百人になるだろうか」
という趣旨のテキストが表示される。これを受けて一体誰がこのヒロインに魅力を感じるのだろうか?
終盤ならまだしも全キャラ選択の1回目でここから本腰を入れようという時に
ボロ雑巾のような説明を入れるセンスは、この作品の諸悪の根源と言っても過言ではない。
最後に一つ良い点をあげるなら、冒頭に主人公を奉仕奴隷にすると言ったミュースに関しては、
逆に言えば好意のアピールであり、立場の逆転から恋愛感情のようなものを丹念に描いていけば、
性に開放的という難点はあるが、魅力あるヒロインになる可能性を秘めた存在だったと思える。
ゲーム内では専属奴隷にするシーンでもその部分の会話すらも省かれていたが、
例えば、序盤から部下達には手を出させない。人間達に襲われそうになったところを助けるなど、
印象的なイベントを交えてメインヒロインとして恋人同士のような関係を築いていけば、
輪姦ゲーの皮をかぶった良質な墜落純愛ゲーと変貌していたかもしれない。