シナリオに癖がなく読みすすめやすい。だが結末に関しては記憶に残りづらかったり、納得できなかったり。ファンタジーものとして魅力的。
総評
全体的にシナリオに良い意味でも悪い意味でも癖がない。良い意味ではシナリオがとても読みやすい。ファンタジー的な要素が強いが、用語や物語の背景も理解しやすく、フィンルート以外はとても読みすすめやすかった。
悪い意味では印象に残りづらい。特にエンドは言葉にしにくいラストばかりで、記憶に残るエンドが少ない部分が残念。BADももう少し先で終わって欲しいなと思ってしまうようなものばかりで物足りなさがある。
スチルは美しいものが多くて好き。キャラの立ち絵も個性が出ている。
✩グランルート
一番運命らしいというか、そういうシナリオだったように思えた。
お互いを補い合うというか、まさしくグランが騎士で、グランとリカの関係性もとても好きでした。
BADエンドも美しくて好き、一番印象に残っているエンド。
それとグランルートのフィンが好きでした。
✩ヴィクトルルート
グランとの対比のように黒魔法の一族を毛嫌いするヴィクトルにルート序盤は不快感すら覚えた。
だがその態度を改め、リカのことを色眼鏡を付けずに見て好きになっていく過程はとても良かった。
ヴィクトルが冷たい態度の内側に隠している熱情が見えてくるのも読んでて楽しく、純粋にふたりの恋愛を応援したい気持ちでした。
✩キャルルート
根底に「善悪」や家族的なものも含めた「愛」があってとても好きなシナリオだった。
この世界で黒魔法の一族に生まれてきた、血筋に刻まれた原罪と向き合うキャル。善いことをしたら原罪は消えるのか。そんなこともなく、彼の中で善いことをすることは人に嫌われたくないからだと結論付けられたこと、とても好き。そして生まれてきたことへの罪に対して、
「このまま自分を罰していても、きっとこの苦しみに終わりなんて来ないよね」
そういう答えを出せたキャルの成長が本当に好きな物語でした。結局原罪は元から存在するのではなく、自罰的な意識に宿るのかなと。その意識を手放せたからこそ、キャルは苦しみに終止符を打てたのだと思う。
シナリオが進んでいく中で独りで生きなければならない、という人への不信感に裏付けされた感情が消えていく過程も物語として素晴らしかった。
余談にはなるが、キャル、「祝福の賛歌」という名前を大切にしているのが本当に好きだった。し、重すぎるまでの罪を生まれたときから背負わされている人間がこの名前を背負って生きていくこと、そしてシナリオの最後には名前の通りの生になったこと、それも含めて好きとしか言いようがない。
✩シルヴァルート
シルヴァの二面性と、その二面が絡み合ったリカへの態度が好き。シナリオも好み。
慈愛と幸福、生きる理由。シルヴァもリカも、生きる理由を互いに押し付けるのではなく、自分のために相手に無償の愛を贈る姿が好きだった。
特に一番最後の選択肢、流されるように生きてきたと語るリカがシルヴァに薬を差し出すシーンが好きだった。何かを失ったときに誰かのせいにしない為に、自分のために生きていく。という結論を出せる美徳。
反対にBADは自身の未来と人生の結末をシルヴァに押し付けて、シルヴァも生きる理由をリカにする話。対比として嫌いじゃなかったです。
✩フィンルート
序盤はとにかくこの物語の解説、総括的な要素が強い。今までのルートより読みづらくはあったが明かされてきた前提条件のおかげで理解できないことは少なかった。ルート自体の長さはほぼ他と変わらないので、恋愛描写が今ひとつだったのが残念。だけど決してつまらなくはなかったです。
END1の結末は嫌いではないけど好きにもなれなくて、なんとも言えない。それとシルヴァルート(もしかしたらグランルートも)以外で結末後まもなくしてリカは死んでしまうことになるのでは?と思って、この結末を用意したことに少しの憤りを感じています。どうなんだろう、これの救済となるような話ってあっただろうか…
そして何より、リカの原罪は赦されていないんじゃないかと思ってしまった。リカは攻略対象と違い、魔珠を飲み込んでしまったことが罪であり、それが許されることはないのか?
シナリオの内容に関して。フィンの執着は以前から見え隠れしていたが、過去のフィンの憎しみと現在のフィンの愛情が入り混じった不器用な愛し方。自分の感情を自分で理解出来ていなさすぎる姿、可愛い。
どうしようもなく卑屈で理解し難い態度とそれを理解しようとするリカの対話が好き。
赦されたいのではなく、償いたい。自分の犯した罪に対する答えは他人からの赦しではなく自身での償いとその先にある自分からの赦しにある…
END2後追記
1000年前から激しい憎しみや戦いの中に身を置いていたフィンだからこそ、日常の尊さを感じられるシナリオだった。足りないと思っていた恋愛描写もある程度補完されたかなと思ったけれど、やはりtrueとしての要素が強い。それでも充分面白かったので満足。
「生まれ持った罪なんてない。罪だと名付けて呼べば相手を傷つけてもいい、償いを求められると勝手に思っているだけで。自分で罪だと名乗るのも同じだよ。償えば許されると信じて、救われたがっている。どちらも自分の、弱さなのに」
キャラクターは特別に好きな人はいないが、強いて言えばフィン。ルートに入ると他キャラがあまり関わってこない感じのシナリオだったので他ルートでの執着をグラン・シルヴァルートでしか見ることが出来なかったのが残念。
シナリオとしては圧倒的にキャルが好きでした。
恋愛ものや乙女ゲームとしてよりも、読み物として得るものがあって好きでした。「生まれ持った罪」をないと否定してくれる作品、好きです。
ただ肝心な恋愛部分に惹かれなかったこと、記憶に繋ぎ止める為にこうして感想を書いている程度には(フィンルート以外)あまりにも印象に残らない物語だったこと、結末に対しての憤りからこの得点。
結末に至るまでになんらかのカタルシスを感じることができたら一気に評価が上がったかも。ただただ衝撃が大きかった…
それでもキャルルートを読めてよかったです、満足。