「いろとりどりのセカイ」ここに完結。
完全に不意打ち。やられた。
プレイ前までは、「よぉーし、真紅ちゃんと藍ちゃんとちゅっちゅするぞー」という感じの非常に軽いテンションだった。だって、OHP見てもムービー見てもごく普通のファンディスクだと思っていたんですもの。
しかし、前作「星空のメモリア」の「Eternal Heart」を完全に失念していた。良く考えれば、ここがただのファンディスクを出してくるわけないですよね。
多くの方が既に言われている通り、本作はFDという範疇に収まるものではない。完全なる続編。完結編。本作を抜きにして「いろとりどりのセカイ」を評価したとしても、それは正当な評価とはいえないであろう。「マブラヴ」の評価には「オルタネイティヴ」が必須ですよね?「BALDRSKY」の評価には「Dive2」が必須ですよね?それらと同一の次元で議論すべきほど、本作は「いろとりどりのセカイ」の不可欠の構成要素であり、その核心に迫る内容であった。
実際に、ここでの私の評価も、「いろとりどりのセカイ」の段階では78点(2012年9月10日現在)と、良いとも悪いともいえないもの。それが、「いろとりどりのヒカリ」をプレイ後では96点(2012年9月10日現在)まで上昇している。普通のファンディスクであれば、こんなことはあり得ないだろう。
1 完成されたセカイ
「セカイ」では、正直風呂敷を広げすぎた感が否めなかった。説明不足・描写不足だろうという点も多々あったし、登場人物にも謎すぎる、明かされない部分が多かった。総じて、「いろとりどりのセカイ」という物語は未だ完成していないという印象を受けた。
それが、「ヒカリ」をプレイしてみると、一気に解消される。世界の成り立ちという世界設定の根幹をなす部分も深く掘り下げられていたし、悠馬や藍、本物の悠馬(ユウマ)といった主要人物、更には、白や蓮、時雨や蓮也、果てはとおるといったサブキャラクター達まで、その背景や心情がこと細やかに描写されていた。
そうした掘り下げによって、「セカイ」の段階では世界や人物相互の関係がイマイチはっきりせず、練りこみ不足で雰囲気で押し切ったという印象だったのが、それらに実は様々なリンクがあり、関係があり、ようやく一つのものとして頭の中でつながった。作中風にいえば、ようやく「いろとりどりのセカイ」という物語が完成したといえるだろう。あまり多くを語ることはしないが、プレイしてみれば、練りこまれた設定や人物関係の新たな発見に驚かされることも多いだろう。作品の設定上、突飛な話や展開が無いわけではないのだが、一つの御伽噺の世界として見た場合、ここまで広大な世界観で、かつ緻密に練りこまれ、内部で完成している非現実の世界はそうそうお目にかかれるものではないと思う。
2 「真紅ゲー」からの脱却
そして、上で述べた登場人物の掘り下げに関連して、「セカイ」の段階では、良くも悪くも「真紅ゲー」である、というのが大方の意見であり、私自身も感想の中で「真紅ゲー」という言葉を使った。それぞれの人物の背景が薄い、言ってしまえば深みが無かったため、メインヒロインとして扱われ、かつ最も描写が多かった「二階堂真紅」というキャラクターに我々の意識が集中してしまうのは、あまりにも当然といえることであった。
それが「ヒカリ」ではどうだろうか。私自身の感想であるが、もはや「真紅ゲー」という印象は受けなかった。真紅は当然重要なキャラクターではあるし、果てしなく可愛い。しかし、そんな彼女も、「ヒカリ」の中では物語を構成する一人の登場人物という枠の範囲に収まっていた。他の登場人物たちの過去、そしてそれを踏まえた上での現在が数多く描写され、それに基づく行動の数々に感情移入する場面が多々あった。言葉に胸打たれることが何度もあった。端的にいってしまえば、真紅以外に意識をもっていかれることの方が多かったのである。
すなわちである。「セカイ」の段階では、未だ「二階堂真紅」というキャラクターに依存する「キャラゲー」の枠を出ないものであった物語が、「ヒカリ」の段階を迎えると、そこから一皮も二皮も剥け、この「いろとりどりのセカイ」という物語の結末と、そこに至る登場人物たちの想いの数々を目の当たりにするものへと変貌していた。「いろとりどりのセカイ」の感想中で、私は「別にヒューマンドラマではない」と評したが、本作は、我々現実世界を生きる人間からすると少し特殊な世界のお話ではあるものの、登場人物たちの生きる姿、想いの発露を描いた歴としたヒューマンドラマであった。
別にキャラゲーを卑下しているわけではない。しかし、登場人物たちのそれぞれの想い、言動を描いた作品というものは、やはり胸にくるものがある。
3 ライターのメッセージ
さらに、本作は、前編では明確には見えてこなかったライターの主張、メッセージがありありと伝わってくるものであった。
本作の登場人物たちは、その多くが過去に囚われている。意識的にせよ、無意識的にせよ。更には、自分の現在の人生にせよ、自分の魂が過去に生きた人生にせよ。許されたい、消し去ってしまいたい過去を抱えている。そこで立ち止まるのは簡単である。自分は駄目だと諦めるのは簡単である。幸せになる権利を放棄してしまうのは簡単である。
しかし、そこから一歩踏み出してみるのはどうか。どんな過ちを犯した者にも幸せになる権利はあるのだから。
悠馬は、いろとりどりのセカイで犯した過ちを。
藍は、遥か昔に大切な人を傷つけた過ちを。
蓮は、お母さんと仲直りできなかった過ちを。
時雨は、自分の家族や娘に対する過ちを。
蓮也は、大切な人を守ることができなかった過ちを。
とおるは、取り返しのつかない罪を犯した過ちを。
皆が、それを自覚した上で、あるいは無意識的に理解した上で、どうするか考える。どう生きるか思案する。そして、自分にとっての幸せを掴み取る。
私は、ここに、「失敗はしてもいい。大事なのはそれからどうするかだ。前を向けるかだ。」というライターのメッセージが込められているように感じる。
「誰かを勇気づける物語を書きたい。」とは、作中である登場人物が語ったことである。ライター自身も、本作を書くことを通して、誰かに勇気を与えたい、励ましたい、と考えていたのではないだろうか。
言葉は想い。想いはヒカリ。人々の心(セカイ)を照らす笑顔の魔法。私自身は、少なくともライターのヒカリによって勇気づけられ、力を得たと思う。
4 総括
「いろとりどりのセカイ」をプレイ済みの方には是非とも本作をプレイして欲しい。繰り返すが、本作によって、この物語は完結するからである。「星空のメモリア」よろしく、完全版が発売されたりするのであろうか。とにかく、多くの方に触れて頂きたい一作である。
5 その他雑感
・グラフィック面は安定の出来。さすがフェイバリット。個人的に笑顔を書くことにおいて司田氏の右に出る者はいないと思う。(^▽^)って感じのやつ。
・OP曲があまり印象に残っていない。まだ聞きこんでないからか。それとも「アレセイア」が強烈過ぎたからか。BGMは相変わらず雰囲気にマッチした素晴らしい出来です。
・あれ、おかしいな。「いろとりどりのヒカリ」のファンディスクが欲しいぞ。
世界観・雰囲気 15/15
シナリオ 22/25
キャラクター 15/15
サウンド 9/10
グラフィック 10/10
システム 4/5
個人的補正 17/20
総合 92/100