それは終わらない夏の物語
世界観・雰囲気 15/15
シナリオ 24/25
キャラクター 14/15
サウンド 10/10
グラフィック 9/10
システム 4/5
個人的補正 24/20
総合 100/100
文句なしの神作品。純粋なノベルゲーとしては今までプレーした中で最高傑作といってもいいです。
まず、世界観ですが、クリアする前でも学園+ファンタジーという個人的にどストライクでよかったのですが、このゲームのすごいところはオールクリア後に改めてその世界観について考えさせられるところですね。ただの雰囲気のいい非日常学園物ではなかった。しかもその世界観がどこにも矛盾を生むことなく作られています。素晴らしいの一言。
キャラクターも外れが全くない。全員魅力的で、個別ルートを進めるのが非常に楽しかったです。
テキストも決して爆笑させるものではないのですが、テンポが良く、学園生活を飽きさせることなく描けています。音楽も物語をうまくひきたてていますし、CGも物語と非常にマッチしています。
そしてシナリオですが、各個別ルートは単体で見ても高レベルでまとまっています。特に羊ルートは感情移入度が素晴らしく、何度も泣かされました。伏線とその回収も見事で、非日常だと思わせて実は思いっきり日常系というミスリードも魅せてくれました。(まあ、大樹が願いをかなえるところについては非日常ですが)個別ルートだけでもなかなかに高評価できると思います。それだけにとどまらず、オールクリア後に個別ルートについてさらに考えさせられることになるとは……。気になった点については後述します。
グランドエンディングのナツユメルートはもう感動モノでした。最後のほうはずっと泣いていました。終わり方については純粋なハッピーエンドではないので賛否両論があるみたいですが、個人的にはいい結末だったかなと。あのラストも救いの一つの形だったと思います。確かに歩がこれから歩む未来に渚はいません。その意味では、彼女の未来はつらいものになるかもしれません。しかし、それでもこれからの人生を生きていかなければいけない彼女にとっては、渚の死を受け入れ、成長することができた結末は最良のものだったのではないでしょうか。
色々書きましたが、シナリオ、音楽、グラフィックなどすべての点が高レベルの傑作です。特にシナリオについては純粋に感動できるし、それだけにとどまらない良さも持っています。エンドの都合上、万人に自信を持ってお勧めすることができるとは言いませんが、それでもプレイの価値はあると思います。
シナリオで気になった点(考察)
①夢の世界での個別ルートのENDをどう理解するか
作中にはっきりと示されているわけではないのですが、ヒントは提示されているので、おそらく制作側はこの点まで意識してシナリオを練ったのかと。
・つかさEND
プレイ中に思ったのですが、なぜエピローグに渚が出てこなかったのか、そして、なぜ常夏の島に雪が降っているのか。これは、オールクリア後に謎が解けます。ナツユメルートで明らかにされた、歩の夢にとらわれていた少女たちが現実世界へと帰って行ったという事実からするに、エピローグは現実世界での出来事なのでしょう。そう考えると上の疑問点に説明がつきます。
・はるかEND
この夢を見ているのはおそらく有田=アリアであるのでしょう。なぜなら、彼女が自分の生とそれと引き換えにした母親の死という二律背反をもっていた、すなわちロビンソン症候群にかかっていたと考えられるからです。その彼女が自分の両親と同じ境遇にあった渚とはるかのわが子に対する思いを感じることでロビンソン症候群を克服したと考えるのが最も筋が通るかなと。そして、おそらくはるかという人物は現実には存在せず、有田が生み出したNPCではないかと。エピローグに関しては難しいですが、現実世界での過去の話だとすると、現在の時点で有田がロビンソン症候群であることが説明できないので、夢の世界での渚とその子供ではないかと思います。有田はこの親子の幸せそうな姿までを含めて見て、自分の存在を肯定できたのでしょう。
・羊END
これも微妙なところですが、夢の世界での続きではないかと思います。羊もこのエピローグ部分まで含めて救われてロビンソン症候群を克服したのでしょう。理由としては、羊が一緒にいる先輩が渚でなかったら悲しくなるから、という願望ですが。まあ、視点が男のものなので、他のだれかよりも渚ととらえるのが自然だろうとも。羊は夢で渚と過ごしたことを覚えて現実世界に戻り、自分にも心から優しく接してくれる人がいると信じ生きていくのでしょう。ただ、羊に対する救いという点で見ると、現実世界で渚以外の人と暮らしていると考えるのが最も良いかもしれませんが。
・真樹END
これだけは夢の世界でのお話だと見ればわかります。
②ヒロインたちはどのタイミングで現実世界へと戻るのか
大河内が夢と現実を往復し、そのたびに因果関係を確かめていたことから、彼女たちが一斉に帰るのではないでしょう。救いをもたらされた時点で一人ずつ目を覚ましていくと考えるのが自然かな。では、帰ってしまったヒロインが夢の世界にいることの説明はどうつけるかというと、おそらく帰ったヒロインはNPCとなるのだと思います。ただ、つかさルートでの羊は明らかに感情を持っているので、つかさ→はるかor羊という順番になるのかと。クリア順に反する場合も出てくると思いますが、そこは夢の世界での出来事なので、プレイした順とは必ずしも一致する必要はないと考えることができると思います。帰り方としては、大河内の「夏を繰り返す」という発言と、有田・羊について、夢の世界で一定の時間経過があると考える整合上、ある段階でヒロインは歩の夢から切り離され、それぞれ個別に夢を見た後に帰ることになるかと。そして、切り離された、もしくは一定時間が経過した段階でループが発生することになるのだと思います。
③ヒロインたちは渚を覚えているのか
羊ENDでも若干ふれましたが、おそらく覚えていると思います。理由としては、ロビンソン症候群に救いをもたらすという設定上、渚によってもたらされた救いを覚えている必要があること、ある時点でヒロインたちは歩の夢から切り離され、個別に夢をみると考えるため、歩が夢を覚えていないという事実と並行して考える必要がないことがあげられます。
まだまだ考察すべき点は多々あると思いますが、パッと思いつくのはこのくらいです。細かい設定をどう解釈するかについてはプレイヤーにゆだねられている面がありますので。しかし、いずれの点もこのように矛盾なく説明できるようにはなっているのではないかと考えます。