非常にうらやましい「青春」劇を見せていただき,非常に満足している。これからはハニカム新書も安定になるか?ただ,流々は攻略させてくださいよこの野郎!
―残念だけどちょっとうらやましい恋愛青春劇
謳い文句に違うところのない,非常にうらやましい物語であった。
1 「恋愛」劇
本作の最大の長所は,キャラクターの素晴らしさにあるだろう。
熱血青春娘の「爽花」は,活き活きと放送部の活動に取り組み,見ているこちらまで楽しくなってくる。
駄妹2号の「七凪」は,クールさと毒舌が魅力的な,本家駄妹に勝るとも劣らない超絶残念ブラコン妹である。
ほんわかお姉さんの「南」は,本当は誰よりも放送部の仲間たちのことを考えている,ここぞというときには頼りになる先輩である。
駄幼馴染1号の「計」は,主人公拓郎の頼れる笑いの相方,いつでもハイテンションに場を盛り上げてくれる。
そんな彼女たちと拓郎がちゅっちゅする恋愛劇は,それはそれでうらやましい。
2 「青春」劇
しかし,私が本作で最もうらやましいと感じたのは,拓郎とヒロインたちのいわば「1対1」の恋愛劇ではなく,素晴らしい仲間たち「全員」で過ごす放送部での日々である。
4人のヒロインたちに加えて,ヤクザ顔な親友「修二」,駄幼馴染2号「流々」と共に過ごす放送部での日々は,常に笑いが絶えない本当に楽しげなものであった。しかも,ただバカやって過ごすだけではない。頼れる合法ロリ顧問「小豆」ちゃんを含め,皆が皆仲間のために本気になれる,一丸となれる,仲間のことを心の底から思いやれる。そんな居心地の良い放送部での彼らの「青春」が本当にうらやましかった。
そういう意味では,爽花ルートが私は結構好きだったりする。拓郎と爽花が未来視の能力を仲間たちに打ち明ける場面。普通ではこんな能力は考えられない。頭がおかしくなったと思うのがむしろ当然のことである。しかし,拓郎の仲間たちは,真剣な拓郎の姿を見てこれを当然のように受け入れる。このシーンは,彼らが一緒にいることが真の信頼関係の上に成り立っているということを象徴するものといえるだろう。
3 本作のメインテーマ
未来視という設定を使ったストーリー,そこかしこに挿入される豊富なパロディネタ,魅力的なヒロイン達との恋愛模様,と本作を構成する要素は多々あるが,本作のメインテーマはこの彼らが過ごす「青春」模様にあるといえるだろう。
いかなる物語においても,話を締めくくるラストシーンというものはその物語の主題を反映したものであるといえると思う。そう考えてみれば,ルートロックのかかった計ルートと爽花ルート,この2つのルートは明らかに主題が「恋愛」よりも「青春」に傾いている。爽花ルートのラストでは,離れてしまった爽花のために,仲間たち皆が電波に乗せて想いを届ける。計ルートのラストでは,「全員」とは少し異なるが,拓郎・計・流々の幼馴染ーズが互いを本当に強く思いやっていることがひしひしと伝わってくる。また,「あえて無視するキミとの未来」という物語のラストシーン。ハニカム文庫ではお馴染みであるタイトル画面の変化が,本作は放送部の日常の一コマを切り出したものとなっている。これらのラストシーンが,主人公とヒロインの「1対1」の関係を描写したものでなく,仲間たちの関係性を描いたものであったことは,本作のメインテーマが彼らの「青春」にあることを示しているだろう。
そして,「残念だけどちょっとうらやましい恋愛青春劇」という謳い文句。ここから読み取れることは,青春「恋愛」劇ではなくて,恋愛「青春」劇であるということ。「恋愛」はあくまで「青春」を形容するものである。恋愛要素はあるが,それは青春にアクセントを添える副次的な要素に過ぎない。本作の本質はあくまで「青春」劇にある。意図的なものかは定かではないが,「青春」がメインであるという意識が製作者になければ,このような形の謳い文句にはならないのではないかと思う。
未来視設定が十分に活かされていない,イチャラブ描写が薄い,とか諸々本作に対しては少なからず批判的な意見が出てくることが予想される。私自身もそういった不満がないわけではない。しかし,「青春」というメインテーマをユーザーに伝える物語としては十分にに完成度が高いと思うし,個人的にも非常に楽しませてもらった。
4 総括
とてもうらやましくも良い「青春」劇を見せていただき,非常に満足している。これまでミドルプライスのハニカム文庫は個人的に安定ではあったが,フルプライスのハニカム新書も変わらぬ安定感を持つことになりそうな予感がするので,今後も期待していこうと思う。
5 その他雑感
・一番好きなルートは計ルート。拓郎・計・流々の掛け合いが楽しすぎる。ひたすら最後までギャグテイストで突っ走るかな~とも思ったけど,最後らへんは三人の友情に不覚にもウルっときたし。流々が電車で去っていく一枚絵は,本作で一番好き。
・ナナギーが可愛すぎる。攻略キャラでは一番のお気に入り。これは,今年のMVI(Most Valuable Imoto)も見えてきたな。「1/2 summer」で一葉が攻略できなかったので,ゆきとんの妹が可愛かったのは嬉しすぎる。
・相変わらず,ALcotは華ちゃんの使い方が最高すぎる。そして,華ちゃんの演技も最高すぎる。
・本作最大の不満点,それが流々。なんで流々攻略できないんですかこの野郎!ナナギーが攻略キャラでは一番のお気に入りって言ったけど,本作の一番のお気に入りは流々だよ!某お嬢様学園との統合物で赤髪のあの子が攻略できなかったときくらいの絶望を感じた。流々ルートはよ!
・やはり原画家さんの間に差がありすぎるな。画力とかそういう意味ではなく,画風が違いすぎる。
世界観・雰囲気 13/15
シナリオ 21/25
キャラクター 13/15
サウンド 8/10
グラフィック 8/10
システム 4/5
個人的補正 10/20
総合 77/100