渦巻き作品の特徴である「物語展開主導型」のタイプの萌えゲーの例に漏れず,各ヒロインルートごとにストーリーを追うものと萌えで勝負するものがある。後者については中々に良く出来ていたとは思うが,前者については褒められたものではない。
ある御方が渦巻き作品について「物語展開主導型」の萌えゲーであると仰っていた。私なりに解釈するにその意味するところは,一本筋の通ったストーリーを根幹にして,それを追っていく中で可能な限りで萌えを回収していくタイプの萌えゲーであるといったところであろう。
このタイプの萌えゲーにおいては,物語に深く関わるヒロインほどストーリーの進行に尺が費やされる割合が大きくなるという特徴があるように思われる。ストーリーの進行のために必要な要素を各ヒロインでバランスよく回収出来れば良いのだが,実際にはそんなことは困難であり,物語上重要なヒロインとそうではないヒロインとが存在することがほとんどである。そのため,Aというヒロインでは要素の回収に2時間かかるが,Bというヒロインでは30分で済むといったような事態が発生することになる。各ルートごとに予めストーリー進行に割かれる大まかな時間が不揃いに決まってしまうのだ。その上で各ルートごとに萌えを付加していくことになる。
しかし,尺的に不遇なヒロインを生み出さないようにという配慮なのかどうかは分からないが,とにかく萌えゲー界隈においては各ルート間で尺的な差を生じさせないという不文律があるように思われる。そのため,この萌えの付加を各ヒロインで平等に行うことは出来ず,上述の要素を回収し残された時間で為されることになる。こうして物語上重要なヒロインほどルートに占める要素の回収の割合が大きくなるのである。
そして,当然のことながら,各ルートの出来はそれに占める割合が大きいものの出来によって大きく左右され得ることになる。それ故に,物語に深く関わるヒロインのルートの出来はストーリー自体の面白さに依る部分が大きくなるし,逆にそうではないヒロインのルートの出来は,萌え描写やイチャラブの出来によって決まってくることになる。以上が「物語展開主導型」の萌えゲーの特徴であると言えよう。
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さて,前置きが長くなったが,本作についての話題に移ろう。Justy×Nastyなど一定の例外はあるにせよ,渦巻き作品においてはトゥルールート制が採用されている作品が多く見られることからも分かるように,基本的には「物語展開主導型」の萌えゲーであるといえる。本作もトゥルールートが設けられており,散りばめられた設定を各ヒロインルートで回収していくという形で進行することから,この例には漏れない。そうすると,本作における物語上重要なヒロインとそうではないヒロインの振り分けの話になるのだが,まず,「鯨神のティアスティラ」という作品名からも明らかなように,鯨神であるリルは文句なしに重要である。また,その鯨神に仕える御使いの役目を代々受け継ぐ家系である湊月も重要な部類に入ろう。これに対して,鯨神との関わりが薄い真莉音と恵那はそうではないヒロインということになる。したがって,湊月ルートとリルルートについては,ストーリー自体の面白さが鍵となり,逆に真莉音ルートと恵那ルートについては純粋に萌え描写やイチャラブ描写での勝負となる。
そして,肝心のストーリーであるが,率直に言って面白くなかった。天州という島の内部での話ということでこじんまりしていたということや,ストーリー上中心となるのが御使いになるならないといった話や儀式の話といった盛り上がりにかけるものであったということがその原因であると感じている。そのため,そのあおりをモロニ喰らうことになった湊月ルートとリルルートの出来は今一つであったといえる。一方,萌えが鍵を握る他のにルートの出来は上々で,真莉音ルートはブラコン駄妹の可愛さを惜しみなく堪能することことが出来たし,恵那ルートは幼馴染特有のゆったりとした雰囲気のイチャイチャを味わうことが出来た。
したがって,本作をどのような方にお勧め出来るかと言われれば簡単で,真莉音と恵那推しの方は買いであるし,逆に湊月とリル推しの方は熟考された方が無難である。私自身は体験版をプレイしていないのではあるが,おそらく体験版をプレイされればキャラの把握は可能であると思われるので,ご自身がどのキャラを気に入るのかを確認されることを推奨したい。
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以下,各ヒロインルートごとにネタバレを抑えつつ簡単な感想を。
<湊月ルート>
上述の理由から,萌え描写やイチャイチャが薄くせざるを得ず,個別に入ってから湊月の可愛さが上乗せされることはほとんどない。大半の時間を大して面白くも無いストーリーの回収にもっていかれる。
えっちシーンについて言及すると,フェラスキーとしては許しがたい。パイフェラや69じゃなくて,完全に単独のフェラシーンを用意して欲しかった。
全体としては,最も不満が残ったルートである。
<真莉音ルート>
徹底的に萌え豚に媚びて終始イチャイチャしていたルートである。付き合う前は妹による徹底攻勢。付き合ってからは人前では恥ずかしがる妹が可愛いし,二人っきりの時は反動のようにデレデレになる妹がこれまた可愛いのなんのって。もう話なんてどうでも良くなるくらいの清々しいまでのイチャラブっぷりだった。本当にありがとうございます。
ブラコンな駄妹ちゃんなので,「春季限定ポコ・ア・ポコ」の藍や,「イノセントガール」の雛子,あるいは「ヤキモチストリーム」の沙那といったところが好きなお兄ちゃんであれば,満足できるのではないかと思う。
<恵那ルート>
リルが主人公と行動を共にすることが多かった共通こそ幼馴染力を発揮する機会に恵まれなかった恵那姉であるが,個別に入ってからの安心感のある空気はまさに幼馴染が醸し出すそれである。キャラ的には基本的に年上らしい包容力を見せるが,時折拗ねるなどの可愛らしい一面も見せる。幼馴染特有のゆったりにんまりするようなイチャイチャにそよそよボイスは最早凶器と言っても良い。年上幼馴染とのイチャイチャを楽しみたい方にはお勧めしたい。
<リルルート&トゥルー>
トゥルーが内容的にはリルルートの途中から分岐した話であり,実質的にはリルトゥルールートであるので,纏める。
物語上の要素の回収をトゥルーも含めて行っていることから,実際にはリルには他のヒロインの1.5倍ほどの尺が用意されているため,萌えについても一定のものはあり,強がったり,甘えたり,嫉妬したりと可愛いリルの姿を見ることが出来る。しかし,尺のほとんどを萌え描写につぎ込んだ真莉音ルートや恵那ルートに比べると,やはり弱いと言わざるを得ない。
ストーリーについては,トゥルーがさして盛り上がらないし,最後も「奇跡が起こった!」という適当な感じの締めなので,出来は今一つであった。
ただし,本作で唯一おしっこシーンを見ることが出来るのがこのリルルートであるということは特筆すべきことであろう。
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世界観・雰囲気 10/15
シナリオ 15/25
キャラクター 14/15
サウンド 8/10
グラフィック 9/10
システム 5/5
個人的補正 10/20
総合 71/100