キャラゲーとしてレベルが高い作品だけに、マイナスイメージがついてしまっていることが非常に残念。
・桐谷華さんが好きな方へ
正直言ってたまらない。普通にヒロインを演じている作品と比べて何倍も華さんボイスが聞けるなんて嬉しすぎる。常に耳が幸せ状態です。内容の方も基本コメディタッチで描かれているので、華さんの魅力を存分に堪能できる。本当に楽しそうに演技しているもんね。「ガーン」とか「グサッ」とかそういうのを地の文にしないで敢えて華さんに言わせるというあたりも、わかっているなと。
もう華さん好きならそれだけで絶対にやるべき作品。といっても、華さんが好きな人はもう大部分がプレイ済みなのでしょうね。私がやるのが本当に遅すぎた。いや、前作の評判が余りにもあれだったということと、3月は「ドラクリ」と「&」があったので購入を見送らざるを得なかったという言い訳があるにはあるのですけどね。発売日に買っておけばよかったと激しく後悔。
・桐谷華さんが特に好きではないという方へ
至高の華さんゲーであるということはひとまず置いておいて、ここからはまとも(?)に感想を書いていきます。
メーカーさんとライターさんの間で問題が発生したことが大きく取り沙汰された本作。コンプ後他の方々の感想を拝見させていただいたのですが、このいざこざを取り上げているものが多数見受けられた。上の問題が本作に付加してしまったマイナスイメージがいかに大きかったかということの証左であるように思う。
しかし、私自身は、その作品にどのようなバッググラウンドがあろうが、製作者の手を離れ市場に出回ったのであれば、作品自体の善し悪しで評価されるべきであると考える。プレイ中に製作者側の問題等を意識する人はまずいないであろうし、仮に意識しながらプレイするとなれば、100%その作品と向き合っていることにはならないであろうからだ。怜奈ルート中で把虎が「無名作家と分かったらゴミなのか」という趣旨のことを言っていたが、まさにそれと同じこと。作品自体ではなく製作者側の領域にある問題によって作品の価値を決めようというのであれば、それはもはや作品に対する評価ではない。私自身としては、本作を十分に楽しめたし、粗が無いわけではないが、良くできた作品であると思う。それだけに、作品自体以外の部分でのマイナスイメージが作品自体の感想と混同し、評価が下方修正されているように感じる現状は大変残念である。
さて、前置きはこれくらいにして、作品自体の感想に移りたいと思う。
おそらく、本作を分類するとすれば、「キャラゲー」ということになろう(「キャラゲー」の私なりの定義については「DRACU-RIOT!」の感想を参照)。しかし、本作は中々珍しいタイプの「キャラゲー」であるように思う。
一般的に「キャラゲー」は共通ルートを通してキャラを立て、共通で見せたキャラの魅力に依存(と言ってしまうと若干言いすぎかもしれないが)して個別ルートを展開していく、というスタイルが多くとられる。分かりやすくいえば、共通ルートで我々を、この子が気になる、この子の話が見たいという気にさせて、それをモチベーションに個別ルートを読ませる、という形をとる。経験上、共通ルートで気に入ったキャラは個別ルートが終わっても好きなままであることが大半であるし、共通ルートでは全く気にならなかったキャラが個別ルートを終えた後にたまらなく好きになっているということはほとんどない。要するにキャラゲーにおいては共通ルートがある意味作品の生命線ともいえる役割を果たす。
本作は、OPムービーが流れる前に、全ての選択肢が出尽くし、フラグ立てが完了する。つまり、本作においては、このキャラゲーの生命線ともいえる共通ルートが存在しないに等しい。我々は各キャラに対して何も思い入れが無いフラットな状態で個別ルートに突入する。ライターとしては必然、このキャラが気になるという我々のモチベーションに頼ることはできなくなり、また、個別ルート中でキャラの魅力を描ききり、ルートが終わるころには我々にキャラを好きにさせる必要がある。個別ルートに求められる質は、一般的な「キャラゲー」に比べて一枚も二枚も上のものが求められよう。
本作のライターは、この高いレベルの要求に見事に応えたと思う。本作のヒロイン達は、自分の行動の芯ともいえるべきものを持っていて、それを軸に話を展開させることで、単なる恋愛対象の女の子としての可愛さとかそういう類の魅力にとどまらない、人間としての魅力が見受けられた。ああ、この子可愛いな、と我々が悶えるだけでなく、頑張っているこの子を、悩んでいるこの子を、恋愛とかそういうものを度外視して応援したい、とそういう気にさせられた。いくつかのルートでそのように思うことは往々にしてあることだが、全てのルートでヒロインの人間的な魅力に触れられるというのはそう多くない。実際、プレイ中にキャラの可愛さやイチャラブに悶えるということはまるで無かったのに、気がつくと、フルコンプ後には全てのヒロインが好きになってしまっていた。そのようなキャラ設定、ストーリー構成がなされていた本作のシナリオは、「キャラゲー」のシナリオとして非常にレベルが高かったと思う。
以下、個別感想
<怜奈>
本作の表のメインヒロイン。パッケージヒロイン。お嬢様。
お嬢様らしい気品や立ち振る舞いは感じるが、全然タカビーには感じない、好感が持てるキャラ。
そんな彼女の芯は、まっすぐさ、誠実さ。
自分がやろうと決めたこと、正しいと思うことにはとことん突き進む。それが空回りすることもあるが、その姿は周囲の登場人物を、そして、我々さえも惹き付ける。
彼女の個別は、全個別の中で信の正体に気付くタイミングが最も遅い(というか、ほぼ最後まで気づかない)。そのため、性別云々の垣根を越えて、信を一人の人間として好きになるという純愛性が強く感じられた。
全個別の中でシリアス色が最も強い。というか、他の個別は基本的にコメディタッチで描かれているため、はっきり言って作品中で異彩すら放つ。この点をどう受け取るかは人それぞれであろうが、私個人としては、作品性を害するようなものでない限り、毛色が異なるルートを織り交ぜることは、良いスパイスであると思う。
唯一残念なところは、把虎の作品を前にすると、常に天秤がそちらに傾いてしまうところ。周囲の人間を大事にする人物であるだけに、把虎の作品を交換条件に出されるとすぐ心が動いてしまうのは、キャラ性を貫徹できていないように感じる(これも一つのキャラ性なのかもしれないが)。
<千晴>
他人を優先して考え、他人のために尽力する性格。
一見冷徹に見えるが、実は悪人の事情まで考えてしまうような優しさの持ち主。
そんな彼女の芯は、周囲の人間の幸せ。
自分自身はどうなろうと、護衛対象である怜奈はもちろん、自分の周囲の人間を身を呈して守る。そのせいで、怜奈と信の関係に苦しむ。身を引こうとする。そんな彼女にだからこそ、時には自分自身の幸せをつかんでほしいと思う。
実は、作品随一の萌えキャラ。普段のクールな印象と、デレたり落ち込んだりした時の差が激しいギャップ萌え。
個別の最後はもう少し演出を頑張ってほしかった。文字だけでは良く伝わらないと思うので、CG等何らかの工夫をしてほしかった。
<アナスタシア>
このお話には犯罪となるべき行為が含まれています。美人でスタイルの良いお姉さんに誘惑されたとしても良い子の皆さんは絶対に真似しないでください。
一番意外性が強かったルート。まさか、アナスタシア先輩にそんな秘密があろうとは。女装と窃盗がいつばれるかという二重のドキドキ感……はあまりなかったですね。まあ基本コメディ調ですし。
ロシアンマフィアの娘として生きてきた彼女。組織の中にありながら、大好きな芸術のために孤軍奮闘する信念。それが彼女の芯。自分の目標のためならどんなことでもする。アートが大好きでありながら、作品の名誉のため、穢れた自分は一切作品を所持しない徹底ぶり。そういった姿には、強さを感じるし、同時に寂しさも感じる。
内容自体は面白かったが、信が絵を描く、把虎が最後に助けるというラストの展開が怜奈ルートとほぼ同じ。差異化を図った方が良かったのではないかと、そこは残念。
<幸>
最初は天才肌の変人なのかと思ったが、そんなことはなく、人一倍周囲を考える心優しい子。私が本作で一番好きなヒロインです。(外見がロリだからとかそういうわけではないです。一応。)
自分を大事にしてくれた人への感謝、恩返しが彼女の芯。
辛い過去や境遇を表に出さず明るく振る舞い、陰で頑張るタイプ。
信主導ではなく、自分の力で問題を解決したという、作中で一番頑張ったのは彼女ではないかと思う。大勢の前で自分を見せることを苦手としていた彼女が、最後の鳳后賞のステージで立派に弁を唱える姿は、非常に感銘を受けた。やはり、小さい子が頑張っている姿というのはなぜか胸を打つものがある。(ロリコンだからとかそういうわけではなく。)
唯一涙したルートだし、ENDも綺麗だった。個別の出来としては一番良かったのではないかと思う。
あと、最後のエロシーンは雪都さお梨に「お兄ちゃん」って言わせたかっただけだろ!最高!
<紫月>
本作の裏メインヒロイン。この子のルートをやった後では他のヒロインのルートはもうやれないレベルのラスボス。設定が卑怯。
彼女の芯は単純。信の幸せ。それが唯一の行動原理。
本当に一途に信の幸せだけを考え続ける。自分の個別だけではなく、他の個別でも。例えどんな手を使おうと、どんなふうに周りから言われようと、十数年も一途に信を探し続けた。信と再会を果たしてからも、信にどんな態度をとられようと、諦めない。
数いる幼馴染キャラの中でもこれだけ純粋な子は珍しい。「いつか、届く、あの空に」の此芽や、「きっと、澄みわたる朝色よりも」のひよとかと比べても遜色ない。(そういえば、どちらも朱門か…)
キャラは非常に素晴らしかったが、シナリオがイマイチ。結婚云々とかは若干茶番臭がした。表のメインヒロインの怜奈ルートと比べてあまりにもシリアスさが足りなかったのが問題だったのか。彼女の設定を活かすのであれば、やはりシリアスめにすべきであった。
あと、シナリオで最も残念だったのが、それだけ強く信を想っていた紫月だが、信をなぜそんなにも強く想うようになったのかという点がどうも不明瞭。二人の過去のエピソードとして、最後の最後で申し訳程度にベンチに並んで座っている姿が描かれるのみである。紫月が信を強く想っているということを前提として物語は紡がれるが、紫月の行動原理の核となる部分であるので、やはり前提として省くのではなく、丁寧に描かなくてはいけないだろう。
<その他雑感>
・幸と紫月の登場場面が少なかったのが残念。烏丸側だから仕方ないのかもしれないが、好きなキャラであっただけに、もう少し絡ませてほしかった。
・絵は綺麗。特に塗りの力が大きい気がする。
・サウンド面は、ボーカル曲、BGMは特筆するべきものはない。CVは神。
・私だけかもしれないが、初回の起動がアプリケーションからでは上手くいかなかった。あと、起動設定を次回から表示しないようにすると、画面設定等をそれ以降いじれなくなるのは改善して欲しい。総じて、システム面に改良の余地あり。
・FDではあきえもん攻略できるんですよね?
世界観・雰囲気 13/15
シナリオ 22/25
キャラクター 14/15
サウンド 8/10
グラフィック 8/10
システム 3/5
個人的補正 13/20
総合 81/100