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morufaさんの約束の夏、まほろばの夢の長文感想

ユーザー
morufa
ゲーム
約束の夏、まほろばの夢
ブランド
ういんどみる
得点
76
参照数
1022

一言コメント

テキストは良いが、チラホラと穴が目立つ。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

■作品傾向タグ■


学生主人公・夏・田舎


■作品構成■


「どの子が一番気になる?」の選択肢1回の同時派生型。
共通は話数での区切りは無くアイキャッチでの場面転換が主に進んでいく。
ヒロイン毎の掘り下げもほとんど存在せず、一応一定期間毎に各ヒロイン順番に主人公との
集中的な会話ややり取りが挟まる程度に収まっており、キャラへの愛着が深まる場面は
非常に少ない構成となっている。


■作品内容評価(良かった点)■


同時期発売で同じく夏、田舎のタグを取り扱ったみらーじゅそふと発『君とつながる恋フラグ』
と比べ、夏のうだるような暑さ、田舎特有の開放的な土地や閑散とした町並みなどの描写面は
今作に軍配が上がる。

また静止ではあるが業界屈指のE-Mote技術を下地にした動線も他社と比べ高水準に収まっており、
こういった過去のノウハウが作品に受け継がれていっていることが解る点はさすがの老舗と
いったところであろうか。

また相変わらず攻略対象ではない魅力的なサブキャラクターを多く排出する同社らしく、
今作でも祭や歩など脇を固める魅力的な脇役達が大活躍していた点も見逃せないだろう。
両者ともメインヒロイン達とは違った個性と魅力を持っており、物語世界を邪魔せず
いい塩梅で盛り上げてくれた、まさに縁の下の力持ちに相応しい活躍を見せてくれた。


■作品内容評価(悪かった点)■


あらすじなどの事前情報からわかる範囲内で提示された物語の風呂敷の大きさと、
実際作中で展開された物語世界の大きさの差異が少々大きすぎた点が目に付く。

幼馴染の間でしか使えない特殊能力、謎の旅行者の登場、その旅行者に能力が使えてしまう謎、
神社で見た幻視の巫女の正体、掻き消えた記憶の謎等々、ざっと思いつくだけでもこれだけの
ピースがあるわけだが、実際読み始めてみるとかなりのスピードで完成形に向けて
ピースがパチパチと嵌っていく。

嵌っていく過程も紆余曲折、ミスリードやトリックなどは存在せず

1+□=3

のような解りやすいムシクイ算のムシクイ部分を、

「適当に夏を満喫していればその内解るだろう」

という、謎を仕掛けた側から怒られそうなスタンスで終始物語が進んでいくので、
忙しい現代人にとってはある種のニーズに適った構成ではあるかもしれない。

キャラに関しては星里奈の一部立ち絵の構図が酷く、正面を向いている構図はレスラーのごとき
肩幅となり、特に寝巻きの浴衣姿などはその恰幅の良さに思わず噴出してしまった。
性格も剣道少女、武闘派少女のイメージからかけ離れたボケ寄りの引き出しを
多く持たせたかと思いきや、可愛い物好きというド定番な属性も付与しておりアンバランス感が
拭えない。

各個別でもルート毎の良し悪しは割りと明暗分かれており、個人的な好き嫌いは別にして
渚沙とTrueっぽい雰囲気をかもし出している(実際そう思っても差し支えは無いが)りんかが
一番良いと感じた。

ただどのルートもそうなのだが、個別に入ると魅力的なサブキャラクターである祭と歩の
登場回数が激減するので、あの二人で支えていた屋台骨が一気になくなってしまう個別ルートは
正直どのルートに入ってもかなりのダメージを負ってしまったことは非常に残念だ。

ちなみに個人的嗜好では陽鞠が一番ヒロインとしては好きだったのだが、マルチライターの
弊害か、場面場面によってかなりの振れ幅でテキストが崩れるので正直なところかなり
まずい域に達していたと感じた。正に船頭多くして船山に登るといった所だろうか。


■総評■


良い部分も悪い部分もういんどみる"らしい"と思える部分が多かったように思う。

歴戦の猛者である諸兄らに向けては、

「HHG"以外"の風車作品と同じ」

といえば大体察してくれるだろうという妙な安心感を持てる作品、とも言えるだろうか。

別段長々と理由を述べてまで語るような悪い部分も無い代わりに、同じようにして良かった部分を
他社作品を例に出してまで列挙するような作品でもなかったという、同社らしさがこれでもかと
にじみ出ていたように思うので、そういった部分を事前に理解できているのではれば
手に取る価値は十分あるといえるだろう。

・・・ただ正直なところ、HHGクラスの作品も早い所拝ませて頂きたいところである。