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nanachanさんのはつゆきさくらの長文感想

ユーザー
nanachan
ゲーム
はつゆきさくら
ブランド
SAGA PLANETS
得点
98
参照数
2106

一言コメント

四季シリーズを締めくくるのにふさわしい傑作。

長文感想

 全ての要素において言うことなし。まごうこと無き神ゲーでした。若干悲しい気はしますが、自分の中ではこれ以上の作品はもう出ないんだろうなと思ってしまうレベルでした。

 肝心のシナリオは、まず内容面は、言葉足らずですが、とにかく素晴らしかったとしか言えない。エロゲやってきてこんなに泣いたのは初めて。桜、希ルートはなんか気づいたら涙がズボンに落ちていて濡れまくっていたし、その他の個別も総じてレベル高かったです。シロクマだけは物語の構成上あおりを受けちゃった感じですが。
 それだけではなく、キサラギの感想でも書いたような気がしますが、引っ張り方が本当にうまかった。全部終わった後に、「うん、いい話だったな」ってなるだけではなく、読んでいて楽しいし先がすごく気になりました。伏線の張り方、謎を明かす分量・タイミングが絶妙ですね。どうすればプレイヤーを最後まで物語に没頭させることができるかということがよく考えられています。この点はクリエイター側の自己満足になっていないという意味で非常に評価に値すると思います。

 四季シリーズの締めくくりにふさわしい作品だったと思いますし、その点を物凄く意識して作られているとも感じました。台詞とかキャラクターとか曲とか、過去作のものが結構登場します。四季シリーズのファンであればニヤリとできたり、無性に嬉しくなることも多かったのではないでしょうか。個人的にも「bumpy-Jumpy!」が流れたり、ふーりんの「ちゃー」とか、夜が羊の伝説的な歌?である「先輩はネコが好き~」をもじってくれたのとか、もうたまらなく嬉しかったですね。

 さて、本作の軸はOHPとかでも、そして作中でも何度も言われる「卒業」だったわけですが、この軸に乗せて新島さんが書きたかったものは、おそらくナツユメの歩ルートと同じだったのではないかと思います。すなわち、「決別」と「未来」です。恥ずかしながら私のナツユメの感想の一部を引用すると、「確かに歩がこれから歩む未来に渚はいません。その意味では、彼女の未来はつらいものになるかもしれません。しかし、それでもこれからの人生を生きていかなければいけない彼女にとっては、渚の死を受け入れ、成長することができた結末は最良のものだったのではないでしょうか。」と書いていました。歩が渚と「決別」し、渚のいない「未来」を歩んでいくという姿が歩ルートの主題だったといえるでしょう。本作では、いずれのルートも、主人公、ヒロイン、またはその両方、あるいはそれ以外のキャラクターもという違いはあるにせよ、何らかの過去や自分の大切なものと「決別」し、これからの「未来」を生きる姿が一貫して描かれています。その意味では、新島さんが本当に自分の書きたかったものを全力で我々にぶつけてきたのが本作であるように感じました。

 「決別」と「未来」がテーマとして描かれているため、本作は主人公とヒロインが結ばれてめでたしめでたし、とはなっていません。ただ、私はだからといって本作が救いのない物語だとは思いません。残された者が輝かしい「未来」を歩んでほしい、という想いからくる「決別」はいわば前向きなものであり、残された者もそのような想いを受け取り前を向いています。誰もが認めるハッピーエンド、大団円ではないにせよ、彼らに与えられた物語の結末としては、救いの形の一つといえるだろうし、納得のいくものでした。そして、この「決別」と「未来」があったからこそ心に残る作品になったのではないかと思います。

 サガプラネッツさんの四季シリーズはひとまずこれで「卒業」を迎えるわけですが、シリーズを通した感謝をここに記すとともに、次回作以降も期待したいです。そして、この素晴らしい作品に多くの方々が触れていただけるといいなと思います。

世界観・雰囲気 15/15
シナリオ 25/25
キャラクター 15/15
サウンド 10/10
グラフィック 9/10
システム 4/5
個人的補正 20/20
総合 98/100