一人の人間の人生を書ききった、本当の意味での成長物語
強い意志と心を持った人間を物語に参加させるのは簡単です。
そのようなキャラという「設定」で物語の中にポンと配置してしまえば事足ります。
キャラ達はどんな苦難にも負けずに勇敢な振る舞いをしてくれるでしょう。
しかし、こんなキャラ達がいくら活躍した所でどこか遠い話のように感じてしまいます。
彼らはあまりに人間味が無いからです。
なぜそんな意志と心を持つことができたのか?
彼らにはどんな過去があり、そこで何を思い、どう成長したのか?
これらは普通の物語ではなかなか語られない以前に、そもそも考えられてすらいないことも多いです。
たまにこれらが語られてもほんの少しのダイジェスト版でとても感情移入出来るレベルではないのが一般的でしょう。
おそらく今作はそういった「背景のないキャラ・人間味のないシナリオ」に対するアンチテーゼとして作られたのではないでしょうか。
ところが一人の人間を描き切るのは並大抵のことではありません。
時代によって住む場所もやることも変わってくるでしょう。
私が今作で一番評価しているのは、様々な場所・時代で主人公がそこに合わせた生き方をしていた点でした。
例えば、不死の国では奴隷だったのが、城では姫になります。
かと思えば、インディアンと同じ生活をしてみたり退魔師になってみたりとまるでバラバラです。
このバラバラの生き方をそれぞれ違和感なくかき分けられるのはライターの腕なんでしょう。
途中で声質が一気に変わったのも高評価でした。
声優の演技力って凄いですね。
また万夜らしい、ある種醒めたところのある世界観も物語にリアリティを持たせるのに役立っていたと思います。
例えば、エルクが種族を裏切ったのは良い生活がしたいというかなり利己的な行動でしたし、ミルディオームがマリーに刃を突き立てた時も情にほだされることはありませんでした。
もっといえば、エルクは愛情や仲間よりも自分の生活を取り、ミルディオームは過去を悔むほど成長してもなお恩や後悔よりも死の恐怖に負けたわけです。
正の感情や道徳よりも自分を優先してしまうのは人間ならむしろ当たり前のことです。
しかし、その当たり前のことを当たり前に書いているところがこの作品を作る暗い雰囲気をかたどっているのだと思います。
ところでゾワボ視点の追加シナリオはいらなかったというレビューを見ててふときづいたのですが、今作はゾワボの成長物語でもあったのではないでしょうか?
ゾワボは主人公を長年見守り続け、たしかに好きでした。しかし、主人公を殺すのが彼の使命なわけです。
何回も試行錯誤し、ループすることである種主人公に支えられながらも彼自信がまた主人公を殺す意志と心を持つことができたのだと思います。
まぁすこし話がバラけてしまっているのは否めませんが、ゾワボは好きだったので追加シナリオは個人的にはありでした。
さて、ここまでで終われば100点つけたいところなのですが、100点を付けるにはこの作品はあまりに味気ないと思います。
と言うのも、「ここだ!」と言えるワンシーンがまるでないのです。
マリーやギュスターヴが死ぬ場面、主人公が死を決意する場面など名シーンになれる場面はあるんですが、どれもいまいちインパクトにかけています。
おそらくこれはBGMの影響もあるのでしょう。無限煉姦で耳に残ってるBGMなんてタイトルで流れるあれだけですし。
と言う訳で、全体的に完成されたシナリオではあるんですが、際立った場面が無いということでこの点数になりました。
歴年の名作と比べても引けを取らない出来なので是非やってみてください。