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myself6さんの終わる世界とバースデイの長文感想

ユーザー
myself6
ゲーム
終わる世界とバースデイ
ブランド
コットンソフト
得点
89
参照数
2420

一言コメント

相変わらず神ゲーというには一歩及ばない出来ですが、誕生日になったらもう一度やりたいと思える名作です。オカルト→SF→成長物語と変化するのですが、最初のオカルトのノリで来ちゃうとEDがビターエンドなのが引っかかるかもしれません。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

展開的に近いのはリトバスで、テーマ的にはうろ覚えですがレコンキスタあたりが近いかもしれません。
中盤別ライターのせいでなかだるみがひどくて、終盤になって一気に盛り返すあたりもリトバスに似てましたね。あれほどひどくはないですが。
終盤の上手さは流石ウナトミー。
正直終盤だけなら100点上げてもいい出来なのですが、それだけにそれに至るまで経緯が今一というかおなざりだったことが残念でした。

あと何といっても曲の良さですね。このゲームの5割ぐらいがシナリオの良さで出来ているとすれば残りの5割はほぼ曲の良さでしょう。
始めた時は電カレの「夏の終焉り」を聞いてテンションを上げていましたが、全て終わった今となっては「Happy birthday to…」の方が好きになっていました。
「Happy birthday to...」はただでさえ名曲なうえにシナリオとの融和度が半端なくてほんともうどうしようもないです。
OPEDともに名曲なので曲だけでもぜひ聞いてほしいですね。


欠点として上でも書いた中盤の中弛みに加えて、全般的に古いことも挙げられます。
キャラ設定自体はラノベオタやヒキニートとかも居て、システムにtixiもあってそこそこ目新しさもあるはずなんですが
今時もはや珍しい鈍感主人公だったり、「言うな~」を連呼する掛け合いだったり、青山ゆかりだったり、絵の出来が今一だったりといったあたりにものすごく古臭さを感じました。
あと、”なる”の「フヒッ」っていう掛け声自体はいいんですが、青山ゆかりの「フヒッ」にはすごい違和感を感じます。
具体的にいえば(あれ?「フヒッ」は可愛い感じで演るのか……でも、BBA声だしなぁ………う、う~~~~~ん………)といった心境です。


以下、ネタばれ有りで。















ハッピーエンドが欲しかったという意見をちらほら見かけるのですが、私はこの話にハッピーエンドは蛇足だと思います。
というか、このゲームにこれ以上のエンディングはあり得ないと考えています。

詳しくは後述するとしてその前に終わる世界とバースデイというタイトルの意味を考察していきます。

このタイトルには主に二つの意味がありますが、まずは冬谷イリについてでしょう。

彼女が自分を人工意識体だと認識した彼女は千ヶ崎入莉とは違う別の個体として”誕生”します。
厳密には誕生日と名前をもらったことによって”誕生”したと考えたいところですが、ひとまず意識として存在したのはこの段階でしょう。
別人となった彼女ですが、入莉から遠ざかるどころかむしろ入莉に限りなく近い存在になり、「誰にも迷惑をかけたくない」という二人が想像もできなかった入莉の本心を知ります。
そうして仮想世界を終わらせることで、自己を凍結しようとする。

イリが”誕生”することは入莉の願いを知ることにつながり、それは”世界の終わり”を意味する
これがまずひとつの終わる世界とバースデイの意味だと思います。


そしてもう一つはトウヤ達についてです。
トウヤは入莉を殺してしまった自分を、陶冶はそれを防げなかった自分を責めて、入莉をよみがえらせようとします。
彼らは実際に入莉に近い存在を作り仮想現実まで作り上げてそこでの無限ループを成し遂げます。
しかし他ならぬ入莉の願いによってそのループに未来がないことを思い知らされます。

  「”彼女”ならきっと、兄さんたちや他の人たちを巻き込んで、この箱庭で生きることを望まないと思うから」
  「”彼女”はたとえ優しくなくても、皆が懸命に生きている現実を愛していたんだって…」
  「わたしは、そう思います」

入莉との楽しい暮らしがどんなに恋しくてもそれは過去のことであり、前を向いて歩きださなくてはいけない。
イリは仮想世界を凍結し、パスワードまでかけて二度と開かなくしますがそれぐらいしないとトウヤ達が歩きだせないと分かっていたのでしょう。
「生まれ変わったみたいな」という表現がありますが、ほとんど入莉をよみがえらせるのが全てだったトウヤにとってその変化は生まれ変わるのとほとんど同じようなものです。

”世界を終わらせる”ことによって初めて過去と決別し、懸命に現実を生きられる新しい自分に”生まれ変わる”
これが終わる世界とバースデイの二つ目の意味です。




現実世界に戻ったトウヤは記憶を取り戻したにもかかわらず『入莉を人工意識体として再現する』計画から降り、フリーのプログラマーとして生きていけます。
イリを失った悲しみを胸に抱きながらも、ようやく現実を生きる新しい自分へと生まれ変わることができたトウヤ。
ラストシーンでイリがスカイタワーを使って大々的にHAPPY BARTHDAYの文字を映し出したのも、そんなトウヤに対して「おめでとう」が言いたかったのでしょう。
---Happy Birthday さあ一緒に全ての終わりとはじまりを告げる歌を歌おう
という歌詞の意味もそこでようやく理解できて危うく涙腺がやられかけました。


  「ハッピーバースデイ、兄さん。お誕生日心からお祝いいたします」
  「今日からまた、新しいあなたの始まりですね」



とまぁ、こんなわけでやはりこの物語は成長物語だと思います。
この手が大好きなのもあってか、細かい粗を含めて考えても満足いく出来でした。

あと、EDは文句のつけようのない神曲なんですがそれでも文句をつけるとするなら曲名を happy barthday to... にすべきでしたね。