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nanitaroさんのあの空の向こう側の長文感想

ユーザー
nanitaro
ゲーム
あの空の向こう側
ブランド
high-soft
得点
90
参照数
153

一言コメント

よくある量産型泣きゲー…と思いきや、美少女ゲーでありながら事実上のトゥルールートがBLという怪作。ゲーム設定の根幹に関与しつつのしっかりめのBLは出色。美少女ゲー内のBLルートが好きな人にピンポイントでぶっ刺さる魂の作品である。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

私は美少女ゲーが好きではあるが、BLゲーも好きである。
なのでBL要素ありの美少女ゲーは大好きである。

一番好きなBLシチュエーションは
美少女ゲーのように、主人公♂に好意があるヒロインが多数揃っている世界にあって、
そういうヒロインの求愛・匂わせを振り切り、ただ一人の好いた男の愛を確かめに行く。
というものである。
見え見えの好意を見せてるヒロインを押しのけて男を選ぶ特別感!脳汁と♂汁がドバドバ。
なんともはた迷惑な趣味だと思われるかもしれないが、ただのBLゲーではこのカタルシスを得る事は叶わないので仕方ない。
本作のようなBL要素ありの美少女ゲーでなくてはならない。

美少女ゲーにBL要素を入れるとしても、本分は美少女なわけですから
攻略可能な男の扱いは男の娘オンリーゲーでもなければ、良くてサブヒロインと同格、たいていは即恋落ちシナリオで終わるおまけヒロイン扱い。
扱いが悪いと、取ってつけたようなギャグホモオチ要員だったり。

しかし本作は何を思ったか、ゲーム中重要な伏線回収を行うルートにBL(幸紀)ルートを充当するという、破格の扱いがされているのである。
幸紀ルートは演出上も特別な配慮がされており、エンドロールが唯一オンボーカル曲でなされ、エロシーンも他のヒロインとは違う独自曲が採用されている。
ここまでくると幸紀は「真のヒロイン」で間違いはあるまい。(幸紀は受け)


そして幸紀ルートはシナリオもちゃんとBLしててよろしい。
腐れ縁で下品な冗談も言い合える中だからこその、空気読みだったり、心配だったり、配慮だったり、気持ちのぶつけ合いを描いている。
本心の壁を高く築き過ぎてる美穂・さやか、交流期間が短い美沙・まどか・つかさに比べると、
主人公にとって幸紀は、設定上どのヒロインよりも気兼ねなく付き合える仲なのであり、
親友かつ恋人となり、真のヒロインに位置づけられるのも必然であったように思える。
幸紀は同性を愛することに対する葛藤が長らくあり、また過去に主人公が自身の約束より美穂の約束を優先させたことを根に持ってる描写があったりといじらしいこと可愛らしいことこの上ない。
主人公は主人公で怪我をした幸紀と介抱&悩みを聞いてあげている綾子先生に嫉妬にも似た感情を吐き出しているシーンが有る。

美少女ゲーでありながら真のヒロインとして男を選択し、
物語の根幹に関わる伏線を担わせるまでに重用している本作。

美少女ゲーのように、主人公♂に好意があるヒロインが多数揃っている世界にあって、
そういうヒロインの求愛・匂わせを振り切り、ただ一人の好いた男の愛を確かめに行く。

本作は私の野望をほぼほぼ具現化した内容と言ってよく、私のために作られたゲームなのではないかと思ったほどである。
注文をつけるとしたら、回想に幸紀が登録されないのはどういう了見なのか。
5人のヒロインルートで一応の伏線は回収されるのだけども、
不十分に感じたので後付で幸紀ルートを追加したけど、工数足りずということなのか。
幸紀が他ヒロインとともに描かれているCGはそれなりにあるが、幸紀CGと呼べるものはわずか2枚で全てエロCGである。
当初はただのおまけED扱いだったが、いろいろと筆が乗ってしまったのかもしれない。
それにしても、夜の公園で幸紀が主人公を抱きしめてるCGは欲しかったところではある。
後はエロが薄いことであるが…エロ薄めのお上品なBLと思えばまあ、納得の範囲内。

もはや叶わぬことではあるが、2004年の時点でプレイし、スタッフにその喜びを伝えたかった。
19年も積んでしまったのは痛恨の極みではある。