ミドルプライスに胡坐をかいてしまった一作
個人的には『キミの隣で恋してる!』以来となるハニカムの新作。
タグは妖や神といったファンタジー要素を主軸とし、こまごまと嗜好属性に巫女やケモミミなどが混ざった感じの
パワー不足を感じさせるラインナップ。
ヒロイン全3名の初期ロック後、巴ルートが再度開放されこのルートがグランドエンドとなっており、
3つのルートではそれぞれのヒロインが抱える問題の解決や、物語の謎を一部解き明かす程度の内容に
留まっていること、またミドルプライス作品特有のボリューム不足から、作品に対する印象は
正直なところ余りいい部分が無い。
まず主人公が絶望的とまでは行かなくとも、何の力も持ち合わせない理想論を振りかざすだけの子供のような
描かれ方をしているので、こういった点を要素として受け入れられない人はかなりのダメージを負う事になるだろう。
加えて問題発生から解決までの流れが全てサブキャラクターを主軸に展開される為、主人公が妙案を
閃く事による打開といったような分かりやすい場面も存在しない為、悪い印象が一向に払拭されない。
結局主人公の力で何かを成す事が作中においてほぼ存在せず、強いて言えば稲荷下ろしの家系の末裔と
しての血が巴を引き寄せた、ぐらいの要素にしかなっておらず、近年稀に見る空気系主人公であった。
ヒロインに関してもデザイン自体は非常に可愛らしく、演者さんたちのお陰で魅力的に映っていたのだが、
如何せん乗せられたシナリオがバリカタインスタントラーメンの様な仕上がりなのでどうにも悪い部分ばかりが
目立ってしまう結果となっていた。
特に霞ルートがひどく、主人公へ好意を寄せるきっかけとなる要素の弱さに加え、私の脳が悲鳴をあげる程の
ハイスピード展開される筋書き、そして謎のハッピーエンドと、
「あ~、大分好き勝手書かせてもらってるんだなぁ」
と、なにやら逆に暖かい気持ちにさせられた。
最後に総評となるが、ラスボスの撤退が早過ぎる点や先にも挙げたようにサブキャラが物語の
中枢部に食い込み過ぎている点等、上げていけばキリが無いほど粗が多く、正直本当にハニカム文庫の
作品か?という疑いの方が大きくなる結果となった。
ミドルプライスゆえに生まれる起承転結のバランス取りの難しさが今作では見事に未達成で、
それどころか起承転結の転が主人公不在で繰り広げられる為一切の情動が発生し得ない。
テーマ的には人と人ならざるものとの恋愛模様、という分かりやすくもそれだけで特定の読者を狙い打てる
力強い構成要素であったはずなのだが、蓋を開けてみればいつの間にかスタッフロールが流れているような、
言うなればアンティパスの後にドルチェが出てきたような感じだろうか。
ハニカムという看板に押しつぶされないような力作を次回では期待したい。