ういんどみるさん,10周年おめでとうございます。そして,素晴らしい作品を創り上げて下さったことに最大級の感謝を。
1 E-mote
「目は口ほどにものを言う」とは,よく言ったものである。
本作の新機能「E-mote」の最も素晴らしい点は,おっぱいがたゆんたゆんすることにあるのでは決してない。では何かというと,立ち絵に「目線」の概念が導入されることにより,キャラクターの感情の表現がより一層豊かになっている点である。
本作以前にも,立ち絵をコロコロ変えることで,キャラクターの感情を表現しようとする作品はあった。パッと思いつくところで,「ゆずソフト」や「クロシェット」の作品あたりは,この手の手法を積極的に取り入れている。しかし,これらの作品であっても,表情や身体の動きに変化をつけるにとどまっていた。本作は,これまでの表情や身体の動きに加え,「目線」に変化をつけることで,さらなる感情の表現を可能にしている。
人間が会話をする際,勿論相手の発言から得る情報の量は極めて多いのではあるが,相手の視線から得る情報量も決して少なくない。例えば,叱っているときに相手が目線を下に向けたら反省しているなと思うし,会話中に相手が目線を上に向けたら何かを考えているなと思うし,こちらが隠し事をしているときに相手がジッと目線を向けてきたら疑っているなと思う。
本作は,そのような「目線」の変化を取り入れることによって,これまで立ち絵が表現できていた感情の情報量を格段に増やすことに成功している。喋っているキャラクターの方に目線を向けることで真剣に話を聞いていることを表現し,キョロキョロ目線を動かすことで何かを探していることを表現し,あるいは目線を逸らすことで恥ずかしがっている様子を表現する。これらはほんの一例に過ぎないが,とにかくこの「目線」の導入によって,表現できる感情の種類・量は一気に増えた。
そして,感情表現が豊かになるということは,ユーザーから見てキャラクターが活き活きと映ることに直結する。抽象的な表現にはなるが,まるでキャラクターに命が吹き込まれたかのような感覚に陥る。活き活きしたキャラクター同士の掛け合いはとても臨場感があり,見ていて非常に楽しかった。本作のテキスト自体は正直特筆するほど面白いものではなかったが,キャラクター同士の会話それ自体を見ることが楽しくて,最後まで日常シーンに飽きることがなかった。これは従来の作品では考えられなかった凄いことであると思う。
加えて,「目線」というこれまで無かった概念だけではなく,表情や身体の動きの変化という従来のものについても進化がはっきりと窺える。これまでの作品の立ち絵変化は,立ち絵自体を切り替えているという感じであったのだが,本作では,笑顔になったり,頬を染めたり,首を傾げたり等の細かい変化が非常に自然で滑らかになっている。そして,これらの変化が会話の途中でコロコロ起きるため,相手の言葉にどのように感情が動かされているのかが手に取るようにわかる。例えば,私が一番印象的だったのは,洋輔に対して団長が「カッコ良くない」旨の発言をした瞬間に,それまで笑顔であった莉々子の表情が「ムッ」としたものになったシーン。このように本当に些細な一コマについてまで,キャラクターの感情の変化がわかるとなると,立ち絵による感情の表現としてはもはやこれ以上のものはないのではないかとさえ思ってしまう。
Emotional Motion Technologyという名前が与えられた新機能。その名の通り,感情表現の手段として全く文句のつけようのない代物であり,これについては惜しみない称賛を送りたい。もはやE-moteのない立ち絵では満足できなくなってしまいそうである。是非とも多くの方に,特にこれまで多くの作品に触れてきた歴戦の紳士諸兄にこの感動を味わってもらいたいものである。
なお,E-moteに関しては,dontiさんの感想に詳細な記述がある。E-moteの魅力を非常に的確に表現されているので,是非そちらを参照されたい。
2 シナリオ等
そういうわけで,どうしてもE-moteに注目が集まってしまうであろう本作ではあるが,それ以外の部分についても高水準であった。
まず,世界観について。外界とは一線を画したワクワクするようなテーマパーク。某「夢の国」をどうしても連想してしまうようなその世界は,初っ端から物語に引き込む十分な魅力を持っている。冷静に見ると,設定を練り切れていなかったり,無理があったりするところも無いではないように思う。しかし,私としては,そんな細かいことはいいじゃん,それよりも良い夢見ようぜ,っていう風に思う。むしろ,世界についての事細かな説明が随所に挿入され,雰囲気を削がれるような事態になるよりは余程良かった。
次に,個別ルートとヒロインたちについて少々。
○水澄,えくれあ
二人で一つのお話。いや,ルート自体は二人分なのだけれども。印象としてはまさに水澄とえくれあの絆を描いた二人のお話という感じ。話の都合上,どうしても洋輔くんが門外漢となり,あまり活躍の場が無かったために,盛り上がり自体は他の個別ルートよりは若干劣ってしまう。しかし,二人の間の絆の強さは心にくるものがあったので,お話自体は楽しめた。あと,本作で一番エロかったのは水澄先輩だと思います。
○莉々子
姉弟でもあり師弟でもある二人。厳しくも洋輔のことを本当に大事に思っている莉々子。そして,そんな姉を尊敬し信頼して,成長していく洋輔。そんな二人の関係が物凄く好きだった。水澄・えくれあのところで若干述べたが,魔法系のことに関しては全く知識のなかった洋輔は,専門的な話になると多少置いてけぼりになってしまうのが本作。彼にできることは,剣(本作の場合は盾といった方が良いであろうか)を振るうことと,好きになった相手のことを強く想うこと。そうであるから,騎士である莉々子のルートは,最初から最後まで洋輔がヒロインと「二人で」何かをする,頑張る,成長するという姿を見ることができる唯一のルートと言ってよく,また,二人が同じ騎士として一緒に闘うという一体感みたいなものもあって,非常に楽しめた。あと,あやりがナイトパレードで陰ながら二人の信念を守るために行動したシーンが凄く好き。
○涼乃
とりあえず,涼乃が可愛い。涼乃のような真面目な委員長系のヒロインはどういう風にデレるのかが個人的には大変気になってしまうのだが,まっすぐに好きという気持ちをぶつけてくるようになった涼乃のデレっぷりは想像以上だった。しかも,デレてからも涼乃の凛とした姿は全く失われず,魅力が全く損なわれることはなかった。そもそも,涼乃というヒロインは,幼いころから自らに厳しく,その責任を全うしようと努力してきた人間であり,その在り方は一人の人間としてとても好ましく思う。そして,そんな涼乃が洋輔やあやりをはじめとする新たな人間関係の中でこれまで自分には無かったものを学び,悩みながらまた一回り成長していく。涼乃ルートは,お話の内容云々よりも,そんな涼乃というヒロインを見ていることが一番楽しかった。クライマックスでは,洋輔と涼乃が共に闘い通じ合う姿が描かれていたし,最後には涼乃とあやりが一緒に幸せそうに笑っている様子を見ることができたし,大満足のルートだった。
○あやり
本作の個人的ベストルート。正直言って,あやりトゥルーよりも断然こっちの方が好き。莉々子のところで洋輔にできることは好きになった相手のことを強く想うことと述べたが,その洋輔の姿が最も出ていたのが本ルートであるように思う。記憶を失ったあやり,それでも洋輔はあやりを想い続ける。あやりに覚えていてもらいたいと行動する。それに心打たれ忘れたくないと思うあやり。しかし,無情にもあやりの記憶は再び失われる。それでも,洋輔はあやりを想い続ける。クラスを巻き込み,あやりのためにできる限りを尽くす。それはあやりの心に響く。そして,二人は結ばれる。そんな二人の想いが思い切りぶつけられている初Hシーンは恥ずかしながら感動してしまった。まさか体験版のあやりのHシーンがあんな感動的なものであったとは驚愕である。
そうして,二人の想いはさらに強いものへと変わっていく。洋輔は,あやりが忘れても何度でも好きにさせてみせるという決意へと。あやりは,「忘れたくない」から「覚えていたい」へと。結末はこうなるだろうと予想はついていた。それでも泣けた。確かに,想いさえあればどうにでもなるご都合主義という捉え方もできるだろうとは思う。でも,それでもいいではないか。二人が想い合って幸せになれるのであれば,こんな素敵なことは無いではないか。
あと,悠子さん。私は,あやりルートをやるまで,頭のどこかであなたのことを疑っていました。本当にすみませんでした。
○あやりトゥルー
これだけが,本作で唯一残念であったところ。最初の入り方から中盤までは緊迫感もあり非常に良かったのだが,ドラゴンが出てきたあたりからなんか雲行きがおかしくなった。案の定,ラストは若干首を傾げざるをえない締め方になってしまった。なまじ各個別ルートの出来が良かったために,それらとの対比においてもイマイチ感がある。
こうなってしまった原因の一つは,まず,設定の回収を意識しすぎてしまったことにあると思う。例えば,ウィッチと魔物とは何なのかという設定の回収のためにドラゴンを唐突に登場させ語らせることになったし,風城という都市の成り立ちを説明するために悟郎と正直あまり意味のない対立関係を生まなければならなかったし,悠子と蒔絵の過去について明かすために彼女たちをラスボスの位置に据えざるを得なかった。このように,設定の回収という目的を意識するあまり,お話やキャラクターの立場を複雑にしたり,あるいは唐突な展開を挟まざるを得なかったりしたのである。そうすると,やはりお話がゴチャゴチャして分かり辛いものになってしまう。しかも,それをラスト付近に集中させてしまったのでなおさらである。世界観のところで事細かな説明が無くてよかったと述べたが,個人的には,この部分についてもそれは同じく妥当することで,若干不明瞭な点を残したとしても,単純にスカッとした締め方にした方が本作にはあっていたのではないかと思う。例えば,ウィッチの元凶みたいなものを登場させて,それをみんなで倒して,あやりも普通の女の子に戻ってハッピーエンドとか。
次に,これは私の個人的な好みの問題ではあるのだが,誰かの犠牲の上で主人公とヒロインが笑っているようなトゥルーはあまり見たいものではない。特に,それが主人公側の人間であればなおさらである。やはり,みんなが幸せになってこそ後味良く終われるものだと思う。もしそのような終わり方にするのであれば,それが必要不可欠といえるような納得のいく理由が欲しい。
なお,一点断っておきたいことは,主人公またはヒロインの離別エンドのようなものがよく見受けられるが,その場合はここでは除くということである。なぜならば,そのようなエンドはほとんどが前を向いて歩いていく未来志向のものであり,決してアンハッピーエンドではないからである。
さて,本作では,ラスボスとして悠子さんが立ちふさがり,彼女を倒して風城を作り変えてエンドを迎えた。悠子さんは,洋輔とあやりが共に生きることのできる世界のために一人泥を被ったわけである。そして,悠子さんは言うまでもなく主人公側の人間であり,しかも,洋輔とあやりの最も身近にいた人物である。すなわち,トゥルーエンドは悠子さんという洋輔とあやりにとって大事な人の犠牲の上に成り立っているである。この結末で,二人は本当に心の底から喜びあえるのであろうか。そして,悠子さんを犠牲にしなければいけなかった必然性があったかというと,私には無いように思われる。悠子さんにも譲れないものがあり,二人との対立は避けられなかったわけではない。彼女が泥を被ることになったのは,二人が風城を変えることを正当化するためのいわば「形」だけのため。そのためだけに悠子さんを犠牲にするのは,安易であったといわざるを得ず,とても納得のいくものではない。例えば他に,風城市民全体を巻き込んで蒔絵を折れさせるとか風城らしいエンドも考えられたわけだし,もっと言えばそれこそ先述したウィッチの元凶を倒してハッピーエンドでもよかったわけである。
そして,最後の原因としてこれだけは声を大にして言いたいが,あやりは絶対に紅い眼の方が可愛い。金色の目はなんかこう小動物的なあやりの印象と今一つマッチしない。作中で洋輔が言っていたように,あやりはあやりであるわけなので,もしかしたら私のあやりへの愛が足りなかったのであろうか。個人的には,本作で一番好きなヒロインのはずなのだがなあ。
3 総括
あやりトゥルーに対して多少の苦言を呈しはしたが,全体としては大満足で,大好きな作品である。E-moteはエロゲにおける革命と言っても決して言い過ぎではないと思うし,ヒロイン達・サブキャラ達も大変に魅力的であり,お話自体もとても楽しめた。個人的には現時点での萌えゲーの最高傑作と言っても良い素晴らしい作品であった。ういんどみるさん,10周年おめでとうございます!そして,素晴らしい作品をありがとうございました!
世界観・雰囲気 14/15
シナリオ 20/25
キャラクター 15/15
サウンド 9/10
グラフィック 10/10
システム 5/5
個人的補正 15/20
総合 88/100