多少の欠点はあれど女装潜入物の中でも屈指の出来栄え
■作品傾向タグ■
男性主人公(学生)・寮生活・人外(オートマタ)・女装潜入
■作品構成■
選択肢ゼロの一本道
AIの進化により人工知能、『マザー』によって国の舵取りが行われるようになった時代、
そして同時に地球での行き過ぎた自然破壊と汚染に対抗するかのように宇宙から侵略してきた
『ガイア』と呼ばれる機械生命体と一死一体の攻防を繰り広げている時代
マザーによって発案された『男女隔離法』によって完全に女性上位の社会が形成された日本を舞台に、
男性である主人公が女性のみで構成される保安隊になる為の教育施設、アカシア学園に
マザーによって招集を掛けられるところから物語が始まる
男性区と女性区という男女で住みわけがされ、男性に対して厳しい法的対応が取られる世界で、
果たして主人公は女性だらけの学園内で無事に生き残れるのか
■作品内容評価(良かった点)■
まずミニョン氏が手掛ける淡いタッチのキャラクター造形が非常に秀逸で、
セリフ内の表情差分も細かく切り替わり読んでいて非常に臨場感を覚える良い構成となっていた
キャラ内では個人的には主人公の妹であるヤエカが造形、声、性格などがかなり好みで、
シナリオのアシストを大きく受けたミクもかなり気に入っている
また特筆すべきはやはりシナリオ構成の出来で、これに関しては事前に公式サイトの筋書きからは
想像もしなかった展開に久方ぶりに胸が高鳴った
ライターがNYAON氏の時点でどこまで行っても酷い出来のものにはならないだろうという安心感は
あったのだが、それがまさか氏の過去の作品群からは少々想像し得ない角度からパンチが飛んできて、
ここ数年の間になかなか味わえていなかった清々しいノックダウンを味わえた
加えて世界観設定的にもバレてもなんだかんだと受け入れられる緩い女装潜入物ではなく、
見つかればガチで命の危険があるというのも新鮮味があって個人的にはそこも大きく評価したい
エロに関しては歩氏が担当していることもあってかしっかりと声付きで描写されているのも
一粒で二度おいしい女装潜入物の醍醐味をこれでもかと味わえる良い構成であると思う
ただ構図や衣装パターンが対象キャラ2名という少なさに対して遊び心が無さ過ぎた点は勿体ない
■作品内容評価(悪かった点)■
世界観設定からして読者を引き込むパンチ力があり、その威力を損なわない程度によく配慮されて
全体的に構成もされていたとは思うが、細かい所で微妙に勿体ないなと思わされる点もそれなりにある
例えば世界観設定の根幹をなすガイアの侵攻部分の描写が、物語の2割程度進んだところでぱったりと
無くなり、その後はフェミニスト集団との確執を描写することに終始してしまっているので、
必然その分舞台が異常に狭くなった上に地球外生命体との戦争中、登場人物たちはその為の兵士に
なる為に訓練をしている、という命がけの緊迫感と言ったものは全く表現されていない
勿論今作は男女隔離され、フェミニズムが幅を利かせる世界で命がけの女装潜入を決行する、
というのがメインプロットではあるのだが、何故そんな世界観になったのかの裏付けである
ガイアの襲来、何故ガイアが襲ってきたのかなどの部分は作品中ではほとんど手が触れられておらず、
結局AIの進化は「愛」によってもたらされるというよくある詰まらない言葉遊び程度に
とどめてしまったのは正直残念で仕方がない
言い換えれば、男性的な活躍が作中で一切取り上げられないので、一男性の視点からすると
設定上存在はしているのにシナリオ上にほとんど男性が出てこず、また活躍も描写されないので
読んでいて何とも歯がゆく感じた
あとは良い点の方にも少し触れたが、シーン対象となるミクとアカリという二名のキャラ数に対して
エロシーンの構図と衣装パターンが少なすぎる点が気になった
特に唯一のスパッツルックのミクを上手く描写しなかった点は万死に値する(スパッツ狂)
■総評■
新たな女装潜入物の金字塔誕生を素直に喜びたい
あらすじから読み取れる内容だと、最近話題になっていた女性だけの街を作るクラファンのような、
ゆくゆくは街全体のメンテナンスが行き届かなくなって崩壊していく様子をもう少し詳しく
描写していって、主人公がそういった所に手を加えつつ地元の男性から教えてもらったんだよ、
男性も皆が思ってるほど悪くないよ、的な活動をしていく中で物語が進んでいくのかと持っていたのだが
これが蓋を開けてみれば全く全然違った展開で良い意味で裏切りを味わえたことにとても満足している
ただ悪い点にも書いた通り、やはりガイアの存在はもう少しシナリオで使ってあげても
良かったじゃないかとも思う
特に自然、生物の侵食率によってガイアの攻勢が変わることに主人公が気が付いたり、
女性たちに気に入ってもらうために男性たちが危険を冒して自然動物の肉を狩っていたり、
結局フェミニストたちが望んだ世界が自分たちを危険にさらしている、といったような
巡り巡っての因果応報の描写が何か一つあれば良かったんじゃないかとも思う
また悪かった点でも述べた通り、従来の女装潜入物によくある男性的な魅力で主人公の株を上げる
ような描写は今作では一切存在しないので、そういった描写をしやすくするためにも
幼少期より経験してきた実戦というスキルをもって、ガイア達と相対する描写が
もっとあっても良かったのではと感じた
ただ今作の最大の売りである"予想の裏切り"という視点で考えた場合、今のまま完璧や面白さを目指さずに
このぐらい緩い方が良かったのかもしれない
個人的にはヤエカやリンのキャラがよく出来ていた分シナリオを対フェミニストから
対ガイアの重厚寄りにして個別ルートを設けた方が良かったかもと思わなくもないが、
Orthrosが今後作品を作っていく中で今作が良い指標になって、
より良い作品が生まれる可能性が大いに増したことは間違いないだろう
次の作品も期待したい