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morufaさんのクナド国記の長文感想

ユーザー
morufa
ゲーム
クナド国記
ブランド
Purple software
得点
83
参照数
567

一言コメント

世界観の構築が甘い所があるが作品全体としての完成度は十分

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■作品傾向タグ■


ファンタジー(現代から1000年後)・異能バトル


■作品構成■


優里、茜・葵、春姫と順にフラグを折ることで進む構成

1000年の眠りから覚めた主人公が、その頃の日本とはかけ離れた文化文明を築き上げている
カントという都を舞台に、鉄鬼と呼ばれる異形の存在を相手に戦うことしか知らない住人たちに
新たな夢と希望を与えていくお話

と見せかけて主人公の出自や鉄鬼の謎など、フラグを折り続けることで世界の秘密が少しずつ
開示されていくほぼ一本道のプロット


■作品内容評価(良かった点)■


設定だけしか登場せずに内容が明かされずに放置されたり作り込みが甘い部分がありはするが、
作品全体の印象を形作るために必要な世界観設定は十分作り込まれていたように思う

特にこの手の題材でよくある現代とは異なる文明に主人公が新たにメスを入れるという展開は
近似作品で言えばFluoriteの『ソーサレス*アライヴ!』が全体的な構成と比較しても非常に
似通っており、あれが楽しめたのであれば同様な感想を抱く可能性が高いと言える

全体的なテキストフローも非常に読みやすく構成され、地の文と各キャラのセリフ回しも
無理のない範囲でスムーズに繋がっており、継読力を損なわず物語世界に長く浸りやすかったのも
流石御影氏といった所か

特に個人的に感心したのは個人的には初めてになる御影氏の戦闘描写
こういった現実離れしたファンタジー要素を含む戦闘描写は無駄な装飾が付きすぎて実際に読む
段階になると何が行われているのかすんなりと理解できない場合が多いが、今作は少なくない回数
の戦闘描写が登場する割にはどれもどのような人が動き、技が繰り出され、結果どうなったのかが
非常に分かりやすく、かといってチープな内容に陥らずにいい塩梅に展開されていたことが
とても素晴らしい

御影氏の神髄は深層描写にこそあると個人的には思っていたのだが、いやはやこちらの才能も
あるのかと純粋に感心してしまった

ヒロインに関しては個人的には主人公との出会いを経て一番成長した優里が特に魅力的に映った
一番分かりやすい形で"カントの住人"としての変化を体現させていた点もあるし、
主人公の改革の先駆けとして常に一番傍に寄り添い続けていた彼女の魅力は今作ではピカイチで
あったように思う

双子に関しても優里と同様成長という要素で魅力を表現できていたのでこちらもポイントは高い
特に物語序盤から愛される馬鹿を地でいくように描写され続けた茜の成長幅は非常に魅力的で、
半面葵の茜が行動の基準であるという軸が最後までブレなかった点は少し残念に感じる

春姫に関しては物語の構成上センターヒロインらしからぬ動きが多かったので良い面も悪い面も
あるのだが、今回は悪い面として後述しておきたい


■作品内容評価(悪かった点)■


まず冒頭でも軽く触れたが、十分とは言いつつも世界観の構築の弱さが若干気になる
特に斥候組三名を使わずにそのままにしたのは個人的には勿体ないなという思いを強く抱いた
中でも最年長で春姫の相談役もしていた稔二の存在は実際に登場させて、年長者ならではの
矜持と物語が描けたように思うのだが・・・

また良い点でもふれたとおり、今作の最終ルートともいえる春姫の魅力が少々物足りない
センターヒロインでもあり今作を最初にミスリードさせる役割も担っており、どのルートでも
登場回数も多く、個別入りする前から既に一定量の描写がされていたことに加え、それが
個別ルートに入っても大して差別化されなかった点が、今作に置いて春姫が大してキーに
成り得ていないという大きな欠点へと繋がっている

というより、主人公と夏姫という攻略対象ではない登場人物が物語のキーを担い過ぎており、
フラグ折型の最終章を担う春姫に今作特有の何某かの役割が一切与えられず、ただ主人公の
最愛の人というポジションだけに留めてしまっていたのが最大の失策だったと言える

加えてこれもありがちな設定故にインパクトというか、納得感が薄れる展開なのだが、
今作における敵役である鉄鬼の存在理由と何故人を襲うのかという理由が予測の範疇過ぎて
最後の最後に明かされる内容としては力が弱すぎる点も問題だ

後は単純に誤字脱字も多いし、アクターと台詞の違いも数か所見つけられたので
この点は純粋にマイナスだろう


■総評■


個人的には好きな設定のオンパレードで満足感は非常に高いが、一作品として分解、批評していくと
どうしても細かい不満点が積もっていく惜しい一作

先史文明の滅んだ今より技術が劣った世界観や、そんな文化文明に主人公が手を加えるという
設定は個人的には大変好きな設定なのだが、如何せんこの手のプロットは手垢がそれなりに
ついており、今作に限っても結末周りは私の予想の範疇を超えなかったなとただただ残念

ただ個人的な嗜好で言えばPurple softwareの作品では一番好きな作品になったのは間違いない
これに関しては恐らくあまり賛同が得られない点や個人的感情が含むので一切点数に反映は
させていないが、御影氏の過去作でよくみられる作品全体を通しての長い深層描写より、
単話調で特定のスパンで細かく切れる描写の方が個人的には御影氏の魅力は上がると感じている

今作の場合主人公が手をだす文明改革のおかげや、それに合わせて各ヒロインが段階的に成長を
遂げていく描写をしやすくなってので、より氏のテンポ良く小気味良いテキストが映えたように思う

勿論従来作品の濃厚な描写も悪くはないしそれはそれで今の氏の特徴でもあるのだが、
戦闘描写の一件を見るとどうもこちらの畑での挑戦をもう一度して欲しいと個人的には願ってしまう

時代の流れもあり新しい分野への挑戦自体がしづらくなってきているが、Purpel softwareと御影氏
には、そんな流れに負けずにこれからも挑戦し続けて欲しいと願わずにはいられない