商業乙女ゲームは初めてプレイ。時代を考えれば仕方ないものの、低画質な立ち絵や物足りない背景が目につき、ビジュアル面は今一つで序盤のモチベーションは低かった。ストーリーは短めで、本筋は無難にまとめられたミステリー。だが、アングラな要素に踏み込んだバッドエンドや人間関係の繋がりがノベルゲームらしく話に奥行きを持たせていた。
■良い点
ノベルゲームらしく複数の展開が用意されており、同じ相手に和姦と陵辱の両方があるなど、対照的な要素がお互いを際立たせていた。
主人公の百合子はルートによっては追い詰められて心が折れ、精神崩壊や身売りに堕ちるが、一方で事件を解決に導いたり、まっとうにヒーローと幸せになる。性格のブレではなく同一人物の性格の移り変わり・成長として捉えるのに十分な説得力があった。
最初に攻略した斯波は特に気に入った人物。「幼い日の思い出の人に恩返しするためずっと努力してきた」というありがちなプロットではあるが、積極的にアプローチをしながらも素直に伝えられないところが愛おしい。
心が通じ合わないまま百合子をものにするバッドエンドがあるだけに、お互いの気持ちを伝えあったグッドエンドがより光っている。
斯波の個別ルートだけでなく、他ルートでも斯波と結婚するのがこのゲームの面白いところの一つ。世間体を保つために表面上だけ斯波と結婚しつつ、裏では他の男が本命の三角関係は当然うまくいかない。斯波の想いは本物だとプレイヤーはわかっているだけに、何とももどかしい思いをさせてくれる。
巨根の藤田が乳飲に夢中といった要素も淡々と文章で書かれるものだから、シュールギャグとして思わず笑ってしまった。本編と切り離されたおまけではモロにいじられるのだが。
秀雄は他ルートだとほとんど登場しないので「瑞人の入水自殺を伝えに来る奴」としての印象が一番強くなってしまった。
■悪い点
発売時期を無視した評価になるが、Windows 10で大画面にすると立ち絵のジャギーが目立つ。一枚絵でも百合子の髪の生え際などに違和感を覚えた。
背景も描き込みが物足りない。テキストで「豪華」と評されていても絵からは感じ取れないといったギャップがあった。
吉里吉里エンジン故に最低ラインは超えているものの、9×133の14ページが数字タブだけで分けられているので、目当てのCGを探しにくいなど、おまけが若干不便。