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nagi_lc3さんの終のステラの長文感想

ユーザー
nagi_lc3
ゲーム
終のステラ
ブランド
Key
得点
83
参照数
464

一言コメント

人間とアンドロイドの絆を描く、王道的なストーリーであり、演出、グラフィック、音楽、そしてシナリオが見事に高水準でまとめられている。しかし見方を変えれば、使い古されたストーリーでもあり、こういった作品に触れていれば触れているほど、感動が薄くなってしまうように感じた。それでもロープライスにおいては破格の出来であり、文句なしに良作と言えるような作品。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

〇内容
まず特筆すべきはグラフィックに関して。CG1枚1枚のクオリティが高いのはもちろんだが、なによりもその量が多い。ロープライスとは思えない程の多彩な背景やCGが、世界観の説明や作品に対する没入感を高めていたように思う。

次に音楽。個人的にOP曲が凄く好きなのでプレイ前から滅茶苦茶聴いていた。残酷で過酷な作品世界を表すような歌詞と疾走感のある曲に加え、非常に耳に残り安くてキャッチーな「滅びてゆくこのステラ~♪」が良いんですよね~(早口(メガネクイッ(クチャクチャ

閑話休題

この作品のキモとなるシナリオについて。
さすがはベテランの田中ロミオと言えるようなシナリオで、要所要所でしっかりとポイントを押さえおり、最後まで飽きることなく読み進めることができた。現実主義者の冷めた主人公と純粋無垢で意気衝天なアンドロイドの少女が、過酷な旅を通してお互いに成長する。この"お互い"というところが非常に肝心で、どちらが一方のみの成長であったならばここまでの作品になっていなかったように思う。
特に上手いなと思ったのが、ジュードが公爵を命を賭して殺害したこと。物語前半の廃墟内で「親は自分の命を賭してでも、子供の命を守るもの(要約)」、「親が子供の命を守るのは本能によるもの。それでもほんの少しは純粋な愛によって自身の命を投げ打ってでも誰かを守ることもある(要約)」というお話があった上でのジュードのあの行動。終盤で仕事と愛情の間で揺れ動いていたジュードの心がフィリアへの愛情、つまり父親から娘への"本物の愛情"に定まった瞬間があの結論を導き出した。フィリアに撃たせていたらジュードは死ななかったとかいう感想書いてるアホがいたけど、娘に人を殺させようとする父親のお話を読みたいか?というかフィリアが撃てる状態であってもジュードは自分で撃っていたはずである。なぜなら彼はフィリアの父親だから。そこにそれ以上の理由付けは必要ないはずである。

しかし一方で、(特に後半に)不満点もいくつかある。
まず一つ目はデリラの扱いについて。わざわざ公式サイトに立ち絵付きで紹介されているのだから、しばらくは一緒に旅をするのかと思えば、Capterの終盤であっけなく破壊される。それについてはまだいいとしても、その後のデルラの父親との関係性についても、公爵とデルラの発言が食い違っており、結局どちらが正しいのか分からずじまいで中途半端に終わっている。おそらくは公爵の発言が真実なのであろうが、もう少しデルラに関して活躍の場を設けても良かったように思った。成長したAe型の個体は目が赤くなること(ロボット原則を無視して人間を殺害できる)を説明するだけの登場人物として終わって欲しくはなかった。

次に、国際宇宙ステーション(ISS)に似た半重力空間での公爵の扱いについて。公爵と対峙する直前にアンドロイドの解体された実験室を描写することで、公爵を殺害することへの罪悪感をプレイヤーから少しでも減らす目的があったのかもしれないが、少し安直すぎるように感じた。ここもデルラと同じような問題点で、もっと公爵に対する描写を増やしてバックグラウンドを説明して欲しかった。その結果を以って、ジュードの判断と公爵の善悪をプレイヤー自身に委ねるような形にすればもっと評価できていたのかもしれない。
少し話はズレるが、作中でジュードが「公爵もフィリアを生贄にすることに罪悪感を感じているのかもしれない(要約)」と考察していたことはおそらく正しかったのだと思う。理由としては、いつでも殺せたジュードをあえて生かしていたこと、ジュードから銃を向けられた際も体内のナノマシン以外の対策を講じなかったこと等が挙げられる。彼もいくらアンドロイドとはいえ、人間に限りなく近い"自我"を持った存在に永久の生き地獄を味合わせることに対して負い目を感じていたからこそ、最後の判断をジュードに任せていたのではないか。実際に打たれた際の公爵は、自身の夢が実現しないことに対して、そこまでの未練が感じられなかった。しかしながら、"生涯の夢"と語り、人類の復興に数百年の歳月を捧げてきた、妄執とも呼べる夢をそんなに簡単に手放してしまっていいのかという違和感もあったことは否めない。

最後に、余命宣告された後の旅について。すごく簡単にダイジェストで流されていたのが本当にもったいなかった。ここをもっとしっかりと描写して、"父親と娘"という関係性をプレイヤーに刷り込ませることで最後の別れの場面がより感動できたように思う。その辺りの泣きの要素がKey作品としてはぬるいなと感じてしまった。まあシナリオライターが外注の田中ロミオであったことやディレクターが新人?なのも要因だろうが...。

特に後半の尺不足を残念に感じたので、ロープライスではなくミドルプライスやフルプライスで出して欲しかった(´;ω;`)


〇総評
一言感想に書いてあるように、良作ではあるもののそれ以上の作品ではないという感想が正直なところ。王道なストーリーをしっかりとまとめられてはいるものの、そこに独自性や驚きはなく、予想される通りの展開が続いていく。どこかで読んだようなありきたりな展開であるため、そこまで感動できなかったプレイヤーも多いように思う。しかしながら尺等のコスト問題もあり、この辺りがロープライスの限界なのかもしれないと思った。世界観や設定が非常に好みであったため、是非ともフルプライスでプレイしたかった。

それでは最後に、「終のステラ stella of The End」の副題より、この言葉で締めたいと思う。

Even if humanity dies, the machines we have created will inherit our love and create the future.





〇アフターストーリーブック「Diary of a Faint Hope」
本編の直後のお話というわけではなく、本編から数年後、数十年後?(正確な時代は不明)のお話である。その上、語り手は新規登場人物で、その人物の死に際の回想という形でフィリアが描かれる。本編とは打って変わって、一人前の運び屋としてたくましく成長したフィリア。語り手ではなく、フィリアに焦点を当てると、不老故に共同体に長期間属することができない、時間の感覚が人より早い、ペットの機械を除いて基本的に一人で行動するなど、孤独と言えるような描写がたびたびある。本編でのジュードから受け継いだ知識や経験を活かし元気に生きている一方で、一人ぼっちのフィリアがどこか寂しそうで、喜びの中にもほんの少し悲しさを含んだ、そんなほろ苦い内容になっていた。


〇余談
ディレクターの人がツイートしているNG原画とは、デルラの破壊されたCGのことだろうか...。
(https://twitter.com/sayuki_acp/status/1625467435989217280)
確かにかなりマイルドに表現されていたように思う。

その他、原画の人が続編か何かが出ることを示唆しているようなツイートがあった。
(https://twitter.com/_SWAV_/status/1604087096935059456)
本編はとてもきれいに終わったのでこれ以上を描くと蛇足になりそうな気がするのだが、いったい何が発表されるのか、楽しみである。