パステルチャイムである必要性も、SRPGである必要性も感じられない。
細かい不満点はいくつもありますが、このゲームに低い評価を下している他の方々と概ね同意見ですので、
一つ一つ触れていくということはしません。
まず言いたいのは、ぱすチャシリーズとして出した意味がわからないということ。
私のぱすチャシリーズ過去二作品に対する印象は「良質なファンタジー学園物」であり、
ゲーム性や周回プレイの点で難があるものの、学園描写や恋愛描写、クラスメイト・教師陣との交流など
読んで楽しいADV+育成RPGゲームというものでした。
それに対しこのパスチャ3は、上に挙げたような過去作の長所が死んでしまっています。
学園描写やクラスメイトとの交流の描写は薄く、特にサブキャラの扱いはひどいものがあり、
またヒロインとの恋愛描写も10数個のイベントがあるのみで付き合ってからのまともなデートイベントも無いキャラもおり、
さらには個別ルートすらなくED後に申し訳程度のエピローグが追加されるだけという始末。
それではADVパートが少ないのかと言うとそんなことはなく、その分シリアスな描写が多いのですが、
こちらも良いシナリオとはお世辞にも言えず、事件が起きそれを主人公たちが解決する描写がただただ続くのみ。
読んでいて苦痛とまでは言いませんが、かなり中だるみするテキストでした。
さらに付け加えて言うと、冒険者という設定が全く活きていません。
過去作において冒険者育成学校という設定は作品のファンタジー要素を補うと共に、
学生でありながら鍛錬に励みあちこち冒険するというRPGパートの理由付けにもなっていました。
ですが今回のシナリオの主題はバインド憑きが起こす事件を解決しながらバインドを集めるということであり、
冒険部という設定はバインドを集めるための仮の姿でしかありません。
実際作中では冒険をしている描写はほとんど無く、サブクエストで火山や雪山に行ってもテキストは一切無し。
それどころか「バインドは力が足りず町から遠くへは離れられない」という設定により、
余計に冒険とは程遠いスケールの小さな物語になってしまっています。
本編最後の「冒険に行こう!」という白々しいセリフには、乾いた笑いしか出てきませんでした。
ファンタジーな世界観にもかかわらず同人やらゲーセンやらのイベントがやたら多いことから考えても、
夜が来るのような現代の学園を舞台とした異能バトルものにすればよかったのではないでしょうか。
「ぱすてるチャイム」を「パステルチャイム」に変えたことから
メーカー側も何らかの意図を持って作風に変更を加えたのだと思いますが、
作中からはどのような意図を持っていたのか窺い知ることはできませんでした。
また、RPGからSRPGに変えた意図もよくわかりません。
公式ブログによるとかなり初期の段階でSRPGにすることが決まっていたらしいのですが、
基本的に面クリア方式で進むSRPGは、上で触れた育成や冒険という
ぱすチャシリーズの特徴と相性のいいシステムとは言えません。
実際に出来上がったものも、たった8人の仲間を操り何の深みも無い戦闘をこなしていくというもので
前衛が敵と殴り合い後衛が前衛を回復しつつ遠距離攻撃をしかけるという、
一般的なRPGの戦闘に移動という要素を加え面倒臭くしただけの内容になってしまっています。
操作キャラが少ないのはバインドというシステムを組み合わせたからかもしれませんが、
このバインドも戦略性という点でもキャラへの思い入れという点でも
キャラ数を少なくしてまで実装すべきだったのかは疑問です。
それならばバインドというシステムは今後の作品のためにとっておいて、
今作は普通のSRPGのように多様な職種のキャラから選んで出撃させるというシステムでよかったのではないでしょうか。
以前ランス・クエストの感想でも同じようなことを書いたのですが、
作品から制作者の「こういうゲームを作りたい、ここを楽しんでほしい」という意図が伝わってくれば
こちらとしてもそういう意図を汲んだ上で楽しむことができますし、
多少不満点があっても肯定的に評価することができます。
ですが上でも少し書いた通り、パスチャ3からはそのような意図が伝わってこない。
シナリオはお粗末で、キャラゲーとして楽しむには描写が足りず、ゲーム部分は言わずもがな。
他所のレビューなどを見るとアニメ化やコンシューマー化を意識したのではないかとも言われていますが、
正直コンシューマー化やアニメ化に耐えうる内容だとは思えません。
またライト層を意識したのではないかとも言われていますが、
過去のアリスの作品と比べてみてもボリュームを少なくしただけで質は良くなっていないどころか落ちており、
これでライト層を意識したというのはユーザーを舐めていると言うか、単なる制作者の怠慢にしか思えません。
かなり厳しいことを言ってきましたが、これも過去多くの名作を生み出してきたアリスのゲームだからこそです。
もし今作が無名のメーカーから出ていたら、ほとんど話題にもならず私も買っていなかったかもしれません。
アリスには作品を買う人の多くが過去の作品でファンになった人たちであること、
アリスというメーカーに期待しているからこそ買い続ける者がいるということを認識してほしい。
そのようなアリスの今後に未だ期待を持ち続けている者の一人として、
少々厳しすぎるかもしれませんが、あえて50点という評価を付けさせていただきたいと思います。