何度シナリオ規模縮小を強いられようとも、全攻略対象10人中4人のBLルートを死守した企画・原案担当、シナリオライターあるいはディレクターの意地と執念。プロジェクト開始から2年半。その不屈の精神は品質と引き換えに、男女両刀に最も近づいた商業美少女ゲームという極北を生み出した。なお、タイトル名のイメージに反して凌辱ルートの内容がきつい作品である。(この点は非常に少女漫画的)
「男の娘」というジャンルが定着した現在、攻略対象が全員男という美少女ゲームは珍しいものではない。
美少女ゲームという枠内で男を堂々とヒロインと呼称・攻略できるようになっている。
喜ばしいことである。私も男の娘大好きである。
だが、男の娘というのは男性向けに特化した存在ということもあって、大抵かなりに美少女に近い雰囲気である。
女性向けとされるBLとはまた違うジャンルなのである。
この作品が発売された2000年4月は、男の娘が発明されておらず、
商業BLゲームの市場も立ち上がっていない。
男同士を商業ゲームラインに乗せたければ美少女ゲームにねじ込むのが現実的だった、という時代である。
よくあるのはおまけヒロインとして、攻略対象の一人が女顔の優男というパターンだろう。
最たる例としては、つたえゆず氏と沢城利穂氏のコンビ(後に好きしょで名を馳せる事になる)は、
3作のオムニバス形式となっているBe-reave Primary(1999年9月)に「もう、待てないって!」というBL1作をねじ込んでいる。
どうしても商業でBLゲームを作りたいが、
それ一本でゲームとしてだす所まで踏み込めない、踏み込ませてもらえない鬱屈した情熱が
あの時代のBL要素有りの美少女ゲームとして具現化したのである。
多少なりとも美少女ゲームの作法・世界観と交じることで、純正BLゲームとはまた違った魅力を持ち合わせうるこの形態。
本作はそんなBL要素有りの美少女ゲームの一つである。
ただ、女性向けのBLゲーム市場が成立し、男性向け特化の男の娘も定着した現在にあっては、
この形態で出す必然性が失われている。
それでも尚、棲み分けの精神をぶちのめしてでも混ぜて出したい。
その強烈にして熱い情熱を、私は今も待ち望んでいる。
タブーを作るのが人間なら壊せるのも人間である。
私はドMだが、世間が堅守しているものを破壊し犯し尽くした時の快感もまた素晴らしい事を知っている。
本作は美少女ゲームでありながら、攻略対象キャラ10人のうち実に4人を男で占める両刀ぶりである。
それを男の娘という概念なしに、商業ゲームでやりおおせたのが本作の特筆性である。
性交シーンありに限れば女5人、男4人まで差は縮まる。(久美に性交シーンがない。裸体は見れる。)
美少女ゲームの男ルートはおまけ扱いが基本ではあるが、
本作においては、少なくともシナリオ分量では見劣りはない。
(何故分かるかというと、キャラ名毎の平文スクリプトファイルを見れるからである。)
CG数は女ルートでは概ね10枚以上確保しているが、男ルートは剛の10枚が最多とやや引けを取っている。
エロシーン数では毎月ほぼ盛っている剛がエンディング含め最多10を数え首位に立つ。
2位は瞳絵の6。こちらも10月以降毎月盛っている。
主にこの二人のおかげで、私は本作を抜きゲーと認識している。
ここまで男女平等を貫いた美少女ゲームも珍しいはずだが、いかなる背景があるのか。
シナリオ担当は瓏悠蘭氏。別名義でアダルト系声優もこなす剛の者である。
アーカイブに残る氏のサイトはショートストーリーをメインコンテンツとするもので、
男性向けと女性向けに区分けされているのが目につく。
両刀なのだ。
両方に通じているのは良いことである。
好物は多いに越したことはない。性癖は広く持とう。
そして本作を開発していた頃の日記を読むことができ、時系列も判明する。
・1997年12月頃 プロジェクト開始(1999年12月に3年目を迎えたとの事)
・その後なんやかんやで進展せず
・1999年12月14日 再始動。
・2000年2月1日 シナリオ全チェック終了(1回目)。雑誌取材もあったとの事。
・2000年3月11日 シナリオ全チェック終了(n回目)。
ここまでで何度もシナリオ削減を食らっており、「個人的に絶対削除して欲しくなかったものも削除」されたとの事。
フルボイスにすると2ヶ月発売日が伸びるらしく、発売日を優先した場合は応募者全員にCDを送付する事を考えていたらしい。
またこの時点でメーカーホームページは存在しておらず、近日中に作成予定。
・2000年4月21日 本作発売開始。
ホームページに関してはついに開設される事はなく、
オデッサプロジェクトの桜上水というサイトに画像一枚のみで作品告知されただけという有様であった。
少なくともアルバムモード未記録バグは存在するが、パッチを配布していた形跡は見当たらない。
本作はフルボイスであるが発売日はどう見ても2ヶ月も伸びていない。
更にシナリオを削減してフルボイスにしたのであろうか?それとも気合でなんとかしたのだろうか。
とても悲しくなる本作の裏側。
「業界初の、女性スタッフのみで作った18禁恋愛シミュレ-ションゲ-ム」
と銘打って発売した作品がこれじゃあ、あまりにも悲しいじゃないの。
瓏悠蘭氏曰く「個人的に絶対削除して欲しくなかったもの」とは何だったのか?
本作の初回盤には公式同人誌が付属している。
また、氏のサイトには4つのショートストーリーが掲載されていた。(うち1つは同人誌にも所収)
それを見る限りではあるが…おそらくは…
ガールズラブとボーイズラブ要素ありのシリアス系ティーンズラブ、というよくばりセットが本来やりたかった事なのではなかろうか?
(GLとTLとBLというのもまたタブーな組み合わせであり、私としては非常に燃えるものがある。)
それが出来ないから主人公を男にして美少女ゲームの文脈に仕立て直した、とまでいうと穿ち過ぎだろうか。
何故そう思うかというと、同人誌所収の作品がショートストーリーと漫画両方ともヒロイン目線であるし、
漫画の画風も少女趣味なものであるから。
瓏悠蘭氏が男性向けサイトで公開していたショートストーリーは、全て女性主人公で書かれている点。
そして主人公・祥の女ルートエロシーンでの攻めセリフはティーンズラブ的である。
可愛らしい祥のキャラがエロで一変するんですよ。男は狼なのよ。
「個人的に絶対削除して欲しくなかったもの」まで削除された本作のシナリオは
有り体に言えばスカスカであった。
全般にわたり、ダイジェスト版を見せられているが如きテキストの無さ。
分量があれば良いものでもないが、攻略対象10人いてスクリプトファイルの総容量が500KBほどである。
シナリオテキストともなると300KBほどであろうか。
ただただ予算と時間の都合で削減され続けたというタイムパフォーマンスを超越したシナリオはしかし、不思議と私の脳裏に焼き付いた。
無いなりに要点は押さえているからだ。特にBLのエロ方面が。
私が「物語の過程を重視するのがギャルゲ」「エロという結果を重視するのがエロゲ」という認識でいるところも大きいのだろう。
エロゲのシナリオというものは、最低限、エロシチュエーションのお膳立てができていればそれでいいのだ。
お膳立ての質・発想が良ければ、後は私の脳内が勝手に補完する。できるのだ。
剛祥で淫蕩にふける学園生活。可愛らしい祥は当然のように受け。そして緊縛、ミリコス、女装。
その果てに典型的な王子様キャラの剛を受けへ逆転させ喘がせるまでに成長する祥。
剛の喘ぎ声がもうたまらない。私も狼と化した祥に攻められたいものである。
いかにも弱気・弱体そうなキャラが、いかにも強気・大柄なキャラを攻めるギャップがM男的にツボですね。
あとは、女生徒が剛祥の仲を素直に祝福しているのが微笑ましくて変な声が出たりしましたね。
優希ルートでは、義母からの虐待から逃れるため優希が一人暮らしを始めるのだが、そこに入り浸る祥と英明。
親友の三人は当然のように盛りだす。
一つの住居内で、未成年男子だけがイチャイチャエロエロ生活するインモラル感ときたら。
祥の担任教師・雄耶は、少年の頃同性の親友に告白したら、気味悪がられトラウマになったという過去を持つ。
そのトラウマは、かつての親友を彷彿させるという理由で祥を苛める行為へと駆り立てる。
それをどうにかしようと体を張ってでも和解しようとする祥という構図。
シナリオの描写が後4倍、せめて倍ほどもあればと思うが、詮無きこと。
教師にあるまじき性的虐待を楽しむまでである。
祥の親友・英明を巻き込んで英祥ックスを強要させ奈落の底へ陥れる。
挙句の果てには錯乱状態に陥った雄耶が駅で裸の祥を駅弁で乱暴に犯す…これぞ「駅で錯乱暴」完!
駅=ステーション…さくらんぼう…さくらんぼステーション…タイトル回収である。
これでいいのか?企画原案担当の河合花菜氏。
心中、察するに余りありすぎる。
ちなみに本作のタイトル画面などでイメージされているピンク色の桜であるが、
さくらんぼを実らせるには、別種の桜と交配受粉させる必要がある。
そして一般に美味しくない。
なにかの暗示だったりするのだろうか。
かのような作品ではあるが、私は2000年の初インストール以来、
この文章を書いている時点で23年以上に渡ってメインPCにインストール状態を保ち続けている。
もちろんいまでも偶に「使っている」。
品質では測れない魂というものを、これほどまでに感じる作品は他にない。
瓏悠蘭氏のシナリオが万全な形で納品されていたらば…という思いは強い。
名作とは、必ずしも完璧な作品とは限らない。
プレイした人間の心に残り、メインPCにインストールされ続けたのだとしたら
それは名作以外何物でもない。
あまり内容にツッコミを入れているサイトが見当たらないので、
簡単にキャラごとの内容をまとめておく。
紘子:主人公・祥の幼馴染にしてメインヒロイン。祥の何気ない行動が好感度を上げる、
季節イベ完備の暗い展開なしバッドエンドなし王道学園恋愛ルート。
瓏悠蘭氏のサイトのショートストーリーでは、人に執着する事を恐れている紘子の姿が見える。
みんな等しく大好き、でいいじゃないのよと。
だが、祥とじゃれあう英明に嫉妬している自分を自覚。
それは祥への恋愛感情の自覚でもあった、という前日譚。
恵利子:最初は優希に片思いの男勝りなヒロイン。ちゃんと大事に乙女扱いすれば王道のハッピーエンドへ。
そうでなければ祥はクソ男の烙印を押される。恵利子は男性不信の上レズの道へ。
可愛らしいキャラの祥が、恵利子の制服以外のスカート姿を見て女の子だったんだと笑い、
着物姿を馬子にも衣装などと言い放つのである。ギャップがすごい。
あまりに言動が外道過ぎて、その反応にリアリティがあるかと言われたら微妙ではある。
もう少し、少しだけ傷つけるというか、
塵も積もれば山となる的なデリカシーの無さが表現できてればと思うところではある。
同人誌所収のショートストーリー「蠱毒」は恵利子主観のストーリーなのだが、
名前こそ出てこないものの、実質的には綾子の裏の顔の提示になっている。
ただ、蠱毒はゲーム本編の世界観との乖離があるため、ボツにされた内容を形にしてねじ込んだものかもしれない。
瞳絵:弱気なエロ担当。10月以降はエロイベントしかない。そこからは明るく元気にエロ一直線エンド。
幕が下りた舞台袖で本番衣装着たまま本番もやったりするが、
中でも2月の全身チョコデコレート瞳絵ペロペロは良い。
奥手な瞳絵も3月には立派なニンフォマニアに。
瓏悠蘭氏のサイトのショートストーリーでは、「人に嫌われるのが怖い」瞳絵の臆病な面が踏み込んで描かれている。
貴子:男嫌いのシリアス担当。父の後輩にレイプされた過去を持つのに、無思慮な祥にも犯される役回り。
心を閉ざした貴子の自殺を止めれるかどうかでエンドが決まる、という流れ自体は王道。
父の後輩と同じ罪を祥にも背負わせて…という意図はわかるが、如何せんシナリオがたりなさすぎた。
同人誌所収の「はじまり」は前日譚となっており、貴子の背景がより詳しく説明されている。
瓏悠蘭氏のサイトではベースとなったであろう貴子ショートストーリーがある。
信じていた人からレイプされ裏切られまくっても、どこか希望を捨てきれず死にきれない貴子が描かれている。
綾子:祥を偏愛するお嬢様。祥を射止めるためなら、実家の財力・権力を遠慮なしにぶち込む。
綾子がライバル視しているのは、英明と雄耶の二人。ヒロインは歯牙にもかけていない。
最初から祥への好感度がMAXへ振り切ってるのは、綾子自身とこの二人ということだろう。
雄耶のそれは恐ろしくねじ曲がってはいるが。
エンドは3つあり、逆玉の輿エンドとその失敗エンドは王道と言える範疇だが、
派手好きの綾子の好みを把握できていなかったり、合鍵を渡すなどして自分の全てをさらけ出す覚悟がないと、
綾子の意のままに操られる主人公クローンを製造されて、主人公自身はポイされてしまう。
理想と違うからクローンを作って愛する。深掘できてたら面白かったろう。
ゲーム本編では祥一筋の綾子だが、ショートストーリー蠱毒では久美以外のヒロイン全員を従えるレズ女王としての顔を見せている。
主人公の幼馴染・紘子をライバル視していないというのは、すでに飼い慣らしているから、ということか。
男を我が物にしようとしてる裏で女を囲うインモラルストーリー、見てみたかったものである。
久美:病弱教師との後味ビターなインモラルラブストーリー。
性交とハッピーエンドという甘えは有りません。
病室で、久美のベッドの下に祥を忍ばせて看護師の巡回をやりすごし、
二人で夜景を見るというインモラルかつロマンチックなイベントはあるのに、
そこから性交になだれ込まないという…。
英明:悪ガキなところがある幼馴染。祥の傷口に口をつけるなど、友情発愛情行・王道のBLイベントが並ぶが、
英明ルートではエロシーンが一切無い仕打ち。(純愛な英祥エロCGがない。)
また、先輩に絡まれた英明に対して、英明が忌み嫌う担任の雄耶に助けを呼んでしまうと、
以後半年に渡って不貞腐れ、周りを巻き込んで空気を悪くするという負の乙女心を見せる。
「くだらない」といえばその通りだけど、そこまで”祥への想い”が強かったのだと思うとそれはそれで良い。
優希:表向きは問題なさそうだが、実は精神を病んだ継母に(性的ではない)虐待を受けている同級生。
担任の雄耶に助けを求めてしまうと、やはりバッドエンドである。
祥の家に匿うと優希単独エンドとなるが、優祥なのか祥優なのかがわからないほど性交描写が無い。
ソーシャルワーカーに任せると、優希が一人暮らしを始めて、更に英明との3Pになだれ込む。
施設や実父(虐待を知らなかった)に引き取らせなかったソーシャルワーカーGJ。3PなのだがCGは英優のみ。
剛:強気なエロ担当。ルートに入って以降は5月と12月を除きエロイベントだらけ。
剛から強引に同性愛に引き込まれてからの、多少同人愛に悩みつつもエロ一直線エンド。
途中で剛祥から祥剛へ逆転。同軸リバではなく単に逆転である。下剋上は良いものだ。
雄耶:シリアス担当。英明と優希ルートでバッドエンドを招来する堅物教師…と思いきや、
愛憎入り交じった感情で生徒♂をレイプするヤンデレ淫乱教師である。
上で述べたように、同性愛への偏見を題材とした重いシナリオのはずではあるが、
それを語るにはあまりにもシナリオが削られすぎていた。
英祥の性交シーンは雄耶バッドルートでしか見ることが出来ない。